第107話 謎の襲撃者

 謎のメイド少女を退しりぞけ、シンヤたちは取り引き現場であるアルスタリア港の物資置き場の奥へと進んでいた。相変わらず辺りには大きな木箱に入れられたみ荷が、大量に置かれていたという。


「あのメイドなんだったんだ? あやしさ満天だったし、銃の腕もなかなかでいろいろツッコミどころが多かったが」

「まあ、無事に退けたということでよしとしましょう! さあ、この調子で取り引きもちゃっちゃと終わらせましょうか!」


 イズミは軽い足取りで先導してくれる。


「だけどさっきのメイド、不穏なこと言ってなかったか? もう一人いるみたいな」

「シンヤさんにかかれば、誰が来ようともばっちり護衛してく……」

「はっ!? イズミ!?」

「え?」


 イヤな予感がして、とっさにイズミを抱き寄せる。


「シンヤさんなんですか!? いくらワタシがかわいいからといって、そんな急に大胆なアプローチを!? お姉さん、困っちゃいますよー!?」

「いや、あれ」

「な、ナイフ!?」


 積まれていった木箱には、ナイフが刺さっていたという。

 もしシンヤが抱き寄せなければ今ごろ、イズミの同体にあのナイフが刺さっていたはずだ。


「もしかしてあのままいたらワタシやられてました? あれれー、これやばくないですか?」


 イズミは顔を青ざめながらたずねてくる。


「ああ、向こうは確実にやりにきたみたいだ。ッ!?」


 ナイフが飛んできた方向を見ると、フードをかぶり仮面を付けた女が積み上げられた木箱から天高く跳躍。上空からイズミに狙いをさだめ、ナイフを投てきしようとしていた。


「次がくる!? とにかくいったん逃げるぞ!」

「は、はい!」


 イズミの手を引き走る。

 敵の俊敏な身のこなしの前には、遮蔽物に隠れたとしてもすぐに回り込まれ的にされかねない。ゆえに走って逃げつつ、なんとか護衛対象を安全なところにつれていかなければ。

 シンヤたち目掛けてナイフが次々と襲い掛かってくるが、走ってギリギリのところでやりすごしていく。


「シンヤ!? 待ってよ!? あわわ!?」


 トワがついてこようとするが、飛んでくるナイフに思うように動けないみたいだ。

 その間にもシンヤたちにはナイフの強襲が。


「イズミさん、止まって」


 足を止めると目の前を六本のナイフが通過していった。もし止まらなければ、何本かくらっていただろう。

 シンヤのホークアイによりナイフの軌道を事前に把握することができるため、やり過ごすことに関してはなんとかなりそうだ。


「向こう本気だしすぎではありませんか!? シンヤさん、どうにかしてくださいよ!?」

「そうしたいのは山々だが、せろ!」


 とっさにイズミを伏せさせる。

 次の瞬間、彼女の頭部があった場所をナイフが勢いよく通過していった。


「ひっ!?」


 そして彼女の手を引っ張り再び走る。

 するとまたもやイズミがいたであろう場所に、投てきされたナイフが突き刺さっていった。依然襲撃者は積まれた木箱の上を足場に跳躍し回り、ナイフの投てきを。


「あの動き。守りながらだと、さすがに反撃はキツイか。いったんイズミさんを放置していいか?」

「今のなしで!? 今投げ出されたら、瞬く間にナイフの餌食になっちゃいますよ! あの敵のノリノリっぷり、なにしでかしてくるかわかったもんじゃありません! ワタシの身の安全を優先してください! お願いしますからー!?」


 イズミがシンヤの腕にしがみつき、泣きついてくる。


「ッ!? こっちだ」


 進行方向にナイフの雨が降りそそいだ。

 なのでシンヤたちは通路を右折し、逃げ続ける。


「なんで通路のど真ん中にコンテナが?」


 しばらくすると通路に、不自然な大きい木箱が置かれていたという。

 そこへナイフが一本不自然な木箱へと飛翔し、突き刺さった。すると木箱の正面部分がバタンと倒れ中から。


「トラップかよ!?」


 なんと十二本のナイフが、シンヤたちを蜂の巣にしようと一斉に撃ち出されたのだ。

 すぐさまイズミを通路端はしへと引っ張り、放出されたナイフをやり過ごす。


「なんだこれ?」


 そこへなにかがシンヤたちの足元に落ちてきた。

 それは金属でできた小さな丸いなにかであり。


「あの子なんてものを持ち出してきてるんですか!?」


 イズミは血相を変えて、落ちてきたものを上空へと蹴とばした。


「シンヤさん、あれを威力を押さえた銃弾でさらに上にはじけませんか!?」

「わ、わかった」


 彼女の指示通り、リボルバーで蹴とばされたものを撃つ。出力を押さえた弾丸は目標を空高くへと弾き飛ばした。 

 その直後、丸い物体は爆発し破壊をまき散らす。


「おいおい、まさかあれグレネードかよ!? なんであんなものがあるんだ!?」

「なにを考えているんですか!? これらはアマネ商会で取り扱う商品たちなのに、危うく爆発に巻き込まれるところでしたよ!?」


 イズミは敵の攻撃方法にぷんすか怒りをあらわに。


「くくく、つい手元が狂ってしまったよ。まあ、無事退(しりぞ)けられてなによりだ」


 そこへ襲撃者が悠々と歩いてきた。


「誰だ!?」

「自分はそうだな。しがない凄腕のエージェントだ。わけあってその女には痛い目にあってもらう」

「痛い目どころの攻撃じゃなかったですよ!? ヘタしたら死んでたかも!」

「くくく、あの程度で死ぬたまじゃないだろ。さあ、続きを楽しませてくれ」


 襲撃者はイズミの文句を笑い飛ばし、ナイフを器用にクルクル回しながら攻めてこようと。


「させるかよ」


 これ以上好きにさせるわけにはいかない。即座にリボルバーの銃口を敵に向け、引き金を引いた。

 しかし襲撃者はせまりくる銃弾を横ステップで紙一重に回避し、そのまま目にも止まらぬ速さでシンヤのふところへ。そしてナイフによる刺突を繰り出してきた。そのキレ、精度はずば抜けており、相手の力量の高さが容易にうかがえる。もはや常人なら反応できないまま、すれ違いざまに斬られていただろう。

 だがシンヤはホークアイにより斬撃の軌道をいち早く見切り、寸でのところで刃をかわしてみせる。そこから横を抜けていった襲撃者の背後目掛けて、銃弾をお見舞いした。


「ふっ」


 しかし襲撃者は積まれた木箱の上へ飛び乗ることで、シンヤの攻撃を回避。

 その背中にさらに撃ち込むも、相手は空高く跳躍。そのままシンヤの頭上を弧を描くように飛び越えていき、先ほど現れた場所へきれいに着地した。


「おいおい、なんて身のこなしだよ……」


 リボルバーに弾丸を込めながらも、敵の動きに驚愕(きょうがく)する。


「はぁぁ!」

「ほう」


 そこへトワが剣を振りかざし、敵へと飛びかかる。

 彼女の斬撃に対し襲撃者は軽やかに跳躍し、かわした。

 

「勇者のお出ましか! くくく、ではそろそろ遊びは終わりにしようか。風刃(ふうじん」


 襲撃者がナイフを一閃した瞬間、飛翔ひしょうする風の刃がトワへと放たれる。

 魔法で大気を圧縮した風の刃は、触れればたちまち深々と切り裂かれるほどの破壊力を有しており、標的目掛けて一直線に飛翔していく。


「こ、この!」


 トワは襲い掛かる風の刃を剣で受け止め、そのまま力任せにはじき飛ばす。

 彼女の身体スペックはかなり高いため、わりと力技でなんとかできてしまうみたいだ。


「ほう、まっこうからあれを防ぐとはな、おもしろい」

「そこだ!」


 襲撃者が積み上げられた木箱に着地した瞬間を狙い、銃撃を。


「ふっ、そら、風刃」


 しかし相手はナイフで弾丸をはじき、そのまま飛翔する風の刃を繰り出してきた。

 風刀は飛翔速度はかなりのものであり、吹き抜ける一陣の風のごとく。気づいたときには切り裂かれているほど危険なもの。

 シンヤはホークアイで軌道を見切り、紙一重にかわしてみせる。


「シンヤごめん、おまたせ」


 トワはシンヤたちへと駆けつけ、臨戦態勢を。


「トワ来てくれたか。気を付けろ。あの敵、かなり手ごわそうだぞ」

「くくく、依頼主を守りながらどれだけ戦えるか楽しみだ。このときのために、さっきの爆弾のようなおもしろいおもちゃを持ってきたんだ。試しに使わせてもらおう」

「そこのアナタ! 正々堂々戦いなさい!」


 ナイフをきらめかせ不敵に笑う襲撃者に、イズミが指を突きつけ文句を。


「本来力量をはかるのが目的だが、表向きは取り引きしようとする商人への襲撃だからな。プロとしてはオーダー通り、アナタを狙わないといけないんだ。いや、かなしいな、くくく」


 襲撃者はわざとらしく肩をすくめ、ニヤニヤしだす。


「やっぱりわざとですか。まったく、ずいぶん楽しまれているみたいですね。狙われるこっちの気もしらないで、この子ときたら……」


 なにやらこぶしを震わせ、こめかみをピクピクさせるイズミ。


「ではパーティーを始めるとしようか! 楽しませてくれよ!」

「くるぞ!」


 襲撃者が再び攻撃を仕掛けてこようとする、まさにそのとき。


「あー、もういいいです! そこまで!」


 どういうわけか、イズミの静止の声が響くのであった。


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