第46話 街の散策

 シンヤたちは馬車で送ってもらい、無事交易都市アルスタリアに到着していた。今は入口の門をくぐり、メイン通りに出たところである。

 目の前の光景はもはや圧巻の一言。行きかう人々の数。店や露店の数。そしてなによりその活気あふれるさま。これまで訪れた街や村とはくらべものにならないほどの規模であり、さすがは大都市というべきか。しかも外観もあちこち凝っており、立ち並ぶ街灯。立派なオブジェの数々。さらに店の外装もおしゃれなものが多く、テンションが上がらずにはいられなかった。


「遠くからでもそうだったが、近くで見るとより壮観そうかんだな」

「はい! 早く街を見て回りましょう!」


 リアが興奮のあまり、シンヤの上着のそでをクイクイ引っ張りながら急かしてくる。


「リア、まず教会の方にあいさつしに行くんじゃないのか?」


 リアはフォルスティア教の関係者なので、いったんアルスタリアにある教会のほうに顔を出しておきたいと言っていたのだ。そのためまず彼女の用事を済ませてから、ゆっくり街を見回ろうという話になっていたという。


「えへへ、そのつもりでしたが、この光景をみたら、いてもたってもいられなくなりました! 少しぐらい寄り道してからでも、大丈夫ですよね!」

「ははは、きっと大目にみてもらえるさ」


 うでをブンブン振りながらはしゃぐリアの頭をポンポンして、ほほえみかける。


「うん? そういえばトワのやつは?」


 そこでふと気づいた。さっきまですぐそばにいたトワの姿が、見当たらないのだ。


「あれ? さっきまですぐ隣に……」


 二人であたりをキョロキョロ見渡す。しかし彼女の姿は見当たらなかった。


「あっ、あそこにいました!」


 ふとリアが後方の方を指さす。

 その先には路地裏の方で隠れながら、おそるおそる街の様子をうかがっているトワの姿が。なので彼女の方へ向かい、声をかけた。


「トワ、そんなところでなにしてるんだ? こっちに来いよ。アルスタリアの街中、ほんとすごいぞ」

「――え、えっと……、わたしはここからでいいかなー、あはは……」


 するとオロオロしながら、ごまかすように笑うトワ。

 そんな彼女をメイン通りの方へと引っ張っていくことに。


「いや、そこからじゃ、ほとんどわからないだろ。ほら、こっちへ来た、来た」

「ちょっと!? シンヤー!?」


 トワはシンヤに引っ張られながらも、バタバタして抵抗を。

 あれだけアルスタリアの街に目を輝かせていたトワだが、なぜ今はこんなにもイヤそうにしているのだろうか。


「――う、うぅ……」


 なんとかトワを、メイン通りの方へ連れ出すことに成功する。しかし彼女はすぐに立ち止まり、街の景色を見ながら固まってしまう。

 感動でもしてるのかと思いきや。


「ひー、やっぱりムリムリ!? わたしにはレベルが高すぎるよー!」


 トワはシンヤの背中へ隠れるようにしがみつき、泣き言を。


「おい、まさか……」

「そのまさかだよ! こんなにも大勢の人がいるなんてー。もう人混ひとごみで、酔いそう……」


 これも彼女の極度の人見知りのせいなのか。かなりぐったりしていたといっていい。


「おいおい、しばらくここに滞在する予定なのに、この先大丈夫なのか?」

「この際、もっと小さい街を拠点にするのはどうかな?」

「いや、アルスタリアみたいな大きな街のほうが、なにかと都合がいいだろ。却下だ、却下」

「そんなー」


 がっくり肩を落とすトワ。


「トワさん、どうしたんですか?」


 リアが心配してシンヤたちの方へと駆け寄ってきた。


「トワのやつ、こういう人が大勢いるところに慣れていないらしいんだ。それでかなり居心地が悪いんだと」

「でもその気持ちわかります。これまでこんな大都市に来たことなかったので、あまりのにぎやかさに目が回りそうですよ」


 リアが少し困った笑みを浮かべる。


「だよね! だよね!」


 そんなリアの手を取って、力強く同意するトワ。


「そこらへんは慣れだろ。さっ、街中にくり出すぞ」

「あ、はーい!」


 一人メイン通りを進んでいくと、リアがタッタッタッと元気よくついてくる。慣れてない状況に困惑はあるが、大都市に対する興奮と楽しみが勝っているようだ。


「ちょっとまってよー、シンヤ!? リアちゃん!?」


 トワはトワで置いてけぼりはイヤだと、涙目で追っかけてきた。

 そして三人でアルスタリアの街中を歩くことに。


「やっぱ大都市は活気があっていいな」

「ですね! もうテンションが上がりっぱなしです! わくわく」


 リアは物珍しげに辺りを見回しながら、むねをはずませる。

 対してトワはというと。


「――そ、そ、そうだね、あはは……」

「おい、トワ、さっきから歩きづらいんだが? そろそろ離れてくれないか?」


 彼女はオドオドしながら、シンヤの腕に抱き着いていたという。


「ええ!? お願いだよ! ここでシンヤに離れられると、いろいろまずいんだよー」

「どういうことだ?」

「こうやってシンヤのぬくもりを感じていると、不思議とすごく落ち着くというか……」


 シンヤの腕にさらにぎゅっと抱き着いて、どこか満ち足りた表情をするトワ。


「とにかく! 精神面の負担をカットするためにも、もう少しこういさせてよー」


 そしてトワは瞳をうるうるさせ、必死に頼み込んできた。


「あー、わかった、わかった。もう好きにしてくれ」

「えへへ」


 少し投げやりになっていると、リアがシンヤの空いた腕に抱き着いてくる。


「リア、どうした?」

「――え、えーと、ちょっとトワさんがうらやましいなーと思って」


 はにかんだ笑みを浮かべ、チラチラとシンヤの方に視線を向けてくるリア。


「え?」

「ほ、ほら! リアもあまり人が多いところに慣れてないし、ちょっと心の平静をですね! それにこうやってくっついてたら、迷子になることもないじゃないですか!」

「たしかに」

「えへへ、じゃあ、シンヤさんのお許しがでたということで、遠慮なく甘やかせてもらいます! ぎゅー!」


 リアはさらにぎゅっと抱き着き、シンヤの腕にほおずりを。


(おぉ! これがウワサに聞く、両手にはなというやつか……)


 そして三人で歩きながらも、改めて現状をかえりみる。

 正直、全然悪い気はしなかった。むしろこんな夢のようなシチュエーションを体験できて、あまりの感動に涙がでそうなほど。


(――だけど少し周りの視線が痛いな……)


 さっきからすれ違う男たちに、あんな美少女たちとイチャイチャしやがってという嫉妬しっとに満ちた視線がすごかったという。


「まあ、変なやつにからまれなければ、これぐらい全然……」

「おう、そこのガキ。こんな街往来でかわい子ちゃんといちゃつくとは、いいご身分だな」

「って、言ってるそばから、来やがった!?」


 油断していると、いかにもガラの悪い連中がからんできた。

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