第39話 フローラとの別れ

 シンヤたちはリザベルトの街に戻り、すぐさま教会の方へと向かっていた。

 そこで回復魔法による治療を受け、今現在これまでの経緯を説明するために、この教会の代表者であるリアの祖父の執務室へ。

 ちなみに報告に向かったのは、シンヤとフローラ。リアはベッドで休んでおり、トワに関してはシンヤに丸投げ。人見知りのせいでうまくしゃべれないのと、そもそも邪神の眷属けんぞくの復活を阻止できなかった。勇者としてこの結果はかなりよろしくない。責められたらイヤだと、シンヤに泣きついてきたのであった。


「これがあの場で起きた全容です」

「――まさかそんなことが……。邪神の眷属が復活しただけでなく、やつと同様の存在までもが現れるとは。もはや悪夢どころではないな」


 リアの祖父はこめかみを押さえながら、深いため息をつく。


「すみません。私の力が及ばないばかりに……」

「オレとトワもお役に立てず申しわけない……」

「いえいえ、フローラさまはもちろん、キミたちもよくやってくれた。一番の脅威であったあの魔人を、たった二人で倒したのだろう? 勇者の名に恥じない、見事な活躍ぶりじゃないか。だからそう自分たちを責めないでくれ」


 頭を下げるシンヤたちに、リアの祖父は手で制しながらほほえみかけてくれる。


「――ははは……、そういってもらえると助かります」


 勇者がいたのにも関わらず、なぜ邪神の眷属の復活を止めれなかったのだと責められるとばかり思っていた。だがリアの祖父はきちんと評価してくれ、ねぎらいの言葉まで。これには感謝せずにはいられない。


「むしろ謝るのはワタシの方だ。作戦がここまで裏目に出るとは……、もしもっと兵を同行させていれば、ああも敵の思う通りに行かなかったはずだ。それに異変に気づき増援を送ろうとしたときも、ミルゼ教の信者たちの妨害でうまくいかず……」


 今度は逆にリアの祖父が頭を下げてくる。

 実はリアが連れ去られ邪神の封印が解かれ始めたとき、教会側はすぐに増援を送ろうとしてくれたらしい。だがそこへこの街に潜伏せんぷくしていたミルゼ教の信者が、襲い掛かってきたとのこと。それで教会側は思ったように動けず、シンヤたちの加勢に来れなかったのだ。どうやらハクアたちは、かなり入念に邪神の眷属の封印を解く計画を立てていたらしい。


「過ぎたことは仕方ありません。今はこれからのことを考えなければ」

「その通りだ。各国と連携し、対策をらねば。これ以上邪神側の思い通りにさせるわけにはいかない。さっそく教会の方に事態の報告をしてこよう」

「ええ、私も王都に戻り、くわしい報告と今後の対策を話しあってきます」

「頼みましたぞ」


 こうしてシンヤたちは報告を終えて、執務室を出た。


「さてと、責められるとビビッてたトワに、大丈夫だったって伝えてくるとするか」

「シンヤくん、その前に少しいいかしら」


 トワのところへ戻ろうとすると、フローラが声をかけてきた。







 教会内は邪神の眷属であるミルゼの復活により、みんなバタついていたのだ。なので落ち着いて話せる、教会の中庭の方へとレイジたちは来ていた。

 リザベルトの街に帰るときはまだ不気味な赤黒い空であったが、今では星々が輝くきれいな夜空が広がっていたという。


「ようやく空がいつもの調子に戻ってきたみたいね。これで街の人々も少しは安心できるかしら」


 フローラは空を見上げ、ほっと胸をなでおろす。


「そうだな。封印が解けて魔物たちが、街に一斉になだれ込んでくるみたいな最悪な事態にならずに済んで、本当によかった」

「ええ、事態は急を要すると思ったけど、これなら対策を立てる時間が取れそうね」

「対策か。でもミルゼって子、案外話が通じそうだったからな。怒らせずにうまく接することができれば、わかり合えるかもしれないな」


 友達になってくれそうだったミルゼの反応を思い出す。もしクラウディアが邪魔しなければうまくいけそうな雰囲気だったため、今後もがんばってみるべきだろう。


「いろいろ思うところはあるけど、話し合いで解決できるなら越したことはないかもね」


 どこか複雑そうな表情を浮かべるフローラ。

 かつて人類が受けた被害をかえりみるに、そう簡単に割り切れるものではないらしい。


「まあミルゼに関してはワンチャンレベルだけど、あのハクアってやばい子はけっこう可能性があると思うんだ。なんかかなり友好的だったし」

「そうね。あんなに熱烈に言い寄られていたものね。そしてシンヤくんの方も、まんざらではなさそうだったしね」


 フローラはジト目を向けながら、少しとげのある口調で言ってくる。


「――あ、あれはだな……、ははは……」


 そのことに関しては否定できないため、ポリポリほおをかくしかない。


「でもわかり合えるみたいな考えを持てるのは、すごいわよね。ただでさえ相手は人類の敵である、邪神側の人間なのに。私たちにはさすがにできそうにないわ」

「同じ境遇ゆえのシンパシーがあるからな。それでなんか親近感がわいてくるというか」

「ふーん、そういうものなのかしら。それはそうとシンヤくんたちって、こことは別の世界から来たってことでいいのよね?」


 フローラがシンヤの顔を、興味津々といった感じにのぞきこんでくる。


「実はそうなんだ。女神さまにこの世界を救うため、送り込まれたって感じでさ。ちなみに昨日が、その初日だ。そしてまったく環境が違う場所にいきなり放り込まれ、右も左もわからない状況下でフローラに出会ったってわけだ」

「え!? そうだったの!? それならそうと言ってくれればよかったのに!」


 フローラは心底驚きうったえてくる。


「いやいや、いきなり別の世界から来ましたなんて言っても、普通信じてもらえないだろ?」

「でも素直に話してくれていたら、たぶん納得してたと思うけどなー。ふふふ、シンヤくんの独特な雰囲気やあの初々しさが、物語っていたもの」


 口元に手を当て、ほほえましそうに笑うフローラ。


「そんなにも出ちゃってたのか」

「ふふふ、それはもう。――はぁ……、そしたらもっといっぱい気遣ってあげたのに……」


 楽しげであったフローラだが、ため息をつきながらどこか悔しそうな表情を。


「いや、十分すぎるぐらい気遣ってもらってたけど」

「そんなことないわ! 街についてからは、ほとんどほったらかしだったもの! シンヤくんはいわば外から来たお客様。この世界の住人として、もっともてなさないといけなかったはず! なのにろくに説明もせず、案内もしなかったなんて……。とんだ失態だわ……」


 フローラはこぶしをにぎりしめ熱くかたる。そしてひたいを押さえて、がっくり肩を落とした。


「ははは、そんな大げさな」

「いいえ! お客様はお客様でも、わざわざ別の世界からこの世界を救うために来てくれたのよ! その恩にはむくいないと!」

「そんな気落ちする必要ないぞ。実際あれだけ親身に接してくれて、いたれつくせりだったんだ。ほんと感謝しかないよ。というかあれ以上甘やかされてたら、完全に沼でヤバかったって話だ、ははは」


 グイっと詰め寄り力説してくるフローラに対し、シンヤは腕を組みながらうんうんとうなずきながら笑った。

 いろいろ案内してくれて、一文いちもんもなかったシンヤに金銭面でのサポートを。宿屋の手配から、お小遣いまでどれだけいたれりつくせりだったか。しかも高価である銃の手配までしてくれようとしていたのだから、もはや頭が上がらないレベルであった。


「そう言ってもらえるのはうれしいけど、やっぱり私としてはまだまだしたりなかったわ。せっかく来てくれたんだもの! いろいろ案内したり、知ってもらったりして、どうせならこの世界のことをもっと好きになってほしかったのに!」


 プルプル身体を震わせながら、さぞ深刻そうに後悔の念を口にするフローラ。

 彼女としてはあまりに物足りなかったようだ。その姿はまるで禁断症状が出ているかのようであった。


「だからこの先シンヤくんたちについて行って、ガイドとかしたかったんだけど……。ごめんなさい。さっきも言ったけど、私一度王都に戻って報告とかしにいかないといけないの。だからここでお別れしなくちゃ」


 フローラはスカートのすそをぎゅっとにぎりしめながら、申しわけなさそうに目をふせる。


「そっか。今まで本当にありがとな。この世界で初めて出会ったのがフローラで、ほんとよかったと思ってる」

「なんだかテレちゃうわね。でもお礼をいうのはこちらの方よ。いつもは立場的に特別扱いされて、ちょっと肩苦しい思いをしてばっかだったの。でもシンヤくんもトワちゃんも気兼ねなく接してくれて、すごく居心地がよかったわ。それにパーティーに入れてもらって、あこがれてた冒険の気分も味わえたし。ふふふ、もっとみんなで一緒に旅をしたいって、思っちゃってるほどなんだから! 


 シンヤの心からの感謝の言葉に、フローラは両胸をギュっと押さえ幸せそうにほほえんだ。


「そんなに気に入ってくれてたのか。じゃあ、オレたちのパーティーのフローラの席は、ずっとあけとくからいつでも参加してくれていいぞ。ヒマなときとかに、ちょっとだけでもとかさ。一緒に冒険しようぜ」

「それはすごくうれしいのだけど、いいのかしら?」

「フローラはもうオレたちの仲間だろ。遠慮なんてしなくていいさ。フローラはすごく頼りになるし、いるだけで場がはなやかになるから、こっちとしてはもう願ったり叶ったり! 大歓迎だぜ!」


 彼女の不安を吹き飛ばすかのように、親指を立ててニッと笑う。


「――仲間……。そうよね! じゃあ、そのときはお言葉に甘えて、お邪魔させてもらうわ! そうしたら今までしたりなかったおもてなしもできるし、いいことづくめ! よし、そうと決まればシンヤくんたちがこの世界を満喫まんきつできるように、いろいろ準備しなくちゃ! ふふふ、腕がなるわね!」


 するとフローラは仲間という言葉をかみしめ、ぱぁぁっと目を輝かせる。そしてガッツポーズしながら、不敵にほほえんだ。


「ははは、そっちに関してはお手柔らかにな。ヘタしたらフローラなしでは、生きられなくなってしまうかもしれないし」

「ふふふ、シンヤくんったら! そのときは私が責任を持って面倒見てあげるから、心配しないでね!」


 ウィンクしながら冗談めかしに笑うフローラ。まるでお茶目で優しいお姉さんだ。


「さてと、名残惜しいけどそろそろお別れの時間ね。本当はもっとおしゃべりしたかったんだけど。シンヤくんのいた世界のこととかすごく気になるし」

「それはまた今度、フローラがパーティーに参加してくれたときにでもゆっくり話そうぜ。いくらでも付き合うからさ」

「ふふふ、それじゃあ、次会えるときを楽しみにしてるわね! じゃあ、シンヤくん、いったんここでお別れよ。元気でね!」


 フローラは手を差し出し別れの言葉を。

 そんな彼女の手を取って、シンヤも別れを告げる。


「ああ、フローラもな。また会おうぜ」

「ええ、絶対に!」


 二人で握手あくしゅして笑いあう。一緒に冒険する日々に、思いをはせながら。

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