第3話 転生!?

(あれ? ここは? オレは確か女の子と一緒に落ちて、それから……)


 意識が戻ると、目の前には現実ではありえない光景が。

 そこは暗い空間に、星々が輝いているような場所。まるで宇宙の真っただ中に放り込まれたような感覚である。ちなみに身体は動かせず、視点だけはなんとか動かせる状態であった。


「私はとある世界を守護する女神めがみ。あなたは死に、そのたましいをこちら側に連れてきた状況です」


 今の状況に混乱していると、目の前に神々しい巨大な青白い光のかたまりが。そして光の中から女性の声が聞こえてくる。


(女神? いや、それより死んだだって!? おいおい、ウソだろ!? 確かにあの高さから落ちたら、助かる見込みはなさそうだけどさ!?)


 衝撃的事実にショックを受けるしかない。

 実をいうと少し納得している自分もいた。女の子と一緒に落ち、そして最後地面に激突。痛みが走り、意識が消えたのをうっすらながら覚えていたのだから。おそらく身体が動かせないのも、死んで魂の状態ゆえなのだろう。


「これよりあなたには私が用意した身体に転生してもらいます。そして勇者として、あの滅びに向かっている世界をどうか救ってください」

(な、な、な、なんかとんでもない展開きたー!?)


 まるで漫画やゲームのような展開に、テンションが上がらずにはいられない。まさかごく普通のサラリーマンだった自分に、勇者となって世界を救うという大役が与えられるとは。


「身体の方にはすでにある程度の情報と言語などの知識。そして闇を払う力がそなわっていますので、それらを活用し勇者の責務をまっとうするのです」

(おぉ、しかも力までもらえて、いたりつくせりじゃないか! うまくいけば異世界で無双しまくり、かわいい女の子とイチャイチャすることだって夢じゃないかも!)


 心の中で思わずガッツポーズをしてしまう。


「任せてください女神さま! オレが勇者となって必ずその世界とやらを救ってみせますので!」


 もはやノリノリで女神のオーダーを引き受ける。

 これより勇者としての輝かしい異世界ライフが始まるのだ。もはや胸が高鳴ってしかたがなかった。


「ふふ、すばらしい返事ですね。では今からさっそく転生させます。どうかご武運を」

「いつでもおっけーですよ! 大船に乗ったつもりでいてください!」


 見送ってくれる女神へ、声高らかに宣言する。


「――ふぅ、これで最後の希望も旅立ちましたか。力もほとんど使い果たし。もう、これ以上勇者を送ることはできないでしょう。世界に干渉かんしょうできるのも、もはやこれまで……。頼みましたよ……」


 女神は一息つきながら、万感の思いを込めて告げる。


(あれ? なんかおかしくないか? オレまだここにいるんだけど)


 今の事態に困惑するしかない。今の女神の様子は完全に一仕事をおえた雰囲気。すでに勇者を送り届け、役目をおえたというような。だがそれはおかしい。なぜなら勇者のはずの自分はまだここにいるのだから。なのでおそるおそるたずねてみる。


「あのー、女神さま?」

「――はぁ、さっきからうるさいですよ。真剣にやっているところに、なにガヤを入れてきてるんですか? 天罰を下しますよ?」

「あ、あれー? つかのことお聞きしますが、先ほどの話って……」

「あれはあなたと一緒に死んだ、あの少女にしていた話です」

「な、なんだってー!? じゃあ、オレは勇者になれないってこと? バラ色人生の異世界ライフは?」


 もし身体が動くなら、ひざをつきがっくりうなだれていただろう。期待が高かった分、ショックもそうとうなものだった。


「もちろんありません。なのでお引き取りを。帰りたいと念じれば、おそらく戻れるはずなので」

「戻るって、オレ死んでますよね!?」

「そのようですね。またあちらの世界で普通に生まれ変われるので、心配しなくていいですよ」

「いやいやいや、じゃあ、オレ完全にムダ死にじゃん! あの子を助けようとしたせいで、すべてをうしなったっていうのかよ!? そんなのあんまりでしょ! 助けてくださいよー! 女神さまーーーー!」


 もはや泣きわめきたいどころの話じゃなかった。絶望に打ちひしがれながらも、女神に泣きつく。


「ほんとさわがしいですね。まさかあの子と一緒に死んだため、偶然にもここまでついてくることになるとは。でもこれはもしかするとチャンスなのかも」


 するとなにやら思考しだす女神。


「どういうことですか!?」

「簡単に説明しますと、私の見守る世界の法則にとらわれていない、別の世界の魂だからこそいろいろいじれるわけです。なので無理してこちらに魂を呼び寄せ、与えられるだけの力を渡して私の世界へと送り込む。つまり」

「オレも女神さまの世界に送ってもらえるということですか!?」

「そうなります。転生させるよりも、魂を呼ぶことの方が多大な力を使いますから。そう考えると一回の労力で、もう一人分追加できたことは私にとって大変よろこばしいこと。これを使わない手はない……。あなたが死んだことに、少なからず私も関係している気がしますし」


 女神はどこか申しわけなさそうに、とんでもないことをカミングアウトしてくる。


「それってどういうことですか!?」

「あのときあの少女が自殺したのは、私が指示したからです。すでに彼女とは転生して勇者になってもらう契約けいやくを結んでいましたので」

「それをオレが助けようとして……、な、なるほど……。というかそれで自殺しようとするあの子もあの子だよな。もしなにかの間違いだったら取り返しのつかないことに……」

「彼女は不治の病にかかっており、もってもあと一年ほどだったらしいので」

「あー、そういう事情が……、それなら……」


 顔色がわるく、どこか苦しそうにしていたのはそういうわけだったみたいだ。


「というわけであなたもうつわとなる身体を用意し、転生してもらいます。ただし条件付きでね」

「条件ってなんですか?」

「あなたには勇者の補佐ほさをしてもらいます。問題はどの勇者につかせるか。ふむ、ここはとりあえず連れてきた彼女にしましょう。今向かった勇者を陰ながらサポートし、導いてあげてください」

「補佐役……。あのー、勇者としては……」


 おずおずと打診する。

 転生させてもらえるなら贅沢ぜいたくはいえないが、どうせなら勇者という誰もがあこがれる役職につきたかった。


「もう私にはほとんど力が残っていないので、勇者の器を作るのは不可能です」

「まあ、転生させてもらえるだけでもありがたい話か……。わかりました。引き受けますよ」


 これ以上無理を言って機嫌をそこねでもしたら、最悪転生の話がなかったことにされかねない。それだけはなんとしてでも避けなければならないため、ここはおとなしく引き下がるべきだと判断した。


「よろしい。ではさっそく向かってください」

「うっ、意識が……」


 そして女神がオーダーを投げかけた瞬間、意識がだんだん薄れていくのを感じる。


「次にあなたが目覚めたとき、すでに転生していることでしょう。あの少女のすぐ近くに送っておくので、合流してください。ではご武運を」


 こうしてシンヤの意識は完全に途切れるのであった。

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