45. Winner take all 前編

『ホットドッグ』とは、ソーセージを細長いバンズに挟んだ食べ物のこと。

 ドッグとついているが、原料に犬は使われていない。

 ソーセージの形状を、犬のダックスフントに見立てて、ホットドッグと呼ばれるようになったとされている。

 しかし......


◇◆◇◆◇◆



 早朝のラーンワイズ邸の前に引きずり出された俺は、トールの前にひれ伏す。

 昨夜、リアの部屋にお邪魔していたことがバレたのだ。


「そのほう、何か申し開きたい事はあるか?」


 まるで、お奉行様ぶぎょうさまのような口調で迫るトール。

 ちきしょう!今度ばっかりは反論の余地も無い。


「すいませんでした!!出来心だったのです!魔が差したのです!」


 地面に頭をこすり付け、必死で許しをうしかない。

 もちろん、やましい事は何もしていないが、謝る時は徹底的に謝るのが大事だ。


「アハハ、まるで不倫した旦那さんみたいだよ?まったく、タスクはしょうがないなぁ」


「許して...くれるのか?」


「うん...悔しいけどリアって、私から見ても理想の人なんだよね。タスクが好きになっちゃうのも理解できるんだよ」


 しめた!これは許されそうな雰囲気だ。


「二人のことは応援したいし、邪魔しないように気をつけるよ。でも......何か寂しいって感じもあるんだよね。タスクが遠く感じるっていうか...」


 何度も困難を乗り越えてきたコンビだ。

 誰かを好きになったとしても、トールを傷付けるなんて、俺も嫌だ。


「俺達は仲間だろ?いつだって、トールの横には俺がいる。久しぶりにリアに会えて、ちょっと舞い上がってたんだ...ゴメンな」


 トールには、知っていてほしい。

 俺のリアに対する気持ちとか、その結末も。


「リアにさ、ちゃんと想いを伝えることが出来た時は、トールにも喜んでほしいんだ。勝手なこと言ってるって思うかもしれないけど、俺はトールのこと大事に思ってる」


「うん......上手くいくといいね。エヘヘ...フラれちゃったら、ご飯おごってあげるよ!いっぱい食べよ」


 こいつ!絶対フラれてなるものか。


「タスク君、トールは私の娘だし、リア君は教え子の子だ。どちらを泣かしても、私は許さんからな?」


「ベン!?急に出てくるなよ!」


「私の家の前だ。君は、打ち首!獄門ごくもん!!」


 フォックスオードリーに来てまで死刑宣告されてしまった。

 俺の恋愛運は呪われてるんじゃないだろうか。


「じゃあ父さんは政都に行ってくるからね。母さんを頼んだよ」


「うん、父さんも気をつけて」


 ベンは、学術都市の次期学長就任の挨拶で、政都へと向かうそうだ。

 トップになるため、政都の連中との社交も必要なのだろう。


「君の起こした騒ぎも、どうなっているか確かめてこないとね。では行ってくる」


 なんだかんだで、俺を気にかけてくれる良い人だ。

 深く頭を下げ、ベンを見送った。



"カフェ ふぇるなん"


 逃亡中とはいえ、何もしないまま過ごすわけにもいかないので、飲食店でバイトをすることにした。

 他の仲間は、それぞれフォックスオードリーを見て回るそうだ。


「よう新入りぃ!店長のフェルナンディーノ・オ・ミソーレ・フェルナンフィリエ・フェルナンディウスだ。よろしく頼むぃ」


「フェルナンディーノ・オ・ミソーレ・フェルナンフィリエ・フェルナンディウスなんて名前、一回で覚えきれるかよ!長いからフェフェでいいかな?」


「一言一句、完璧に聞き取れているぃ...フェフェでいいわけが無いだろぃ!店長と呼べ店長とぃ!ほれ、店長自慢のモーニングセットが上がってるぃ。客を待たせるなぃ!」


 呼び方はともかく、問題はこのセットだ。

 コッペパンとサラダ、そして味気ない野菜スープとゆで卵で700マニー。

 店のメニューは、強気のこれ一品のみ。

 朝だろうと昼だろうと、このモーニング以外の選択肢は無い。


「モーニングの定義すら存在しないのか。トールが家出した理由が分かったような気がする」


「何か言ったかぃ?」


 既に昼飯時は終わっているのだが、本日の客は五人しか来ていない。

 その客も、テーブルに本を広げて、何かの作業をしながら食べている。

 学業主体の都市だから、味には興味が無いのかもしれない。


「全然、仕事してるって感じがしない...逆に苦痛だ」


「おい新入りぃ!昼時も過ぎたし、何かまかない作れやぃ!」


 キュピィーーーン!!


 今、賄い作れって言った?言ったよな。

 これこれ、こういうのこそ俺の得意分野。


【タスクのバイト魂に火がついた】

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