42. Jailhouse Rock 後編

"政都バーナルド 牢獄"


「なりません!なりませんったらなりませぬぞ!お戻りください!」


「よいよい、そなたは知らぬフリをして、食事でもとってまいれ。ここでは何も起こってはいない...そうであるな?」


「そんな......どうなっても、知りませんよ?」


 警備員のケビンが、誰かと話している声が聞こえる。

 どうも強引に押し切られたようだが、いったい何者だ?

 コツコツとくつの音を鳴らし、謎の人物は近付いてくる。


「誰か来るぞ。リアへの刺客しかくじゃないだろうな?」


激怒げきどした王家から、タスク君に仕置しおき人がつかわされたんじゃないかしら?」


 リアルに怖いことを言うなっての。

 らせぬうらみを、密かに晴らす組織でもいるのか。

 鉄格子の向こう、現れたのは...


「ドラゴンを翻弄ほんろうし、悪魔を手玉てだまに取る。変幻自在へんげんじざいの小説家とは、そなたのことか?」


 きらびやかな服を身にまとい、高貴こうきな口調で話しかけてくる男。

 その顔には、泥棒のようなほおかむり。

 違和感のかたまりのようなキャラクターが出てきてしまった。


「変な噂を信じて、おかしな通り名で俺を呼ばないでもらおうか。怪しい格好をしている、あんたこそ何者なんだ?」


「ふぅん...かさがさねに無礼を働く男よ。に向かって、二度も愚弄ぐろうする言葉を発するとはな」


 頬かむりを脱ぎ去り、素顔をさらす謎の人物。

 貴公子然きこうしぜんとした風貌ふうぼうのイケメン。

 こいつはリアに見せたくない。


「二度?どっかで絡んだことあったか?」


「ちょっと、タスク君!その人は......」


 リアが慌てて俺を制止する。

 やはりイケメンには心奪われるってのか。


「左様、余の名はキャバリア・キングチャールズ・スパニエル。そなたが犬とののしった気高き王だ」


 おう!?王様!!俺を追って牢獄まで制裁を加えにきたのか。

 にしても、ずいぶんと若いな。

 どっちかと言うと、王子様ってツラだが。


「今、王の割には若いなと思ったであろう?」


「なぜ分かったんだ!?人の心を読むスキルを持っているのか?」


 だとしたら、何かを考えるのはまずい。

 無心、無心となって心をブロックするんだ。


「正直で分かりやすい男よ。早くに先王が王位を放棄ほうきしてな。いたし方なく余が王を......何だその顔は?余の話を聞いておるのか?」


「ココロ...ヨマレナイヨウ...ココロ...トザス...」


「話に聞く以上に型破りな奴よのう。心配せんでも、そのような能力はない」


 何だ、俺がマヌケなだけか。 

 王特有のスキルにも期待したのに。

 そもそも王様なんてジョブは無いか。


「それで、王様のキャビーが俺に何の用なんだ?」


「ちょっと、タスク君!王様をニックネームで呼ぶなんて...」


 名前が長いんだよ。

 今さら非礼を重ねた所で、どうってことは無い。

 もう開き直って、やけくそ気味に強気に出てやれ。


「キャビー...そのような名で呼ばれたのは初めてだ。フフフ、侍従じじゅう達が聞いたら卒倒するであろうな。以後、余の事をキャビーと呼ぶことを許そう!」


 許された?あだ名が気に入ったのだろうか。

 高貴なオーラはそのままだが、どこか子供のような無邪気さも感じる。


「余がここへ参ったのは、そなたの冒険譚ぼうけんたんを聞くためだ。そのためにカラーズから呼び寄せたのだからな」


「牢屋に閉じ込めておきながら、俺の話を聞きたいってのか?」


「余は王様だぞ!一度出た言葉は、そうそう引っ込めたりはせん!そもそも......」


 王様であることを誇張こちょうしているが、表情はゆるい。

 キングジョークなんて心臓に悪いや。


「そなたが登場シーンをぶち壊したのだろうが!!余がどれほど楽しみにしておったと思う?王である余の出番を丸々潰しよって。余にもしゃくを寄越さぬか!」


「いや...それは......ごめんなさい」


 王様のくせに、言うことが俗っぽい。

 確かに、あの場では俺が注目を集めてしまい、キャビーは登場すらしていないのだ。

 なんだったら家老のほうが存在感が出てるなんて、さぞ悔しかったことだろう。


「何なの?王様と普通に会話してるなんて、本来なら有り得ない事なのだけれど...まるで友達のよう」


 リアは呆れたように、頭に手を当てている。

 王と友達か、悪い気はしないな。


【タスクはこれまでの戦いを語った】


「そして、神の遺物アーティファクトによる一撃で、幻獣は大人しくなったのでした。めでたしめでたし」


 トラッシュデーモン、アスモダイ、フェネクス、キリンベアーと、振り返れば強敵ばかりだ。

 リアもキャビーも、目をキラキラさせながら話を聞いている。


「想像以上の激闘を経験してきたのだな。余も外の世界に出て、思い切り力を試してみたいものだ」


「やめとけやめとけ。キャビーなんかがモンスターと戦ったら、あっという間に地にいつくばる事になる。モンスターは、相手が王でも手加減してくれないからな」


「何を言う!余は強い!だが、政都から滅多に出られないだけだ」


 王様に自由は無いか。

 危険なモンスターに遭遇することなど、一生無いのかもしれない。


「それで?そなたはメフィストとも戦ったのであろう?なぜ、夏祭りでの戦いを話さぬ」


「あれは公式には無かった事になってんだ。夏祭りに戦いは無かった。平和で楽しい夜だったよ」


 あの祭りは、表向きはクリーンな思い出で終わらせたい。

 忘れたいシーンもあるし。


「メフィストの名前が出たってことは、夏祭りでの一件は知ってるってことだな。こっちからも一つ聞かせてもらおうか」


「許す、何でも申してみよ」


「リンカの親...『花火師』のソウエン夫婦が政都にいたはずだ。王位継承の儀ってのでポカやらかした」


「うむ...花火を暴発させ、怪我人まで出した事故だな」


「今どこにいる?リンカは両親に会いたがっているんだ。それに、あれは...」


 花火の暴発は、メフィストが仕組んでいた。

 奴は自分の欲求を満たすためだけに、リンカの父親を追い込んだのだ。


「悪魔の仕業なのであろう」


「...!?知ってたんなら、何で花火師が非難を受けるんだ!全部メフィストのせいじゃねぇか!」


「何度も彼から聞き取りを行ったのだ。熟練の花火師ともあろう者が、あんな失敗をするはずがない。何か別の要因が絡んでいるはずだ...と」


 キャビーの表情が曇り始める。


「しかし、彼はかたくなに自分の過失であると、悪魔の存在を認めなかった。王位継承の儀式に、悪魔がいては民衆が混乱する。花火師の失敗で終わらせる方が良いと、自ら汚名を被ったのであろう。ちまたでは、儀式は花火師が台無しにしたと言われている。だが事実は、彼によって救われたのだ」


「うぅ...何という男気なんだ。ソウエン、あんたの仇は俺達が討ったからな!」


 熱い何かが、頬を濡らしている。

 この部屋、雨漏りでもしてんじゃねぇか?

 取り出したハンカチで、リアが優しくぬぐってくれた。


「いや、生きておるぞ?密かに、娯楽都市ごらくとしアリバロに送っておいた。あそこは、政都とは対局の都市政策をしておる。非難の目に晒されることはなかろう」


 そのまま処されたのかと思った。

 アリバロか、いつかリンカを連れて乗り込んでやろう。


「余としたことが、そなたの話に夢中で忘れるところであった。そろそろ本題に入ろうか」


「ん?冒険譚を聞きに来たんじゃないのか?」


 今までの戦いは、ほぼ話した。

 これ以上となったら、適当に嘘を盛っていくしか...



「そなた達ふたりの処刑が、明日の朝一番で執行されることが決まったのだ」



「「そっちを先に言わんかい!!」」



【二人の処刑が告げられた】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る