34. Happy Face 後編

"カラーズの街 上空"


 浮遊のルーン『ソウェル』によって、カッコ良く空中戦をするつもりだったが...大誤算だいごさんだぜ。

 ぶっちゃけ遅い、水の中を泳ぐような感覚だ。

 この弱みはメフィストに知られるわけには。


「ヒハハ!フラついてるじゃないか!はっはーん、さては自由に空を飛べるわけじゃないな?ヒハハハハハハ!セブンソードイリュージョン!」


「ばっちりバレとるじゃないかい!」


 慣れない空中戦で、七本のナイフを回避することは不可能だ...ならば!


「我が身を守れ、原稿用紙ヴァルキリー!」


 ルーンによる遠隔操作、七本のナイフに七枚の原稿用紙で対抗する。

 全てのナイフは、紙の盾へと突き刺さった。


「パーがチョキに勝てるわけないだろう?突き抜けろセブンソード!ヒハハハハハハ!」


「俺のパーはチョキをつかめるんだぜ !勝てるんだなコレが!」


 ナイフにつらぬかれたかに見えた原稿用紙。

 だが、コイツの本領はここからだ。

 メフィストの意志で動き回るナイフ、そのの部分を包み込む。


「これでナイフは俺の制御下に置かれた。お前の技をそのまま返してやるぜ!おきてやぶりのセブンソードカウンターだ!!」


 刃を反転はんてんさせ、ナイフはメフィスト目掛けて飛翔する。

 いかに悪魔といえど、自分の技を受けるとは思うまい。


「ヒハハ!キミはトリックセンスの塊だよ。もっともっと引き出しがあるんじゃないの?」


 メフィストはこれを、ヒョイヒョイとキャッチしては放り、キャッチしては放っていく。

 起死回生きしかいせいのカウンターアタックを、事も無げにジャグリングで防がれ、原稿用紙も剥がされてしまった。


「ヒハハ!ちょっと数が足りなかったようだね。今度のは対応しきれるかなぁ!トゥエルブレードリッパー!」


 ナイフが七本から十二本に増えた?

 しかも、今度は高速回転しながら飛んでくる。


「ちくしょう!ルーンの防御スキルに対策してきやがったか!」


「これなら紙の盾で防げないよね?ヒハハ!キミはボクに逃げ場が無いと言ったけど、ホントに逃げ場が無いのはキミのほうじゃないのかい?」


「誰が逃げるか!俺はお前に立ち向かうために来たんだ!障壁しょうへきのルーン『アルギズ』」


「無駄ムダァ!その程度の防御スキルなんて、草をるがごとく、コマ切れにしてあげるよ!ヒハハ、切り裂けリッパー!」


 勢い良く回転する鋭利えいりな刃を、アルギズでは防ぎきれない。

 だから、これは防御のためのルーンじゃない。


「能力で空を『飛ぼう』とするからダメなんだ!基本は常に自分の肉体。発想力全開!うおぉぉ!」


 アルギズの刻まれた原稿用紙を壁として、これを蹴って空中で加速する。

 連続で空中を『跳躍ちょうやく』することで、迫りくる刃物を回避。

 これなら空中戦でも互角に戦えるはずだ。


「感心するよ。空での戦いに、もう順応したのか。よくそんな次々に考え付くものだね。ヒハハ!気持ちいいだろう?最高のショーだよなぁ、命のやり取りってヤツはぁ!ヒハハハハハハ!」


「そんな物騒なエンターテイメントは願い下げだ!行くぞ、俺のターン!紙々の連擊ヴァルキリースマッシュ!」


 原稿用紙を飛ばし、敵の周囲に配置完了。

 刻み込まれた『ウルズ』を発動させ、衝撃を撃ち放つ。

 戦女神達の一斉攻撃がメフィストをシバき上げていく。


「ゲボォ!ブヘェ!ヒャゲブゥ!痛いじゃないかぁ!ヒハハハハハハ!でも力の代償は、確実に肉体をむしばむ。ボクも痛いけど、キミはもっと辛いんじゃないかい?」


 複数のルーンを同時に駆使しての戦闘は負荷が大きすぎる。

 ゲームなんかじゃ魔力を消費するって言うが、筋肉痛みたいに体の中から痛みを感じるぞ。

 魔力って筋肉なのか?


「ヒハハ!考えている暇があるのかな?チックタックチックタック、時間は過ぎていく。持久戦なんてつまらない考えはよせよタスク!」


 さっさと勝負を決めたいのは山々なんですがね。

 襲いくるナイフの群れから、逃げる、逃げる、 逃げまくる。

 経験したことの無い立体戦闘に、ちょっと酔ってきた。


 どうしよう、次の作戦は『接近戦』に持ち込むことなのだが。

 至近距離なら、飛び道具は使えないはずだ。

 近づいてしまえば、どうとでもなりそうなのに。


「楽しいなタスク!笑えよタスク!こんな幸せな戦いは二度と無いよ?笑顔のキミを切り刻みたいんだ!ニンゲンの幸せをムチャクチャにしたいんだ!ヒハハ!キミの本当の力を見せてみろよぉ!」


「タスクタスクって、人の名前を気安く呼ぶんじゃねぇ!俺をヒーローか何かと勘違いしてないか?本当の力とか、都合の良い覚醒かくせいなんて無ぇわ!手持ちのカードで精一杯やるだけだ!」


「いいや!キミはまだ何か切り札を隠していそうだ。ヒハハ!それなら引きずり出すまでだよ。今度は百の刃でね!ハンドレッドダガーシャ!!」


 マジか、まだナイフの本数増やせるのかよ。

 メフィストの周囲を、無数のナイフが舞っている。

 そっちの方が、俺のパクりじゃねぇか。


「大嘘こくなっての!大袈裟おおげさな技名だが、そりゃ百本も無いだろうが!」


「キミの体に全部突き刺したあと、一本ずつ抜いて数えようか?ヒハハハハハハ!るキルゥゥゥ!!」


 これは正面から迎え撃つしかない

 この大技をしのげば、必ずチャンスはやってくる。


「勝負だメフィスト!ルーン解放!ラグナレクストォォォム!!!!」


 迫りくる百本の凶刃きょうじんに対し、ルーンの紙吹雪で巻き起こした嵐。

 購入した原稿用紙は百枚や二百枚じゃきかない。

 これが俺の力...ぜにの力や。


「ヒハハ!たまんないや!勝負勝負ショショショーブ!ヒリヒリ感じるぞ。キミの命が削れていく感触かんしょく、死の手触てざわり!ハゥアッハー!もっともっと先にイこうよタスクぅ!」


 ぶつかり合うナイフと原稿用紙の中を、き分けて進む。

 身体中に切り傷ができていくが、今は関係あるものか。

 フィールドを埋め尽くすほどの物量にまぎれ、悪魔への接近を試みる。


「ハァ...ハァ...ちくしょう、鼻血出てきやがった。目がかすむ、メフィストはどこだ?」


 右目がやたら痛いと思ったら、こっちからも流血している。

 すげぇ充血してたから無理もないか。

 これじゃメフィストの姿をとらえることが出来ない。


「ヒハハ!見つけたぁ!奇襲きしゅうするつもりだったでしょ?ダメダメ、ボクの方が全然速いね。キミの負けぇ!」


「しまった!防御を......」


「遅ぉい!これでチェックメイトだね!百にして一なる刃、ダーインスレイフ!!」


 複数のナイフが重なり合い、一本の大剣へと変化する。

 次の瞬間には、メフィストが魔力で振るう刃によって、俺の胴は一刀両断されていた。


「............ヒハハ?悪魔の目を欺くなんて、ニンゲン辞めちゃってるねキミ......」


「ハァ...ハァ...ふぅ、幻惑げんわくのルーン『マンナズ』を使った。俺のまぼろしにまんまと騙されたな」


 等身大の分身をおとりに、悪魔から一本取ることに成功。


「そして......ようやく距離を詰めることが出来たぜ。陰険いんけん悪魔め、ブチのめしてやるから覚悟しいや!」


 メフィストが使うのは飛び道具ばかりだ。

 これが勝利への作戦。

 ようやくおとずれた、絶好のチャンス。

 にやけた悪魔の顔に、ブラフマンを振りかぶった。


「ひどいよタスク!乱暴しないで!」


「トール!?......うぐぁ!!」


 トールの声色を使ってきたメフィストに、攻撃の手が止まってしまう。

 やられた、全ては悪魔の手の内だったのか。

 一瞬の油断、メフィストの手に握られたナイフが、俺の脇腹に突き刺さっていた。


「残念だったねタスク。始めから接近戦を狙っていたのは気付いていたよ。ナイフは元々こういう使い方するものだろ?大丈夫、急所は外しておいたからね。死ぬのはじっくりと痛みを与えてからだ。ククク...全部ぜぇーんぶ、ボクの計算通り!楽しんでくれたかい?勇敢なヒーロー君......ヒハハ!ヒハハハハハハ!」



 日が暮れる...夜が来る...祭り...花火...トール...痛みを......感じない.........



【日没のカラーズに悪魔の声が響き渡る】

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