19. Mighty dragon 後編
ドラゴンとの戦いは終わった。
しかし、本当の地獄は、激戦でボロボロになった状態での下山にあり。
アスモダイ曰く、下りのほうが足に負担がかかり、注意して歩く必要があるのだとか。
この手のウンチクを、延々と聞かされながらの下山道。
ダメージでフラついてる割には元気じゃないか。
やっとの思いで山小屋へと辿り着いた時には、すっかり日が落ちて夜になっていた。
"黄金山 山小屋"
「もうクッタクタだー!一ミリも動きたくない。寝る!」
「おい、床で寝るんじゃない。教えてやろう、きちんとした寝具を使ったほうが、良質な睡眠を取れるのだ」
アスモダイに抱え起こされ、そのままソファーへと叩きつけられた。
あぁ...これは人間をダメにする感触。
「しかし、何を教えても、お前のような理屈の通じないニンゲンもいる。理解し難い言動、予測不能な戦い方、さらにはルーンの使用」
ルーン、戦闘中に呟いてた言葉だ。
おそらくは、スキルに乗った衝撃のことだろう。
「その、ルーンってのは何なんだ?小説家のスキルとは違うのか?」
「理解せずに使えるものではないが......興味深いな。教えてやろう」
深く息をついたアスモダイが、ゆっくりと話し始める。
こいつ、本当に教えたがりだな。
「ルーンというのはな、元々クーベで使われていた言語のことだ。会話だけではなく、想いを力に換える特性がある。文字の一つ一つに意味があり、理解を深めることで、その力を発揮するのだ」
こっちの世界に来たときに、違和感があった。
使われている言語が、日本語だったことだ。
「学生への音声配信は、これを応用することで伝える力を増幅し、私達が戦った場所から発したものだ。周波を変えることで、個別に声を送ることもできる」
まるでラジオか電話だな。
あの空間は、そのために作られていたのか。
手の込んだ仕掛けだ。
「いつからか、ルーンを理解する者が減り、今の言語へと切り替わっていった。千年も前には、魔法やスキルは、刻まれたルーンによって発生していた。文字や言語が消滅した今、ルーンを用いるニンゲンはいない。魔法やスキルを使うことが出きるのは、ルーンの概念だけがジョブに宿っているからだ」
ん?ということは、千年前までは普通に剣と魔法のファンタジーやってたのか。
「そのルーンを、何で俺が扱える?」
「わからない。そもそも、ルーンは教えて身に付く言語ではない。古代の種が、超感覚的に授かる技能だからな。一つ考えられることは、お前の武器だ」
魔法で黒焦げになってしまったミリオンペンディング。
特典で貰った物だが、詳細については不明な専用装備だ。
「その武器は人が作った物ではない。ルーンを形成する機能が付いた魔装具だ。今は外装によって封印されているが、亀裂部分から本来の力が漏れ出ているようだな」
魔装具?また知らない単語が出て来た。
専門用語はわかるように説明してほしいな。
亀裂ってのは、シュライム戦で出来たヒビか。
そういえば、スキルに衝撃が乗るようになったのは、あの後だ。
強力な魔法が撃てたのも、これが理由か。
「でもこれ、中身はカラッポだぞ?」
プラリネの張ったバンソウコウを剥がし、広がった亀裂から、中を覗いてみるが、何もない空洞だ。
「そう見えているだけだ。封印を解こう。この槍の、本来あるべき姿を見るがいい」
槍......じゃないけど、まぁいいや。
手をかざし、何かを唱えるアスモダイ。
パキパキと音を立て、ミリオンペンディング が割れていく。
さっきまで中身は見えなかったのに、まるでサナギから羽化する蝶のように、新しい武器が姿を現しはじめた。
【専用装備は『ブラフマン』にバージョンアップした】
ペン先が二股に別れている。
元の形よりも大きく、ズシリと重みが増した。
こんなのが、どうやって中に入ってたんだろう。
「もはや、普通の小説家とは呼べないな。これからは『文豪』を称するがいい」
【タスクは『文豪』にクラスチェンジした】
文豪?おい、待て待て!
作品の一つも仕上げてないんだぞ。
そんなの自称もいいとこ、完全にイタイやつだ。
「フォックスオードリーには、もう何もしないと約束する。彼らの行く末を見守ることにしよう」
「そうか......ところでさ、キヤスメダケの副作用って、何なのか教えてくれないか?勢いで食っちまって、不安でしょうがないんだ」
「キヤスメダケか、二日三日すれば分かることだ。お前には教えてやらん......フッ」
え、ウソ?あんだけ教えたがりだったのに。
こいつ絶対、負けたこと根に持ってんだろ。
いったい、何が起こるんだよ。
ええい、考えても仕方ない、寝る。
【タスクはふて寝することにした】
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