第13話 紅月-13
でも、それは、本当だったわ。全国の不良を制圧したと言われる最強無敗の女、ファントム・レディ、北斗由紀子。
―――ユキコ?先生と同じ名前?
そう、字は違っていたけど、同じ名前だった。それがあたしの目に止まった。それは一体誰が書いたものかわからなかった。姉の字ではなかったし、誰か子分の一人が書き残したものだったんだろうけど、どうして姉がそんなものを持っていたのかはわからないわ。姉と同じくらいの歳の人のことだから、何か関係があったのかもしれない。でも、姉はもう結婚してたし、直樹君も生まれてたから、聞きに行くこともできなかったわ。万が一、何か変なことに関係してたら申し訳ないものね。あたしは、ただその冊子を必死で読んだわ。けども、そこに書かれている記録は、血塗られた伝説だったわ。死闘の連続とでも言えばいいのかしら、あちこちの不良たちを制圧していった経緯が描かれていたの。それでも、あたしは、それを読みながら、わくわくしていた。もし、自分が『ファントム』を修得すれば、いま自分の置かれてる状況から抜け出せるかもしれない。そう思っていた。
―――『ファントム』のやり方は書いてあったの?
なかったわ。ただ、描写があっただけ。『相手のパンチをかいくぐって、低い姿勢からすくい上げるようなボディブロー。全身を螺旋回転させ放つそれは、敵を宙に舞わせ、骨に当たれば骨を砕き、腹に当たれば内蔵を破裂させる』
―――……ホントなの?
本当よ。その時は信じられなかった。強いといっても、たかが女じゃない。力もない、身長もない、体重もない。そんな女の子が自分より大きな男の体を宙に飛ばすほどのパンチを繰り出せるなんて、信じられなかった。ただ、そこに書かれている描写に気になることろがあったの。…螺旋回転させるってわかる?
―――捩じるの。こう?
そうね。でも、そんな状態でパンチなんて繰り出せない。じゃあ、どうやって。と思ったとき思い出したの。中国拳法に発經という秘伝がある。それは、わずか数センチの間合いから繰り出す突き技ではあるものの、相手を遙か突き飛ばすことができるという。なぜそんな力が生まれるのか。それは、全身を螺旋回転させその捩じれのエネルギーを相手に与えるからだというの。
―――『ファントム』は、発經?
そう思ったわ。それから、あたしは調べたの。中国拳法の本を見て、空手の本を読んで。空手の師範にも話を聞いたわ。『ファントム』を見たことのある人を探し出して、『ファントム』を再現しようと思ったわ。
―――できたの…、できたんだよね。だから、先生は二代目のファントム・レディになったんだよね。
あたしは、考えただけ。そうして編み出したそれは、初代のそれとは違うかったかもしれない。けども、なんとかそれらしいものを再現できるようになった……。初めは、アッパー・カットだったわ。相手の右ストレートをかいくぐって食らわせる左アッパー。それを改良して、アンダースロー投法のように腕を振って、そのときに螺旋回転を加えて。こう言うと、すごくケンカしてたみたいだけど、実際はほとんどケンカしたことなんかなかったのよ。家のサンドバッグ相手にシュミレートしてただけ。ほんの護身術のつもりだった。万が一に備えて。
―――でも、使うことになったんでしょ。
そう。それは、やっぱり、あんなグループに入ったからだったわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます