TSサキュバス転生ほど残酷な物語はない!
監禁豆腐
track1 導入
サキュバス(夢魔)とは、キリスト教に於ける女性型悪魔の一種であり、男性の夢の中に現れては淫らな行為を繰り広げ、精を貪る。男性の思い描く理想を具現化した様な美貌と妖艶な色香を醸し出す彼女らの誘惑に抗える者など、無に等しい。因みに言うまでもないが二次元コンテンツにおいてサキュバスはもはやカテゴリー的存在になっている。まぁ表現は悪いが一言で言えば、”ビ○チ系悪魔”である。
しかし、全てのサキュバスがそのような節操のない劣情に溺れているわけではない。
……例えば、”俺”のようなサキュバスとか。
◇◆◇
『稲神君、私も………』
「……さん」
「……神さん」
「………稲神さん!!」
「………はっ!!?」
目を開けると、女性が居た。
「
「え………あ、はい。間違いありません。正真正銘、稲神奈生です」
唐突だが、俺は死んだ。死因はありきたりだが交通事故だ。帰宅途中突然目の前をドヤ顔で通り過ぎた猫にイラっとして、そのまま横切り返してやろうと奮闘していたらそのまま軽自動車に撥ねられたという何とも苦笑すら憚られる程の呆けた死因である。
「………随分整ったお顔ですねぇ……まるで……」
「”女みたい”………ですか……」
「あ、え、いや………もしかしてコンプレックスでしたか?」
身長は165cmで男としては少々低く、無駄にデカイ目と白い肌と太めの割り箸並みの華奢な身体のせいで、俺は昔から度々女に間違われ続け…挙句の果てにはそれを知らずに上級生や下級生が告白してくる始末であった。故に18年間恋愛経験一切なし。男友達もこの女らしい風貌のせいで度々気を使わせてしまい結果的に関係が崩れるという悪循環のせいでほぼゼロ。贅沢だとか言われるかもしれないが、正直言ってこの顔は大嫌いだ。
「色々あったんですねぇ奈生さん……。まぁ死んでしまったものは仕方ないと潔く諦めて、ちゃっちゃと次のステップ踏んじゃいましょうね!」
「他人事の極致ですね………ちょっとイラっとくるレベルです」
「お察しのとおり、ここは死後の世界で、私は貴方を次の人生へと導く…言うなれば案内人といったところですね!」
真っ白い空間。上下左右、どこを見ても際限がない不思議な場所にて、趣のある西洋風の椅子に座る俺の前には、黒いワンピースを身に纏っている金色の髪の女性が立っていた。スラリと伸びた体躯と透き通るように白い肌。そして吸い込まれそうになる程鮮やかで深い青の瞳。言葉で表現するのが難しいほど、その女性は美しかった。口調はたまに腹が立つが…
「次の人生……。もしかして”異世界”とか………行ったりするんですかね……」
「うわぁおだいせいかーーーい!!!凄いですね奈生さん……どうして分かったんですか!!?魔法かなにかですか!?何なんですか!?え、何なんですか!!?」
「落ち着け!!ていうか耳元で叫ばないで!!…………知らないでしょうけど、俺が居た世界ではそういう……異世界についての物語とかが流行ってるんですよ!だから、そうなのかなって」
「っへぇ~~~おかしな風潮ですねぇ! まぁ、奈生さんの言う通り、これから貴方には別の世界で新しい人生を送っていただきます!”異世界転生”ってやつです!」
「異世界……転生……」
ある事情でアニメ等の知識には人並み以上に詳しいし好きだが……こうして自分がその立場になると嬉しさとか興奮以前に、なんかこう、生理的に不安を感じるな……
「魔王倒す使命とか……託されたりするんですかね……」
「あっははは!!ないない!!!第一そんな大役をさっき亡くなったばかりの一般人に押し付ける訳ありませんよぉ!」
「今のでかなりのフィクション作家敵に回したような気が……!」
「ん~まあ……のんびりした異世界ライフくらいは送れるんじゃないですかねぇ」
「そうですか……安心したようながっかりしたような………。じ、じゃあ、早速転生お願いします……。あ、出来るなら性別は”男”でお願いします!逞しくて力強い”漢”でお願いします!!」
「ここにきて一気に図々しいですね……まぁ善処します。……というかその、先程から奈生さん…随分淡々としてますね……何か未練とかはないんですか?まぁ何言っても亡くなってるから無駄ですけど……」
無論ある。家族とか残されてたハズの将来とかその他諸々……しかし、こうなってしまったものは仕方がない。”男”らしく潔く切り替えて、”男”らしく第二の人生を力強く生きようではないか!ていうかさっき生理的な不安とか言ってたけどやっぱり結構ワクワクしちゃってる節がある自分が恥ずかしい。
「だ……大丈夫です……!」
「そっすか。わっかりしたー」
「どこまでも軽いな本当に!!!微かな労いでもいいから見せろよ!!!」
ここまで容姿と行動が噛み合わない生物がいるだろうか…!見た目だけならどっかの帝国の女王でもおかしくないレベルなのだが…
「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて……では、稲神奈生さん。貴方を新たな転生者と認め……異世界での第二の人生を与えます。あ、今ならオプションで前世の記憶とか引き継げますけどどうしますか?」
「人の記憶をセールスポイントみたいな扱いすんなよ!!!オプションなのかよ!!………ま、まぁ……あの……お願いします……」
「わっかりしたー」
「ちゃんと喋りなさいよ!!!」
死者にどれだけ無礼をかますんだこの案内人は……!しかし、これから始まる異世界での人生か……
「あ、忘れてた。……最後に、転生先で与えられる”種族と境遇”についてですが……」
フィクションで得た知識に基づく情景しか浮かばない現状では想像のしようがないが、きっと恐ろしく広大でファンタジックで……何より”漢らしい”生活が待っているのであろう(推測)………
こんな女々しい容姿とはもう永遠におさらばだ……!
「…………という事です。以上で大体の説明は終わりですね。……ふぅ~疲れますねぇ本当に怠いです。何か質問とかないですか?」
「何も言うことはありません!!!早急かつ迅速かつ俊敏に転生をお願いします!!!」
「こんな短時間でボルテージ上限ぶっちぎる死者初めて見ましたよ……。じ、じゃあ稲神奈生さん、ご武運を……!!」
次の瞬間、俺の意識は途絶えた。
◆
『種族と境遇は……大体は前世に依存します。前世で格闘技とかやっていたら屈強なドワーフとか、そのまんま人間の戦士とかになりますし、自宅警備員であればひたすら城に篭って魔道書読み漁る魔術研究家(笑)になったりします。……奈生さんみたいに顔が女性の様に整っていて、尚且つそのような積極性を持ち合わせていると………
……まぁ、”サキュバス”あたりになるでしょうね』
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