第25話 芽生え
目を開けると、飛び込んでくる景色は…見慣れた僕の部屋。
いつのまにか眠っていたみたいで、傾いていた陽はすっかり落ちていた。
もうこんな時間か…
気怠い身体を起こし、ふーっと一息つく。
ぐー
寝室にお腹が鳴る音が響く。お腹が空いているみたいだ。
みたいだ…と言うのは最近自分のことなのによくわからないから。
特に、喜怒哀楽が薄くなったような気がする。
あいつがいなくなってから、僕の心はぽっかりと穴が空いたような感じ。何をしてもダメなんだ。
1人が怖くて、寂しくて、つらい。
前にあいつが入り浸っていたのはそんな僕の弱い心を見透かしていたのかも。
それでも僕はあいつにたくさん救われてたんだ。
まだ帰ってこないのかな、あいつは。
ベットに腰掛けたまま窓から見える景色を眺めながら気づけばやつの帰りを待ってる僕がいる。
やつは今何をしているんだろう。
天界…か…
美人美女が多いと聞く。
やつはそんな人たちに普段囲まれているのにどうして僕みたいなぱっとしない悪魔に構うんだろう。
それに奴ほどのキラッキラのイケメンはどこに行っても引く手数多なんじゃないかな。
どこに行ってもたくさんの人に囲まれる。
僕とは違って。
こんな冴えない悪魔より美人な天使たちに囲まれればあいつも嬉しいのではないか。
もしかしたら、天界に帰ったのは天界にいる恋人に会いに行ったのでは…
そう、思い至るとなんだか泣きそうな、心がズーンと沈んだような気持ちになった。どうしてこんな気持ちになるのかわからない。でもカマエルの側に誰かが並んでいるのを想像してみると自分が並ぶよりしっくりくることにとてもショックを受けた。
胸がズキズキと痛む。
胸を抑えても、痛みは引かない。
イタイ、イタイ、イタイ、イタイ…
僕に向けるような優しい笑みをその誰かにも向けているのだろうか。
僕に触れるときの優しい触れ方でその誰かにも触れているだろうか。
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ!
抑えきれない胸の痛みにベットでうずくまっていると突然パチッと部屋の電気がついた。
「ただいま、暗いが起きてるか?……?!どうしたんだ、何があった!!」
「ふぇ?…」
「どうして泣いてるんだ」
突然現れたカマエルに詰め寄られてびっくりした僕から変な声しか出ない。
言われて気付いた。
僕の目から止めどなく溢れる涙に。
目の前にカマエルはいるんだろうが視界がぐちゃぐちゃでよく見えない。
「…カマエル」
「なんだ?」
「…カマエル」
「どうした」
「帰ってきた?」
「あぁ、帰ってきた。」
その答えを聞くや否やカマエルに飛びつく。
「うぉ!おお…どうしたんだ」
突然胸に飛び込んできた僕をびっくりしつつもしっかりと受け止め優しく聞いてくる。
でもわからない。
本当にどうしたんだろう僕。
涙の止め方がわからない。
次から次へと溢れて段々とカマエルの服を濡らしていく。
汚すから離れないとって思うけど、カマエルの存在を、熱を全身で感じてしまった僕は離れられなくなってしまった。手がメデューサに石にされたみたいにやつの服の袖を掴んで離さない。
「ふう、うぅ…ぐす…」
「……」
「う、んっ…ふぁ!えぇぇ!」
そんな俺の姿を見て何かを感じたのか落ち着くまで優しく背中を撫でていてくれた。
俺を膝に持ち上げて。
びっくりしてまたも変な声が出たのは見逃してほしい。
目の前のカマエルの胸に顔をうずめるとトク、トク、トク…と規則正しい鼓動が聞こえる。それに安心したのか背中を撫でてくれる心地よさも相まっていつのまにか眠りに落ちていた。
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