第20話 その笑みの行方
やっとご飯を食べ終え片付けを済ませる。
カマエルが俺がするからと言ってるが全て任せることは嫌なので無視して片付けた。
終始やつはうるさかったが諦めたのか隣に立って一緒に片付け始めた。途中何かに気づいてニタニタとこっちを見たりよくわからん反応をしていたが一緒に片付けをするだけで良くもまあこんなに騒げると僕は呆れを通り越して感心してしまった。
やつが変なのは元々変なので無視だ無視。
朝ご飯の片付けと追加で掃除と洗濯をしていたらそうこうしてるうちにお昼に差し掛かった。動いていたのでお腹も空いてきたなぁと思い何か作ろうと思ったがふと、ご飯を作るとやつにも食べさせないといけないのではということに気づいた。
あいつは僕にいろんなご飯を作って食べさせてくれるが、未だ僕は一度もあいつにご飯を振舞ったことがない。
あいつのご飯は美味しい。悔しいけど…
だからこそ、僕のご飯が口に合うかわからない。あいつ嫌いなものはほんと嫌いだから
もし、あいつが気に入らなかったら僕に何も求めなくなるかもしれない。
僕はあいつが僕に何かを求めてる、僕が求められていることにいつも安心してた。
だってそれで僕の存在意義が少しでもできたって思えた。それしか僕の存在意義はなかったから。
あいつがいなかったら僕は…
物心つく頃には父と母は僕の前から姿を消した。父と母と遊んだ記憶はうっすらあるから存在していたことは間違いない。
でも僕の側からいなくなってしまった。
僕がいらない子になったのかなとかやむ終えない事情で置いていかざるを得なかったんじゃないかとか色々考えたけどわからないものはいくら考えてもわからなかった。
自分を見失いそうになることもあったけど、単に僕が僕でいられるのはカマエルのおかげだということ。
あいつの存在が僕をこの世界に繋ぎ止めている。今も昔も。
僕はちっとも変わってない。
臆病なところ、結局あいつに寄りかかって生きているということ。
だからこそ、「ご飯を作る」
それだけのことがとても怖かった。
だけど、この前怪我を治してくれた時、僕のことを本気で心配してくれた。相手に怒ってくれた。ずっとそばにいて僕を支えてくれた。
起きた時誰かがそばにいて声をかけてくれることが、辛い時がんばれって大丈夫って声をかけてくれることがあんなにも嬉しいことなんて僕は知らなかった。
その姿を見て、僕はもう少しだけあいつを信じてみようかなって思った。
本人には絶対言わないけど。
だから信じてご飯作ってあげようかな、あいつの分まで。
自分の分しか作らなかったら拗ねるんだろうな。作るまでじっと見つめてくる姿が容易に想像できる。
意外と子供っぽいところがあるからな。
しょうがない。
あいつのことを気にするなんて今までできなかった。自分のことでいっぱいいっぱいだったから。
僕も少しは前に進めてるかな。
拗ねるあいつの顔を想像すると笑えてくる。
ベルをなんとか笑わせようと裏で画策しているカマエルの知らぬところで、ベルから少し笑みが溢れた。
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