ちょっと待て、そんな展開は聞いてない! 3
「お言葉ですけれど、先輩方。先ほどからずいぶんと失礼ではありませんか?」
「は、はあ⁉」
「上級貴族であるとおっしゃるなら、それに相応しいだけの知性や余裕のある振る舞いを見せていただきたいところですわね」
「な、なによ! そんなことを言って……」
エルシアを見下ろしていた彼女だったが、逆にルビアを見上げる形になり、気圧されたかのようにジリッと後ずさった。
「いくつか言いたいことがありますけれど、まず! 他人の出身地や家族について知りもしないのに適当なことを言わないでいただけます? 率直に言って、下品ですわ」
「な、なんですってぇ⁉」
ルビアの目の前の女子生徒だけでなく、リリオペを含めた全員の顔が赤くなる。が、ルビアの口は止まらない。
「さらには突然の盗人扱い! 教養あるリリオペ=A=バルテル様のご友人とは思えぬ発言ですわ。お友だちはよく選ばれたほうがよろしいのでは? あなた様もその程度の人間だと勘違いされてしまいますわよ」
「無礼者っ! 立場を弁えなさい! お前ごときがそんな口を利いていい方ではないのよ、リリオペ様は!」
「先に品のないことを言ってわたくしたちを不当に
「〜〜っ!」
今までこんな風に言い返されたことがないのだろう。真っ赤な顔のままブルブルと震えているのは、腹立たしさの他に唖然としていたというのもあるかもしれない。
その隙に、ルビアは指を二本立てて彼女たちに突きつけた。
「二つ目。ここがロイヤルガーデンと呼ばれる場所で、貴族の中でも限られた者しか入ることができないとは本当ですの? 警備の兵が立っている様子もなく、先生も教えてくださらなかったし、校則にも書かれては……」
「わたくしたちの言葉を疑うというの⁉」
「だって根拠がありませんでしょう。もしここが本当にそういう場所だと言うなら、わたくしたちの無知を哀れむより先にその由来と理由を教え、諭していただきたいものですわ。そちらのほうがよほど、民を導く立場にある貴族の高位の者として相応しい振る舞いなのではなくて?」
「偉そうにっ……! 何様のつもり!?」
(うん、まあ、今のはオレも思った)
すげえ上から目線の「教えて」だもんなあ……と、心の中でルビアはこっそり頷いた。
ルビアは昔から——より正確に言うなら前世の時から——勢いでしゃべって収拾が付けられないことがよくあった。今も、このもめ事を収める算段は実はまったくついていない。
「ふんっ。そこまで言うなら教えて差し上げますわ。そして、自分がどれだけ恐れ多い発言をしていたか省みられるといいですわ」
自慢の金髪をばさりとひるがえして、リリオペが前に出てきた。
「この場所は学園の中でも高いところにありますでしょう。ゆえに、王城がよく見えますわね」
「ええ。光を溜める性質がある世界でも珍しい石で建てられた城ですから、日が落ちてからなら、なお美しく見えるでしょうね」
「あら、それはご存知でしたのね。そう、ここは学園の中でも、我が国の象徴であり、民の誇りでもある王城を臨める唯一の、そして特別な場所なのですわ。ですから代々の王族の方々はこの学園を卒業されるとき、この場所に記念に植物を植えられるのです。植えられた花は王宮に召し抱えられている庭園管理者が世話をしています。ロイヤルガーデンと呼ばれるのは、そのためですわ」
「なるほど、そうだったのですね」
「ではなぜ、一部の貴族しか立ち入りできないことになっているのですか? それがどこにも明言されていないことも不思議です」
「はあ⁉ リリオペ様がここまで説明してくださったのに分からないなんて、田舎者の頭の中には土しか詰まっていないのかしらっ」
我慢できないと荒げた声をあげたのは取り巻きの女子生徒の一人だった。
「そんな高貴な場所に下級貴族ごときが立ち入るなんて許されるわけないでしょ⁉ わざわざ文なんかにしなくてそれぐらい分かりなさいよ!」
(なんやねん。たんにお前らの好き嫌いかいっ!)
というツッコミは心の内だけに留め、
「そうでございますか」
とだけ返しておいた。
これ以上は聞きたいことも言いたいこともなかったので、ルビアはさりげなくエルシアを促し、立ち去ろうとした。
「ご丁寧に説明いただき、ありがとうございます。それではお望み通り、わたくしたちはここで失礼させていただきます」
「ちょっと、なに勝手なこと言ってるのよ。まだリリオペ様に対する無礼の謝罪が……」
「おい、何の騒ぎだ?」
なんとここで登場する
(め、めんどくせ〜〜〜〜)
そう思ったが、口の中を噛んで表情に出ないように耐える。向かい合っている女子たちの片方にルビアがいると分かり、ぴくりとケラスの頬が動いたように見えたのは、ルビアの気のせいか。
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