第98話 誰が親分だ!?

「皆さん、どうされたんですか? 何かあったんですか??」


「あっ、良いところに来てくれたわ一矢君!! 実は子龍が凄く凹んでいるのよぉ!! 子龍と一番仲が良い一矢君からも慰めてあげてくれるかな!? 私、子龍の事なんかで悩み事増やしたくないしさぁ」


 いや、菜弥美先輩……子龍先輩がそう思っているだけで、俺は子龍先輩と一番仲良しなんて、全然思ってないですから。


「そうなのよ……私達が慰めているのだけれど、全然元気になってくれないの。だから私はそろそろ子龍を見捨てようと思っていたところなの。そして今は子龍を一矢君に押し付ける気分になったわ」(ニコッ)


 いや、テルマ先輩……それはあまりにも冷た過ぎるでしょ!?

 それに俺に押し付けるだなんて……あ、あんたマジで『小悪魔天使』だな!?

 し、しまいにギュッと抱きしめちゃうぞ!!


 はぁ……でも仕方ないか……


「子龍先輩、どうされたんですか? 首でも痛いんですか??」


「お、親分……」


「だっ、誰が親分だ!?」


「だ、だって……ぼ、僕も一矢君の『傘下』の一人だからさ……」


「だだだから俺は『傘下』なんて要らないんですよ!! 花持先輩が勝手に決めただけの事なんですから!! 子龍先輩もそんな『傘下』みたいなのに『参加』しないでいただけませんかっ!?」


「流石はボスだ。僕が落ち込んでいるのをダジャレで元気付けようとしてくれたんだね? ボス、ありがとう……」


「はぁ~っ!? だだ誰もダジャレなんて言ってねェよ!! それに今、『ボス』って言ったよな!? さっきは『親分』って言ってたのに、全ッ然呼び方が定まってねぇな!?」


 だっ、駄目だ!!

 この人と絡むと疲れが倍増するぞ!!


「やっぱり、一矢君に『タメグチ』で突っ込まれると、とても気持ち良いなぁ……なんか少しだけ元気になってきたよ……」


「さすが、一矢君だね!! やっぱり子龍の相手は一矢君じゃないと駄目みたいだわ」


 菜弥美先輩、何を言っているんですかっ!?

 そんな事を言ったら子龍先輩が勘違いするじゃないですか!!


「そ、それで何なんです!? 子龍先輩は一体、何を落ち込んでいるんですか!?」


「フゥ……じ、実は……先日の『ドッチボール対決』の時にさぁ、僕は数年ぶりに女子から声援をもらったんだよ……」


「はい、知っていますよ。俺もその声援は聞こえていたんで……」


「そ、そうなんだ? で、僕はその声援に気を取られちゃってさ、でもすぐさまボールが僕の顔面に当たってしまった訳だけど、声援をしてくれた女子達の顔はしっかり見てたんだよ……」


 何だよ!?


 あの時、よそ見をしたからボールが顔面に当たったのかよ!?

 部の存続がかかった対決なのにバカじゃないのか、この人は!?


「それで今日さ、その声援をしてくれた女子達を見かけたんだ。僕はここ数年、ネガティ部以外の女子とまともに話なんてしたことが無かったけど、このままでは駄目だ。そろそろ自分を変えなければと思って、思い切って彼女達に話しかけたんだ……」


「へぇ、そうなんですか? 子龍先輩にしては凄く頑張ったじゃないですか」


 この人も色々と抱えているんだな……まぁ、一生『超人見知り』って訳にもいかないしな。それに一生『沈黙の45度』ってのもめちゃくちゃ恥ずかしい話だし……



「それなのに……が、頑張って僕から話しかけたのに……か、彼女達は僕の顔を見るなり『ギャーッ』と叫びながら僕の前から逃げ去ってしまったんだよ!! ウッ、ウー……ぼ、僕はやはり、みんなから嫌われているんだ。勘違いしていた自分が恥ずかしいよ……ウウッ……グスン……」


 なるほどな。彼女達が逃げ去った理由は分かっているけど、それを今言ってもあまり意味の無い事の様にも思うし……よし、ここはコレだな!!


「子龍先輩」


「な、なんだい一矢君?」


「まぁ、彼女達は子龍先輩の事を嫌って逃げ出した訳じゃ無いとは思いますが、その理由はいずれ分かりますよ。それより、俺だって子龍先輩と同じですよ。『ドッチボール対決』以降、クラスの奴以外の人達からずっと変な目で見られているんですからね。俺が近付くと、みんなサッと離れて行くんですよ。それって結構辛いですよね?俺、子龍先輩の気持ちがなんとなく分かりましたよ!!」


「えっ、え―――っ!? 親分が僕の気持ちを分かってくれただなんて……凄く光栄だよ!! もう彼女達なんてどうでもいいや!! 僕は今日から親分だけを見る事にするよ!!」


「イヤ、俺以外も見てくれっ!! それに俺は親分じゃねぇ!!」


「さすが、一矢君だねぇ……いとも簡単に子龍の気持ちを一変させるなんてさぁ。でも1つだけ言っておくわね? 毎日、色んな人にジロジロ見られるのも凄く嫌な気持ちになるわよ。逆に私は子龍や一矢君が羨ましいくらいだわ」


 テ、テルマ先輩、あなたもジロジロ見られるのには理由があるんですよ!!

 何故それを気付いてくれないかなぁ……



「おいっ、『ウジ虫トリオ』に『ダーリン』!! ここで何をしているんだ!?」


 !!!!


 こ、この声は間違いなく……


「ルッ、ルイルイ!! あんた担任のくせに終業式にも出ず一体、何をしてたんだよっ!? それに『ドッチボール対決』の時もいなかったよな!? あんな大事な時に顧問不在なんておかし過ぎないか!?」


「ハーハッハッハッハ!! そんな細かい事をいちいち気にするなダーリン!! 私が何をしていたか何ていずれわかるさ!! それよりも喜べ、『夏合宿』の日程と行き先が決まったぞ!! まぁ、私にとっては『夏合宿』というのは仮の名で本当は『ダーリンとの婚前旅行』みたいなものだけどなっ!! ハァ~ハッハッハッハ!!」



「なななな何が『婚前旅行』だよ!! っていうか、『夏合宿』にルイルイも来るのかよ!?」


「フッ、当たり前だろ? 私はネガティ部の顧問だぞ」


「良い時だけ顧問面するんじゃねぇよ!!」

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