第8話 最後の一人は

「一矢君、チョット良いかな?」


「な、なんですか菜弥美先輩??」


 テルマ先輩との名前バトルもひと段落した後、菜弥美先輩が真面目な顔で声をかけてきた。


「実はね、テルマは昔から自分の名前にコンプレックスがあって、それを凄く気にしているのよ。だから『ネガティ部』に入部する時にテルマが出した条件も『部員同士、下の名前で呼び合うこと』っていう約束で入部してくれたんだ。だからテルマの事を今後はフルネームで呼ばないようにくれるかな?」


「は、はい、分かりました」


 まぁ、フルネームで呼ぶことなんてあまりないけどな。


 っていうか、俺だって自分の名前に関して言えばコンプレックス有りまくりだっつうの!! それなのに俺は今日一日で3人もの美少女に名前をいじられているんだけど……


 出会ってから、かなりの割合で名前の話しをしていたから俺のコンプレックスにも気付いてくださいよ、菜弥美先輩!!


 でもまぁ、俺がまた変なことを言って菜弥美先輩の悩み事が増えてもいけないし、ここは俺が我慢するのがベストだよな?


 しかし……何だろう俺って……

 まだ仮入部の俺が何でそこまで気を遣わなくちゃいけないんだ!?


「はい、それでは話がまとまったところで……そろそろ部活を再開しましょうか……?」


 美代部長、全然話なんてまとまってないですけどね!!

 でも、めんどくさいからまとまったことにするか!!


「ハハハハ……そ、そうですね。俺はテルマ先輩とも色々とお話がしたいので、早く部活を再開しましょうか?」


「ひ、一矢君……私とも色々お話がしたいって……君は『普通』に良い人なんだね……?」


 テルマ先輩、『普通』は余計なんですけど!?


 ただ、テルマ先輩が俺のことを一矢って呼んでくれたのはかなり嬉しいけどさ……


 しかしテルマ先輩って小動物みたいに可愛いし、俺と同じ名前がコンプレックスっていうのは何かと親近感が湧いてくるよなぁ……


 ん?


 でも待てよ。


 美代部長も菜弥美先輩もどう考えたって俺達と同じくらいにおかしな名前なのに全然気にしている様子はないよな? って事はやっぱり俺とテルマ先輩が気にし過ぎって事なのか?


 もしかして俺も名前に関してはネガティブってことなのか?

 イヤイヤイヤッ、俺は絶対にネガティブではない!!


 うん、俺は断じてネガティブなんかじゃ……


 それに俺は『明るさが取柄みたいな両親』の息子なんだからな。



「そういえば部員ってあと一人いるんですよね? あと一人の方はどんな感じの女性なんですかねぇ?」


 俺が先輩達に問いかけると菜弥美先輩が不思議そうな顔をしながら答えてくれた。


「えっ? 一矢君、誰も女性だとは言ってないわよ。もう一人はねぇ、私とテルマと同じ2年生の男子だよぉ」


「えっ!?」


 そして美代部長が続いて話し出す。


「彼のお名前は『しりゅう』君って言います。とてもカッコいい名前だと思いませんか? それに見た目もとてもイケメンなんですよ」


 イ、イケメンだと!?


「そ、そうですね。カッコいい名前ですねぇ? へ、へぇ……そ、そうなんですかぁぁ……最後の一人は男性だったのかぁ……ハ、ハハハ……はぁああ……」


 そしてイケメンかぁ……


 はぁ、なんだろ~この何とも言えない残念感は……? 


 残念感と同時に何故だかこの気持ちを突っ込みたくなる衝動が起こってくる。

 

 そ、そっか……

 俺は変に何かを期待していたんだ……


 でもその期待が崩れようとしているから残念感と突っ込みの衝動が同時に沸いてきたんだろう……


 俺は美少女3名に囲まれているうちに思い違いをしていたのか? 俺がよく観る学園アニメではだいたいが最後の一人も可愛らしい女の子でそれがまた絶世の美少女だったから余計に期待が膨らんでしまったんだ。


 部活で知り合った美少女と俺、お互いに意識しつつ、口喧嘩になるけど、彼女がピンチの時に助けたりしているうちに次第に恋愛感情が芽生え出して……


 でもそんな時に限って他の女子部員からも言い寄られたり……


 時には複数の女子に挟まれて修羅場になり俺は誰を選べばいいんだと悩んだり……


 でも最後にはお互いの気持ちが通じ合って……二人は付き合い出すみたいな。


 俺はこの十数分の間に妄想が膨らんで、てっきりそうなるんじゃないかと期待していたよ!!


 それなのに最後の部員が男でましてイケメンだなんて……どうせ先輩達はそのイケメンの事が……


「一矢君、どうかしましたか?」

「ほんと、どうしたんだい一矢君?」

「もしかして、まだ私が普通の人って言ったのを気にしているの?」


 へ? 何か先輩達が心配そうな顔をしながら俺に言っているみたいだけど、全然、耳に入ってこないぞ……


 まぁ、気にし無くてもいっか。

 それよりも俺には大切な事があるんだ。

 俺がこの突然襲ってきたストレスを発散させる最良の方法……


 でも、こんな事は口に出して言うとマズイだろうし……ストレス発散は半減するけど仕方が無い。今回も心の中で大きく叫ぶ事にしよう……


 ラ、ラブコメハーレム展開になるんじゃ無かったのかよ――――――――――――っ!!??

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