四章『ソグラリオン帝国』

第115話 大移動?

 遂に休暇の旅の日がやって来た。


 この日の為に、関連する多くの方々に暫く『銀朱の蒼穹』がレボルシオン領からいなくなると伝えているので、俺達がいなくてもレボルシオン領は順調に回るはずだ。


 準備を終えた俺達は、メンバー全員のサブ職能を中級職能『ローグ』に変更しておいて、影移動で俺の影に潜ませる。


 千人という人数が影に入れるのだろうかと不安に思っていたけど、何故か入れた。


 それを見ていた魔女のアンナが笑い過ぎて座っていた椅子から転げ落ちるくらいだった。


 どうやら俺の固有スキルのおかげみたいね。


 同じ個所に影移動が入るのは、せいぜい三人らしいのに、それが限界突破したら千人でも入れるのは少し笑える話だ。


 俺達がいつもの馬のない馬車に乗り込むと、ものすごくパワーアップしているラビの風魔法で空を飛ばしてもらう。


 ルーの万能能力上昇魔法を使って貰うと、ラビの風魔法がますます強く使えるので、俺達は快適な空の旅を送れた。




 数時間後。


 帝国のとある道の前に降り立つ。


 弐式の中から、職能召喚士を極めたメンバー四人が召喚魔法『スレイプニル』を召喚する。


 彼らは馬車役の為にメイン職能をアサシン、サブ職能を召喚士にして、馬の召喚獣『スレイプニル』と契約していて『銀朱の蒼穹』の馬車を引いてくれている。普段から荷物運びはこれでやってくれていたけど、今では『アイテムボックス』があるから人を遠くまで運ばせる手立てになっている。


 それにしても、数時間も影に潜っているメンバーって本当に凄いなと思う。


 ルーの補助魔法のおかげもあるのかな?


 馬車で少し進むと、大きな街が見えてくる。


「あれがアクアソル王国に繋がっている道を管理している『ワンド街』だよ」


 本来ならここまでくるのに数日馬車を走らせないと来れないのに、ラビのおかげで数時間でここまで来られるなんて……。


 入口に近づくと、召喚獣が引いている馬車なのもあって兵士さんにすぐに止められる。


「こんにちは。私達は『銀朱の蒼穹』というクランです。アクアソル王国に休暇に行く最中なんです」


 代表してミリシャさんが兵士さんと話す。


「『銀朱の蒼穹』? あまり聞いた事ないクラン名だな?」


 ミリシャさんは紋章を見せる。


「ここから北にあるゼラリオン王国で活動しているんです。最近戦争ばかりで嫌気がさしたのでこちらに遊びに来たんです~」


「あ~噂は聞いてるよ、うちと戦争してすぐに内乱だって? 大変だったんだな~」


「そうなんですよ、全く……おかげで私達のような冒険者が自由に動けなかったから、色々大変だったんです。アクアソル王国が素晴らしいと聞いていたので、せっかくならと休暇に行くんです」


「そうかそうか、一応念の為に冒険者ギルドに確認させて貰ってもいいか?」


「いいですよ~関税が必要なら払います」


「そうだな。帝国内に住居がないなら、関税が必要になる。一人銀貨一枚になるけど、払えるかい?」


 銀貨一枚か、意外と高い。


 銅貨一枚でパンが買えて、銀貨一枚と言えば、銅貨百枚だ。


 銀貨一枚でパンが百個も買えちゃうので、人によっては十日~二十日分の食費にもなる。


 さらに、ここからアクアソル王国への道に入る時にそれと同額を払う事になりそうだ。


「意外と高いですわね?」


「ああ、この街に入れば、出るのはどっち・・・でも良い事になっているんだよ。だからこの街の関税だけは高くなっているんだ」


「なるほど~! 領主様は中々のやり手ですわね」


「そうだとも、エヴィン様と会える事があったら、ぜひ話を聞いて見るといい」


「分かりました~、えっと一人・・銀貨一枚でしたね?」


「ああ」


 ミリシャさんが『アイテムボックス』から金貨袋を取り出す。


「はい、金貨十枚と、銀貨十枚ですね」


「は?」


「ん?」


「いやいや、君達は十人だから銀貨十枚……」


「あら、嫌だわ。私が十人に見えるんですか?」


 そう話すミリシャさんの合図で、馬車の中の俺の影から影が無数に外に出て行き、中から『銀朱の蒼穹』メンバー全員が姿を現した。


「はいっ、ちゃんと関税は払いましたからね~、街の中で悪さはしませんから心配しないでくださいね~」


 固まっている兵士さん達を置いて、関税を払ったミリシャさんとカールとメンバー全員が中に入って行く。


 俺は苦笑いを浮かべながら馬車に乗ったまま、街の中に入って行った。




 ◇




 ワンド街の屋敷の中。


「…………なるほど。あれがの『銀朱の蒼穹』か」


「はっ、間違いないと思われます」


「こちらの転職士とは全然違うな?」


「より遥か先を行っていると見えます」


「ふむ……あれだけの人数を影に入れて移動出来るんだ。とんでもないな。こちらもあれと同等の力を手に入れられるという事か」


「そうなると良いのですが……こちらの転職士は現在、『玉砕のダンジョン』に入っているとの事です」


「ほぉ……もうあそこに入ったのか。それは楽しみだな。アイザックが上級剣士を五人も失った代償にしては良いモノを手にいれたな」


「全てはエヴィン様予定通りに進んでおります」


「ふむ。さては『銀朱の蒼穹』は俺様のためになるのか、此度見極めてやろう。クランマスターを張っておけ」


「はっ!」


「くっくっくっ、良いタイミングで良い駒がやってきたな」


 エヴィンは、思わぬ光景に舌なめずりをした。

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