第110話 思わぬ訪問者

 グレイストール戦争が終結して一か月。


 俺達はレボルシオン領に戻り、ゆっくり過ごしている。


 肆式は王国とのパイプ役として、王国で暮らして貰う事になったけど、それは彼らが希望したからでもあった。


 そんな俺達に訪問者が一人、訪れて来た。



「お久しぶりです。『銀朱の蒼穹』の皆様」


「ん? 貴方は…………たしか、『Aランクダンジョン』で出会ったあの方のパーティーメンバーですね?」


「はい。そう言えば名前も名乗りませんでしたね。我々はクラン『エデン』という者です」


「クラン『エデン』!?」


 その名前にはとても聞き覚えがある。


 たった六人で構成されているクランとして有名で、いくつもの高難易度ダンジョンを制覇した強者のクランだ。


「我々の名前を知ってくださっているなんて、とても光栄です。私はメンバーの一人、セリアと申します」


「い、いえいえ! 俺達はまだまだ新参者ですから、Aランククランの皆様とは思いもしませんでした」


「ふふっ、これも全てリーダーであるアインハルト様のおかげです」


 何となく目の前の女性が、あのリーダーを『様』と呼ぶ事に少し違和感を感じる。


 以前出会った時に、リーダーと絡んでいた別の女性はもっとフレンドリーだったはず。


「それで、クラン『エデン』様はどうしてうちに?」


「我々は対等な関係です。様など付けないでください。本日はこの書状をぜひ読んで頂きたく…………ただ、内容に関しては内密にお願いしたい。もし断ったとしても、あなた方を信用しての事ですので」


 彼女が取り出した手紙。


 手紙の封にはあまり見慣れない紋章が描かれている。


「その紋章は!?」


 隣で一緒に聞いていたミリシャさんが驚く。


「ミリシャさん、この紋章に心当たりが?」


「あるってモノじゃないわ。ソラくんも皆もこの事は決して口外しないようにね?」


 意外とミリシャさんが一番驚いた反応を示して、俺達は大きく頷いて答える。


 一体どこの紋章なのだろう?


「こちらは、『アクアソル王国』からの招待状でございます」


「っ!?」


 もしミリシャさんから注意されてなかったら、名前を叫ぶところだった。


 手紙を持って来てくれたセリアさんに促され、その手紙を開封する。


「親愛なる『銀朱の蒼穹』の皆様。私はアクアソル王国の女王エヴァ・エン・アクアソルと申します。本日は皆様のレボルシオン領の武勇を聞きまして、ぜひ一度直接お会いしたいと思い、こういう紹介状を送らせて頂きます。我がアクアソル王国はリゾート地としても有名ですので、ぜひ皆様でお越し頂くのはいかがでしょうか? 本日はいきなりの招待状に大変驚いておられると思いますが、ご検討をお願い申し上げます」


 とても丁寧な内容に、脅迫とか、そんな類の事ではないのが伺える。


 それにその内容にとても大きな誠実・・さを感じる。


「セリアさん」


「はい」


「一つ疑問に思うのですが、どうして俺達なのですか?」


「申し訳ございません。私程度ではその真意は分かりませんが、皆様との交流・・を望まれると思われます」


「交流……ですか?」


「はい。『銀朱の蒼穹』は急速に成長するクランです。それに本日その強さも納得しました。先日『暗黒の断崖Aランクダンジョン』で出会った皆様から、想像もつかないような強さを身に付けておりますから、その活躍も納得というモノです」


「なる……ほど」


「これは私の上司であるアインハルト様からの伝言ですが、アクアソル王国の『王家のダンジョン』というモノがある事を伝えてもよいと言われております」


「王家のダンジョン?」


 アクアソル王国にダンジョンがあるなんて全くの初耳だ。


 ミリシャさんに視線を移すと、彼女も知らないと顔を横に振る。


「はい――――――世界の数少ない『Aランクダンジョン』でございます」


「ええええ!?」


 世間一般的に知られている『Aランクダンジョン』は、ゼラリオン王国に一つ、帝国に二つ、噂によると魔女の森に一つ、砂漠のアポローン王国に一つの計五つが全部なはずだ。


 しかし、ここに隠された六つ目の『Aランクダンジョン』を知るという事は、とんでもない情報でもある。


「ソラ様。『銀朱の蒼穹』の皆様。我々アクアソル王国はそれ程までに皆様と交流・・を持ちたいと考えております。これがどういう意味かは、私なんかでは想像しか出来ませんが、王国の一員としてここまで情報を提示する見返りでも良いので、ぜひ女王様に一度会って頂きたい…………ずるいやり方かも知れませんが、どうか、よろしくお願いします」


 セリアさんは深く頭を下げる。


 彼女からも、この手紙からもよこしまな気配を感じない。


 ――――それに。


「セリアさん。頭をあげてください。実は俺達は元々『アクアソル王国』に行く予定でした」


「っ!? それは本当でございますか!?」


 周りにいたうちのメンバーがキョトンとした表情で俺を見る。


 まあ、行く予定だったのは本当だけど、言うのは初めてってやつだ。


「実は此度の戦争が終わった後、『銀朱の蒼穹』の皆で休暇に行こうって約束していたんです」


「!?」


 フィリアが過剰反応すると、隣にいたカールが小さい声で笑い出す。


 ルリくんとルナちゃんは、また始まったよ――――的な表情を見せる。


 二人がこういう表情を見せるのは珍しくない!?


「そうでございましたか。それはとても僥倖ぎょうこうでございますね」


「ええ。ただ今すぐには事情があって行けないので、来月にはお邪魔出来るかと思います。その時はぜひよろしくお願いします」


「お任せください。それはそうと、皆様はどれくらいの人数で来られますか?」




「えっと――――千人です」


 ずっとクールな表情のセリアさんが面白い表情になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る