第108話 全面降伏

 俺達はそのまま北上し続ける。


 王様の本陣と別れて、森の中に入ると、今回参戦出来なかったメンバー達が待っていてくれていた。


 荷車に乗り込み、いつものラビに飛ばして貰い、北上を急ぐ。


「ミリシャ姉、全て読み通りだったね」


「ええ。きっとジェローム様も耐えているはずだけど、攻めはしないと思う」


「本陣と合流してからですかね?」


「それもあるけれど、もしもかの戦場にハレイン軍が攻めて来た場合、挟まれる形になるからね」


「負ける時の事も考えれば……なるほど」


「ただジェローム様は王国でも一番と謳われている歴戦の戦士。このまま『シュルト』が参戦すれば、間違いなく一緒に攻めてくれると思うわ」


「分かりました。このまま『シュルト』はミルダン王国本陣を叩きましょう!」


「「「「おー!」」」」


 暫く空を飛ぶ旅を経て、戦場が見える森に着地する。


 準備を終え、『シュルト』として戦場に駆けつける。




 戦場はミリシャさんの予想通り、お互いに睨み合いながら小競り合いを行っていた。


 両軍共、お互いに援軍待ちの状況だろう。


「『シュルト』開戦!」


「「「「はっ!」」」」


 最初に肆式の魔導士組の魔法をミルダン王国の本陣に叩き込む。


 いきなり広がる爆炎に両軍共に驚くが、全ての爆炎がミルダン王国に広がっている事にジェローム様がいち早く判断し、進撃の太鼓を鳴らして、ミルダン王国軍本陣に攻め入った。


 俺達もその手伝いとして、相手本陣に横やりを入れる。


 固い防御力を誇っているミルダン王国軍も、魔導士の魔法に十発も飛んで行くと大きなダメージを追っているようだった。


 兵士達が次々爆炎に飲み込まれ、戦場に悲痛な叫び声がこだまする。


 ジェローム様の進軍も素早く進み、ミルダン王国軍を次から次へと斬り伏せて行く。


 逃げていく高官は『ブルーダー』達を逃がす事はなかった。


 半日。


 戦争は終結し、攻めて来たミルダン王国軍は文字通り惨敗を喫した。




 ◇




 本陣の戦いが終わり、ミルダン王国軍の本陣があった場所に一度陣営を整える。


 一度ジェローム様の所に向かう。



「『シュルト』だな?」


「はい、この度の素早い対応ありがとうございました」


「うむ。あの爆炎には驚いたが…………あれは魔法か?」


「はい。魔導士隊がございますので」


「…………」


「王様は南側の帝国を警戒して、『シカウンド地域』に残られております」


「ふむ。了解した。ではこのまま西側を攻める選択を取るべきだろうな」


「報酬の件は後回しでよいので、我々もお供します」


「それは助かる。ただ、悪いが報酬は少し手加減してくれると助かる」


「ふふ、かしこまりました」


 俺達はジェローム様と共にそのままミルダン王国に進軍し、ミリシャさん達には、そのまま王都に戻って貰った。




 ◇




 ミルダン王国の東砦『アンブロ』。


 ここに来るまでの間、ジェローム様と一緒に来られたので、ミルダン王国について少し聞いてみた。


 どうやら好戦的な国ではなく、此度の戦争も不可解な事が多いという。


 そもそもゼラリオン王国とは仲も良好なはずのミルダン王国とエリア共和国。


 ハレインにそそのかされたのは間違いないだろうけど、そう簡単にゼラリオン王国を攻めるのだろうかという謎があるらしい。


 三千の兵で戦争を始めたミルダン王国軍も既に半数を減らし、残り半数も既に戦える状態ではない。


 『ブルーダー』達のおかげで、ミルダン王国軍の司令系統は全滅しているので尚更だ。


 そして、



「ジェローム様。どういたしますか?」


「ふむ……困ったモノだな。『ヒンメル』の意見を聞いても?」


 俺達の前の砦には、恐らく戦えない兵が千五百、元々守っていた二百人くらいいるのだろう。


 砦の上に映る兵の影はそれほど多くない。


 我が軍は四千にも及んでいるので、その数は既に圧倒的なモノになっている。


 そういう理由もあり、向こう砦では白旗・・を掲げていた。


 戦場で白旗というのは、負けを認め降伏するという意思表示。


 その砦は降伏するという事で、城壁から武器を投げ捨て、城門を開いて中からこの砦を仕切っている者と思われる人と沢山の兵士達が両手をあげて出て来た。


「わたくしとしては、人材は最も大事な資源・・だと思っております。ミルダン王国の全ての者を隷属・・させるのも一つの手かと」


「…………そこまでしてしまっては、帝国が黙ってはいまい」


 実はこれもミリシャさんの予想通りだ。


 我々『シュルト』は、基本的な思考を残虐非道な集団として、王国側に刻む必要がある。


 ミルダン王国の全ての者を隷属させるとか言い出したら、どちらかと言えば、俺達が止めるが、ここは一つ芝居を打っておく。


 そうする事によって、王国側はミルダン王国に対して賠償くらいで済ませるはずだ。


「帝国とは事を構えないのですか?」


「先日はハレインの秘策によって勝利した。だが、あれは帝国のほんの一部であり、どこか切り捨てた形跡まである。本隊・・が来れば、今の王国としては厳しい戦いになるだろう。ましてやハレインがいない今……ミルダン王国の者をさらに庇って戦うのは得策ではない。ここは賠償金くらいで十分だろう」


「…………浅い考えでした。帝国はそこまで強いのですね。それはそうとエリア共和国はどうなさるのですか?」


「そうだな。あの国がこの戦争に加担したという証拠さえあれば、あの国にも多少無理を聞かせるのだがな」


 それを聞いた俺は、懐から取り出すふりをして、『アイテムボックス』から書状五つを取り出す。


「ジェローム様。こちらはその証拠・・になりますが、購入・・して頂けますでしょうか? 後払いで良いので……」


 ジェローム様は、何か納得したように苦笑いを浮かべ、「『シュルト』らしい交渉だな」と言いながら書状を受け取った。

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