第68話 ハイオーク戦

 大きな包丁型大剣を片手で持ったハイオークの大剣がフィリアに振り下ろされた。


 サラッと避けたフィリアはそのままハイオークの手を斬る。


 直ぐに後方から二本の真っ赤な弓矢が飛んできて、ハイオークの頭で爆発した。


「魔法を足元に!」


 後衛の魔法使いから両足を目掛けて魔法を放つ。


 色んな魔法が飛びかかり、ハイオークの両足を傷つける。


 その衝撃で、ハイオークが倒れた。


「目を重点的に攻撃!」


 俺はすかさず指示を飛ばした。


 アムダ姉さんとイロラ姉さんが倒れ込んだハイオークの顔を両側から攻撃し始める。


 その攻撃を邪魔しないように、カールの魔法が上空から放物線を描き、ハイオークの倒れ込んだ顔に直撃する。


 数秒攻撃を終わらせると、ハイオークから真っ赤なオーラが出始めた。


「例の攻撃が始まった!! 全員退避!!」


 直ぐに全員がハイオークから真っすぐ遠くに逃げ始めた。


 そして、




 ゴゴゴゴゴォ




 ハイオークの周囲で強烈な爆発が起きた。


 爆発による爆炎が周囲を包み込み、空に舞い上がる。


 爆炎が消えた跡に、ハイオークが悠々と立ち上がっていた。


一回目・・・終了! あと二回!」


 ハイオークはある程度体力を削ると、周囲に爆炎を撒くとの事だった。


 案の定、一度目の爆炎が終わった。


 もう二回あるので、それまでまた削らないといけない。



 起き上がったハイオークは、一番近くにいたフィリアに向かって飛びかかった。


 そのタイミングに合わせて、弐式の弓矢が周囲の普通のオークたちに飛ぶ。


 ハイオークの強烈な攻撃が、フィリアがいた場所に大きなクレーターを作る程に叩きつけた。


 土や石が周囲に飛び散る。


 みんな飛んできた石を避けながら、ハイオークの次の行動に注目する。


 弐式のおかげで、周囲のオークが全く寄せつけていない。それがとても助かっている。


 周囲に散った仲間達には攻撃より回避するように伝えてある。


 タイミングを見計らって、一か所――――俺のところに集まる事になっている。


 ゆっくり体勢を戻したハイオークがフィリアを狙って、次々攻撃を繰り返しながら進んだ。


 フィリアは一撃一撃しっかり避けつつ、後方に――――俺の方に逃げてくる。


「よし、次!」


 次の合図をすると、カシアさんとエルロさんが武道家のスキル『集中』を使う。


「エルロ、左足を頼んだ!」


「おうよ!」


 走っていたハイオークのそれぞれの両足に二人の打撃が刺さる。


 本来ならびくともしないはずのハイオークがぐらつく。


「獣王奥義! 牙連双撃!」「獣強人奥義! 岩破撃!」


 ぐらついているハイオークの足に二人の強烈な攻撃が更に追撃する。


「ハイオークが倒れる! 欲張らずに攻撃!」


 みんながそれぞれの部位にダメージを蓄積させていく。


 その時、倒れたハイオークの右手が接近していたアムダ姉さんを殴り飛ばした。


「アムダ姉さん!」


「くっ! 大丈夫! ラビちゃんのバリアが効いてるよ!」


 吹き飛ばされたアムダ姉さんに、ミリシャさんが急いで走って行き、慣れた手付きで回復魔法を掛ける。


「よくやったラビ!」


「ぷぅー!」


 また起き上がろうとするハイオークの顔面にカールの魔法が炸裂する。


 そのまま一分ほどが経過した時、ダメージが蓄積されたハイオークから赤いオーラが立ち上った。


「二回目! 全員退避!!」


 そして、一度目同様、爆炎が舞い上がった。


 隣に来たラビが「ぷぷぷー!!!」と鳴き声を上げた。


 どうしたんだろう? と思っていると。


 ラビの風魔法で、爆炎がそのまま上空ではなく、ハイオーク自身に降り注いだ。



 グラアアアアアア!



 ハイオークの悲痛な叫びが周囲に広がった。


 自分を守ろうと放った攻撃が、自分に降り注いで来たのは想定外なのだろう。




 爆炎が消えた後、ボロボロになっているハイオークの正面にフィリアが立った。




「剣聖奥義、百花繚乱!」




 いつもよりも増して剣戟が花びらのように舞い散り、ハイオークの全身に傷が増えていった。


「全力攻撃!!」


 俺達の全力攻撃がハイオークに集中し、その場にいたハイオークがその場から消え去った。


 その跡には、ハイオークの素材が大量に落ちていた。


「まだオークが残ってる! 弐式は変わらず周りの排除! 他は素材を回収して!」


「「「「はい!」」」」


 俺達は戦いの後も油断する事なく、素材を速やかに回収して、平原を後にした。




 ◇




「ハイオークの牙! こんなに早く取って来るとは……それにしても、他にも素材が余ってるな?」


「はい。ガイアさんの好きに使ってくださっていいですよ?」


「……そうか。分かった。後悔させない品を作ってやる」


「お願いします。他にも必要なモノがあったらすぐに言ってくださいね」


「ああ」


 ガイアさんは素材を大事そうに持って、工房に入っていった。


 これで漸く進められるフィリアの双剣がとても楽しみだ。



 それにしても、今回のハイオーク戦。


 一番の功労者を選ぶなら、間違いなくラビだろう。


 あの爆炎を風魔法でそのままハイオークに降り注がせるなんて考えもつかなかった。


 そのおかげもあって、最大の難所であった二度目の爆発の後、『怒れるハイオーク』状態には入らせずに倒せたのだ。


 俺はそのままミリシャさんの所に向かい、ラビの事を相談する事にした。

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