第44話 ソラの想い

 その日、俺達はまた同じ宿屋に泊った。


「ミリシャさん。パンの件、ありがとうございます」


「ふふっ、いいわよ。私だって『銀朱の蒼穹』のメンバーだもの。マスターをサポートするのが私に出来る事だからね。私はこれからもソラくんに冷静にアドバイスをしようと思うの。だから気にせず、ソラくんは自分は正しいと思った判断をして欲しいわ」


「分かりました。ミリシャさん。これからもアドバイス、よろしくお願いします!」


「ふふっ、お願いされました! カールくんに捨てられても頑張るわ!」


「えっ!? 俺は捨てないよ!?」


 ぼーっとしていたカールが慌て出し、それにみんなが笑う。


「あ、そう言えば、ソラ?」


「ん?」


 不思議そうな表情をしているフィリアが聞いてきた。


「子供達を『銀朱の蒼穹』の傘下組織にするって言ってたけど、どういう事?」


「あ~、ごめん。みんなにもちゃんと言っておかないと」


 俺がメイリちゃん達を見て思ったのは、何とか助ける事が出来ないかという点だった。


 しかし、助けるというのは簡単な事じゃない事も知っている。


 フィリアを始めとする孤児院出身のメンバーが多いので、孤児院の大変さについてよく聞かされていた。いや、俺が聞いていた。


 なので、色々考えた時に思い浮かんだのが、俺達の元パーティーの先輩達の事だ。


 俺には職能を与える力がある。


 更には中級職能ともなれば、そこらへんのDランクの狩場くらいなら楽に戦えるはずだ。


 それが三十人ともなれば、その狩場で生計を立てるのも容易いだろう。


 だから、思い付いたのは、パーティーを組ませて生計を立てさせる事だった。


 その想いをフィリア達に伝えると、みんなも笑顔で頷いて納得してくれた。



「それで思ったんだけど、以前ただで与えるだけではいけないって事も思い浮かんだんだよ。だから彼らにはいっその事、力を与えてその力を使い狩りをして稼ぐ事にして、俺に一番必要な経験値で返して貰う。そういう組織を作れば、お互いに利があると考え付いたのさ」



「うん! ソラらしい考えでとてもいいと思う! 結果的にちゃんとソラの為にもなるし、ひいては『銀朱の蒼穹』の為にもなるからね!」


「ん? 『銀朱の蒼穹』の為にもなる?」


「うん! もし、ゆくゆくクランハウスを建てた場合、人手は必要だからね。少しでも信頼出来る相手の方がいいから、いつか彼女達にもそういう事をお願いする方向でいいんじゃないかな?」


「クランハウス?」


「うん。クラン専用の建物だよ? ほら、クランマスターって土地が持てるでしょう? それで建物を建てたりして、クランハウスとして経営するクランが殆どだと聞いてるよ?」


 俺とフィリアがミリシャさんを見つめる。


 ミリシャさんが小さく苦笑いして、「その通りだよ」と答えてくれた。


 それを聞いて「えっへん!」と胸を張るフィリアが可愛かった。




 ◇




 次の日。


 俺達は馬車乗り場の前にやってきた。


 旅費は十分過ぎるくらい用意してるからメイリちゃん達が来ても十分に連れて行ける。


 馬車乗り場の前で暫く待つと、町の奥から、大勢の子供達が見え始めた。


 メイリちゃんと始めとする孤児達だった。


 俺が手を振ると、メイリちゃん達も笑顔で手を振る。


 それを見たミリシャさんが馬車乗り場に向かい、料金を払い、馬車の準備を進めた。



「メイリちゃん。いらっしゃい」


「ソラ! これからよろしくお願いします! 全力でソラ様の力になります!」


 既にソラ様になっていて、少し苦笑いがこぼれた。


「とにかく、これから色々説明するから乗ろう!」


 俺達は用意された馬車に二手に分かれて乗り込んだ。


 向こうではカールが、こちらでは俺がこれからの流れを説明する。


 まだ『無職』以上を得た子供が誰もいないので、次の町、ゲシリアン子爵領の中心地『ゲスロン街』で全員開花させようと思う。


 『無職』以上にさえなってくれれば、俺の力で全員中級職能にはなれるからね。


 こうして、俺達は波乱が待ち受けている『ゲスロン街』に向かった。


 どす黒い想いが暗躍する王国最悪の街、ゲスロン街に。




 ◇




 とある屋敷の地下。


 瓜二つの男女の子供がみすぼらしい部屋の中にいた。


「ルナ……痛くない?」


「うん。ルリは痛くない?」


「ああ、俺は男の子だからね。痛くなんて――――痛っ!」


「ふふふっ、痛いじゃん!」


「押されたら痛いわ!」


「はぁ…………」


「…………ルナ。いつか助けが来るから頑張ろう?」


「……うん。ルリがいてくれるから頑張れる」


 男の子は自分そっくりな黒い髪の可愛らしい女の子の頭を撫でる。


 女の子は気持ちよさそうな表情になった。


 その時――


 ドン!


 扉が乱暴に開かれる。


「おい! 出番だぞ!」


 太った大人が入り、二人の表情が曇る。


「「はい……」」


 二人は大人に連れられ、とある部屋に向かった。


 その部屋からは嫌らしい笑い声と、叩きつける音と共に悲鳴が聞こえていた。


 悲鳴が響いた時、二人ともびくびくしてしまう。


 その部屋の中で、何が起きているのかが既に分かっている二人には、その時間が早く終わる事を祈っていた。

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