第25話 ギルドマスター

「は、はい。俺がソラです」


 男性は俺とフィリアの向かいに座った。


「私の名は、ガレインという。この冒険者ギルドのギルドマスターをしている」


「「ギルドマスター!?」」


 意外な答えに驚いてしまった。


 ギルドマスターはもっと年上の存在かと思っていた。それがまさか、こんなカッコいいお兄ちゃんのような方だった事に驚きだ。


「驚くのも無理はない。良く驚かれるからな。それで、まずは『攻略情報』の件だな?」


「は、はい。こちらになります。沼地での『レッサーナイトメア』の情報です」


 情報を書いた紙をガレインさんに渡した。


 内容をじーっと見るガレインさんは、時々「ほぉ……」と唸り声を上げた。


 暫く読んだ後、俺の目を真っすぐ見つめた。


「ここに書いてある内容が真実・・なら非常に有用な『攻略情報』となるだろう。『攻略情報』の売買に付いては詳しく知っているかい?」


「い、いいえ。そうしてくれた方がいいと、知り合いの方に言われて来たんです」


「そうか。では、『攻略情報』についてだが、まずこの情報が正しいかの確認を行う。それでこの情報の信憑性しんぴょうせいを確認し、それに見合う報酬を払う流れになっている。なので、結果が出るまでの暫くの期間は待って貰う事になるけどいいかい?」


「はい。大丈夫です。まだ目標があるので、この町を離れたりはしません」


「ふむ。では報酬に関してだが、二種類があり、まず我々が査定をし、それに見合った額を支払って、その情報の権利を買い取る『買い切り』が一つで、こちらは内容が下判定の場合に適用されるんだ。しかも、この場合、売らないという選択も出来ないんだ」


 ふむふむ……。


 『攻略情報』の内容次第で、冒険者ギルドから判定が下され、下判定になった場合は一回お金を受け取って終わりなんだね。値段も冒険者ギルド次第か。


「もう一つは、内容が上判定の場合、買い取れないほどの権利だと判断し、我々冒険者ギルドが君の代わり・・・にこの情報を販売して、その利益の一部を君に還元する事となるよ」


「俺の代わりに……?」


「そう。権利というのは、非常に厄介でね。中にはお金で買えないほどの権利もあるのさ。そういう情報は『特別情報』と呼ばれ、王国から永遠に守れる事となるのさ。もしも、ここに書かれている『攻略情報』が『特別情報』と判断された場合、我々冒険者ギルドが君からこの権利を借り、代わりに売って、その利益を君に還元する事になるのさ。その際の販売値段も君が好きに決める事も出来るが、安すぎる場合や、高すぎる場合はギルドマスターである僕から少し相談させて貰う事になるかもね」


 ガレインさんの丁寧な説明のおかげで、簡単に理解できた。


「ありがとうございます! では査定の程、よろしくお願いします」


「ああ、任せてくれたまえ。それはそうと――」


 ガレインさんは受け取った紙を懐にしまう。


 そして、


「実は君の事はミリシャくんからよく聞いていてね」


「え? ミリシャさんから?」


「ああ、どうやら…………クランを設立させたいと聞いているが……?」


「あ! はい。そうです」


「ふむ…………大変失礼だとは思うが、君の隣にいる彼女なら、今すぐ・・・にでも設立出来ると言ったら――――どうする?」


 ガレインさんの言葉が俺の胸に突き刺さる。


 フィリアが設立したクランなら…………と一瞬思ってしまうくらい、魅力的な提案に、何故か心が奪われそうになる。


 その時、フィリアが立ち上がった。


「わた――――」


 フィリアが何かを話そうとした瞬間、


 ガレインさんの殺気・・にも似たその威圧感が俺達に向けられた。


 そして、冷たい瞳がフィリアを睨む。




「僕はソラくんに聞いているよ? 君は――――彼の為を思うなら、少し見守る事を覚えるべきだね」




 凄まじい迫力に、フィリアですら言葉を続けられず、その場に座った。


「ガレインさん。とても魅力的な提案ですが、ごめんなさい。その提案は受けられません」


「…………その理由を聞いても?」


「はい。俺は決めたんです。自分の力を信じてくれた彼女や友人達の為に、自分の力で・・クランを作って、恩返しをしたい。こんな弱い俺を信じ、見守ってくれて、助けてくれたみんなの為にも、そして――――」


「……そして?」


「――――自分の為にも」


 隣のフィリアが途中、何かを言おうとしたけど、何も話さずに笑顔になった。


 一度目を瞑ったガレインさんは、一つ、大きく息を吸った。


 そして、目を開けた彼は、最初の優しい瞳に戻っていた。


「これは脅かして済まなかった。実はソラくんを試してみたくてね」


「え? 俺を試す??」


「ああ、ミリシャくんが君の事をあまりにも勧めるものだからね。あの子があそこまで応援する人は初めてで、どんな凄い子なんだろうと思ったのさ。そうか…………君がこの情報を考え付いた原動力はそこにあるのだね」


 先程、懐にしまった俺の攻略情報が書かれた紙を取り出し眺めていた。


「うん。君ならきっと大丈夫だろう。だが、ない者の話など、世間はそう簡単に聞いてはくれないのさ。ではソラくん。君に『クラン設立の条件』を言い渡そう!」


「えっ!? え? へ?」


「君にはセグリス町から西に進んだ場所にある『亡者の墓』というダンジョンに向かって貰うよ。そして、その三層にいるBランク魔物『フォースレイス』を倒して、『フォースクロース』を持って来て貰う。アドバイスは基本的に禁止にされているが、君にはあまり意味がないと思うし、まだ若い君に一つだけ言葉を送ろう。――――事前調べはしっかりね」


 ガレインさんの突如とした言葉に、あっけに取られていると、フィリアが「やったね!」と喜んでくれて、それで漸く現状を理解できた。




 …………絶対達成してやる!

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