第10話 幼馴染の想い

「ソラ、あ~ん」


「ま、待って! もういらないってば!」


「え~いいじゃん、ちょっとくらい!」


「ちょっとくらいじゃねぇよ! そのリンゴ何個目だと思ってるんだよ!」


 既に数個のリンゴを剥いては、俺の口に運ばせているフィリア。


 先日のアビリオとの戦いで全身を斬られた俺は、自分の意思で動く事すら出来ず、こうしてフィリアに介護されているのだ。



 アビリオとの壮絶な…………と言いたいけど、一方的な負けだった。


 でも俺の力を上乗せしたフィリアが圧勝して、結果的には勝ちという形になり、何故かフィリアはずっと俺にべったりだ。


 あんまりベタベタする方じゃなかったんだけどな……。



 それはそうと、実は先日の戦い。


 フィリアはわざと負け続けていたそうだ。


 では当日、俺の新しいスキル『キャリア』でサブ職能を与えなかった場合はどうなったんだろう? と疑問に思って聞いてみた所、その力がなくても勝てたとの事だ。


 そのカラクリについて聞いてみた。


「えっとね。私があのバカの所に行った時には、既にソラの『経験値アップ②』が付与されていたでしょう?」


「そうだね。丁度『経験値アップ②』を獲得した頃だったね」


「ソラは『経験値獲得』についてあまり知らないかも知れないんだけど、単純に言えば自分より強い相手と戦えば戦うほど、より高い経験値を獲得出来るんだよ」


「へぇー? それは初耳だな?」


「ふふっ、アム姉達と狩りをしていた時に気づいたんだよ。それと『経験値アップ①』の場合、獲得率二倍と言っていたでしょう?」


「うん」


「その二倍って、単純な二倍なのかを検証していたんだよ」


「単純な二倍??」


「例えば、ゴブリン一体の経験値を仮に3とするよ? それが単純に6になる。まではいいんだけど、思っていた以上にレベルが上がるのが速かったんだよね」


「思っていた以上に速い?」


「うん。さっきの観点から行くと、レベルが2になれば、ゴブリン一体の経験値は2に減るの。更に必要な経験値も多く必要になる気がするから、レベル1の頃よりも沢山魔物を狩らなくちゃいけないのよね」


「ふむふむ」


「でもソラの『経験値アップ』を貰った場合、レベルが上がっても、獲得する経験値が減算・・しないような気がしたの」


「へ? 減算しない? それって……レベルが上がっても獲得経験値が下がらないって事だよね?」


「そういう事! ずっと感覚的にそう感じていたから、アム姉達にお願いして数値化してみたの。ゴブリンだけ狩ってね」


「いつの間にそんな事まで!?」


「だって、ソラの力なんだよ!? 弱いはずがないじゃん? だからずっと調べていたの。ソラの職能がどれだけ凄い職能なのか」


 い、いや……真顔で俺の職能だから凄いって言われても……ちょっと恥ずかしいというか…………。


「な、なんでそう言い切れるんだよ……」


「えっ? …………だってソラだもの」


「なんだそれ……」


「理由も理屈もどうでもいいの。ソラの職能が弱いなんて、私は認めないんだから」


 本心から言っているのは、長年一緒に過ごして来た仲だから分かってしまうんだけど、それが返って恥ずかしくなる。


「と、そんなこんなで調べてみたら、どうやらソラの『経験値アップ』というスキルはとんでもないスキルで、経験値減算が無くなるから、アム姉達が同じレベル1の時点で、職能の差で私は獲得経験値1、アム姉達が3になっていたはずなのに、私もアム姉達も得られる経験値は3のままだった、って感じだったの。数値が正しいかまでは分からないんだけど、レベルが上がった数値を計算した時、そういう計算になったんだよ」


「そ、そうか……凄いなぁ」


「うん! ソラは凄い!」


「いやいや、俺じゃなくて、フィリアが凄いよ」


「えっ? 私?」


「得体も知れないスキルをそこまで計算してくれて、色々試してくれて、解明してくれて……フィリアは本当に凄いよ」


「えへへ」


 フィリアの無邪気な笑顔がまた美しい。


 ――とそんなやり取りをしていると。



「あ~あ~、ここは甘いお花畑なのかしらね~」



 と言いながら、アムダさんとイロラさんが部屋に入って来た。


「あっ、アムダさん、イロラさん、いらっしゃいです」


「アム姉、イロ姉、いらっしゃい~」


 アムダさんがニヤニヤしながら入って来た。


「ふふっ……ソラく~ん」


「え、えっ、は、はい?」


 怪しい笑みを浮かべたアムダさんが近づいて来た。


「今日までの分の経験値も納めるね?」


「えっ!? い、いえ! 暫くは――――」


 と最後まで言わせて貰えず、アムダさんが俺の身体に押しかけてきた。


「アム姉!? だ、駄目っ!!!」


「え~いいじゃん、ちょっとくらい!」


 アムダさんがフィリアの声真似をする。ちょっと似てる。


 って!!


 最初から見ていたのかよ!



 フィリアが押しかけてくるアムダさんを阻止しながらドタバタしていると、一緒に来たイロラさんがすーっと僕に近づき、手を取ってくれた。


「ソラくん、私の、どうぞ」


「あ!! イロちゃんだけズルい!!」


「イロ姉まで!?」


 三人のドタバタしているのを見て、俺は幸せな気持ちになった。




 後日遊びに来てくれたカールに話したら、「リア充爆発しろ」と初めて聞く意味の分からない事を言いながらデコピンしてきた。


 くっ……動けないから反撃出来ん!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る