第8話 初めての決闘

 一週間が経過した頃、俺の顔にも焦りが出始めた。


 冒険者ギルド伝手で知った事だが、あと三週間もするとフィリアが王都に連れて行かれてしまうかも知れないとの事だった。


 その前に出来る限り強くなって、フィリアを取り戻したい。


 それで焦る俺だったが、アムダさん達の励ましのおかげで何とか冷静を保てていた。


 そして、毎日休む事なく魔物狩りを続けていく。


 そんな中、カールや先輩達の顔にも疲労が見え始めた。


 先日の作戦を提案した事と、後方から見ている事しか出来ない俺だったが、カールの提案で、このパーティーのリーダーになった。


 パーティーの方向性や決まり事など、基本的にリーダーに従うのが冒険者パーティーのルールである。


 命に関わったり、強制するような指示じゃなければ、基本的に指示に従うのがこの世界の決まりだ。


 なので、色々悩んで、定期的に休日を作る事にした。


 最初、一週間……つまり七日のうち、一日を休日にすると発表した時、カールから反対された。


 今はフィリアを優先するべきだからと。


 カールの言い分も分かるし、先輩達もそうしたいと言ってくれたけど、そこは譲らず七日のうち一日を休日にした。


 実はこの休日にも理由がある。


 毎日狩りをしていると、狩りに慣れてしまい、危険管理が減ってしまうのだ。


 冒険者ギルドで色んなパーティーから話を聞いていた頃、一番印象に残っていた意見だった。


 なので、定期的に休日を入れて、身体と精神を休ませ、贅沢をする。


 そうする事によって、また狩りに出掛けても、緊張感を取り戻せると思ったからだ。


 この世界のリーダーの指示は余程でない限り優先される。だからみんな渋々休日を受け入れるしかなかった。


 休日に入る前日の夜、みんなには「フィリアの為に毎日頑張っている事は知っています。でも、フィリアを助け出した時に、俺達がボロボロでは意味がない。狩りはいつ命を落とすか分からない危険な戦いです。だから身体と精神をゆっくり休めてください。やりたい事をして、美味しい物を食べてください。それが生きる糧となるはずです。俺達はここで終わる訳には行きません。だから…………勝つ為に全力で休みましょう」と言っておいた。


 最後には全員納得してくれて、狩りで得た報酬も孤児院の分を引いて、全員で山分けにする。意外にもそれぞれ遊ぶ分には大きな金額なので、久々に美味しい物を食えそうだ。


 休日となり、俺はカールと久しぶりに街を歩いては買い食いをして遊んだ。


 いつもならここにフィリアもいたはずだ……いや、これから一緒にこうすればいい。必ず……迎えに行くから待っていて。




 それから三週間が経過した。


 狩りも効率良く、且つ安全に進めたので大きな怪我をする事なく経験値を貯められて、遂に俺のレベルが3から4に上がった。


 そして、俺はまた大きな力を一つ獲得した。




 ◇




 フィリアがクソリオに行ってから四週間。明日には王都へ旅立つ事が予定されている。


 そして、本日……遂に俺達はクソリオの屋敷に突撃した。



「なっ! なんだ! 貴様らは!」


「邪魔だ! どけ!」


 先輩達が屋敷の入り口を守っていた衛兵を吹き飛ばした。


 既にレベルも沢山上がっている先輩達に衛兵は成す術なくやられていた。


 この短期間で既にこんなに強くなっていたのね。



 しかし、


 もしかしたら行けるかもと思った矢先、屋敷の奥から肌に刺すような殺気が俺達を襲ってきた。


 何もしていなくても肌がピリピリする。


 屋敷の奥から現れたのは、クソリオこと、剣聖アビリオだった。


「…………ゴミ虫どもが」


 いつも飾ったような優雅な喋り方ではなかった。何かに、相当イライラしているんだろうな。


「ふん、お前にフィリアは渡さない!!」


「……そうか。では吾輩が直接手を下してやろう」


 広場でアビリオと俺が対峙する。


 これだけで既に彼との格差を思い知らされる。


 だが、負ける訳にはいかない。


 俺にも……新しい力があるのだから。



 アビリオが剣を抜いて、真っすぐ俺に向かって飛び上がった。


 凄まじい速度に、焦りつつ、俺も剣を抜いてアビリオの剣を弾き返した。


「ほぉ? お前は確か……ハズレ職能のはずでは?」


 傲慢そうに見えて、意外とそういう情報を手にしているんだな。


「残念、今は……『剣士』だよ!」


 スキル『両手持ち』による効果により、俺の両手の切り払いは通常の二倍の威力となる。


 『剣士』の最も代表的なスキルである。


 カーン。


 少し面食らったアビリオは、俺の切り払いをまともに受けて、後方に飛ばされた。


 これなら……勝てるかも知れない!



 と思った時、飛ばされたアビリオがその場に優雅に着地する。


「くっくっくっ……雑魚の分際で、『剣士』如きが『剣聖』に叶うとでも?」


 アビリオの言葉が終わった瞬間、目にも止まらぬ速さの剣戟が俺を襲った。


 俺も、先輩達も、見守っていた全ての者の誰も見えない速い剣戟に、俺は成す術なく、その場に倒れた。


 ああ……悔しいな……。


 強くなったはずなのに……俺はフィリアを守れないのか……。


 また悔しくて涙が溢れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る