君の慟哭を聴かせて

琴葉 刹那

プロローグ 海の底

 懐かしい夢を見た。とても懐かしい夢を。


「もういいかい」


「まーだだよ」


 二千十一年、八月二十四日。


「もーういいかい」


「まーだだよー」


 愛媛県の海辺。


「もーういーかーい」


「もーういいーよ」


「よし!あっ!母さん達は何も言うなよ!今日こそは自分の力で、雫を見つけてやるんだから!」


「分かってるよ」「はいはい」


 両親と兄の、毎日。


 ドサッ。

 

 一つ。隠れていた私の耳に、何かが倒れた音が来た。


 ドサッ。


 二つ。刹那も過ぎぬ間に、もう一つ、何かが地に伏す音がした。


「あああああああぁぁぁぁああ?!!」


 サクッ。


 誰かの絶叫と軽快な音。緊張感のまるで違う、二つの音。

 三つ目のドサッ、と誰かが去る砂浜の音。両方とも、さざ波の声に上書きされて——。


 階段の裏に隠れていた私は、この時何を思ったのだろう。

 ただただ身を縮めていた私は、何であの時飛び出していかなかったんだろう。

 酷く辛く、息苦しい。

 あの頃の海は綺麗だった。そう見えた。でも、今の海は薄暗い。

 一日歩めば気力を失い。

 思い出に浸っては胸が詰まる。

 それはまるで。

 口を開けば酸素がなくなり。

 過去ばかりで前の見えない、海の底の様。

 ああ、早く。

 ———死にたいな。

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