心臓怪火 3

 ◇


 二〇十八年、季節は秋の香りが漂う九月上旬。

 時刻はお昼過ぎ。


 とある小さなアパートの一〇二号室にて。


「おい。てめーマジでふざけんなよ?」


 私の部屋に入ってきたかと思えば、リトは空になった洗濯物の籠を手に抱えながら開口一番にそう怒鳴ってきた。


 リトの見た目は十代半ばくらいで身長は百七十もあるかないかといった所、茶色い髪に茶色の瞳だが三白眼のせいで目つきが大分悪く、睨まれるとそれだけで威圧感がある……らしい。

 私はリトを怖いと思った事がないのだが、情報屋のおじさん曰く「視線だけで人殺せそう」との事だった。

 服装は中に薄い長袖のシャツに半袖のポケットのついたジャケットを羽織っており、黒い長ズボンとスニーカーを履いている。

 何でも肌を見せるのは好きではないとの事で、夏でも薄い長袖を着用しているらしい。

 暑くないのだろうか? とそんな疑問が浮かぶが、まあ本人が良いなら良いのだろう。


「何でいっつもいっつも俺が洗濯する羽目になってんだ!?

自分の物は自分で洗えって何度言えば分かるんだよっ!」


 そしてリトは人差し指で私を指さして更に怒号を浴びせてきた。


 相変わらず怒ってるなぁ、と私は内心感心する。


 リトは私の事が嫌いらしく、いつも何かと理由を見つけては怒ってくる。


 が、別に私はリトからいくら嫌われようが怒られようが何とも思わなかった。


「あー、洗おうとは思ってたんだけど、まだ大丈夫かな、と思って」


 ずっと怒っているリトにそう伝えると、リトは更に血相変えて睨みつけてくる。


 どうやら今の発言は火に油を注いだらしい。


「何がまだ大丈夫かな、だよ!?

てめーそう言っていつもいつも洗濯物が山の様に積み上がってもいつまで経っても洗濯しねえじゃねーか!」


「ごめん。まだ着る物があるうちは大丈夫だと思っちゃって」


 一応謝ってみたが、リトの怒りは鎮まりそうもない。


「マジでふざけんなよな!

俺はお前の雑用係じゃねぇんだよ!」


「それじゃあ、リトって私の何?」


 別に雑用係とは思った事はないけれど、私とリトの関係は私達ですらよく分からなかった。


「知らねーよこっちが訊きてぇわそんなもん!

大体てめーの事俺は今頃これまで通り自由に暮らせてたっていうのによ!」


 悔しがる様にリトはそう叫ぶ。


「そっか。ごめんね?

私の方がリトより強くって」


 私がそう事実を述べると、リトは額に青筋を立てた。


「てめぇ、マジでふざけんなよ?」


 そしてリトは静かにそう告げると、私に全力で洗濯籠を投げつけた。


 私はそれを何事もないかの様にキャッチする。


「チッ! 少しはびびれよな。

クソッ」


「あ、ごめん。怖がれば良かった?」


 リトの呟きに私がそう答えると、リトは更に不機嫌そうに顔を顰めた。


「なめてんのか?

てめーのそういう所が嫌いなんだよ!」


 こうしてリトが私に終始キレている中、コンコンと玄関のドアがノックされる音がした。


「……チッ、おい、客だぞ」

「うん」


 私はリトにそう言われて玄関へと歩を進め、扉を開けた。

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