第24話 お互いの思惑
(【ディティクト】)
小声でそう唱えると俺は看破の魔法を使った。
この魔法は部屋にあるすべての魔導具を光で知らせてくれる。
魔導具から漏れる魔力に反応してその魔力を拡大して見せてくれるのだ。
(さすがは十二貴族だけあって立派な部屋だな)
案内された部屋は相当に広い。
品の良い家具にキングサイズのベッド。美術品に、備え付けの棚にはワインやブランデーなどの瓶が置かれている。
この部屋に案内したメイドからは「御自由にお飲みください」と言われているが、一本いくらになるかわからない高価な酒に手を出すつもりはない。
部屋を一周、天井から床を含めて見渡す。照明の魔導具がシャンデリアに埋め込まれていたり、空調の魔導具が壁に埋め込まれていたりなどなど、下層で泊った宿など比べ物にならないほど快適な空間を作っていた。
そんな中ベッドの枕元、ソファーとテーブルが並ぶテーブルの裏に俺は妙な魔力を発見する。
近づいて音を立てないように覗きこむ。
(これは……盗聴の魔導具だな)
バベル内の魔導具に関しては元々ここに住んでいたであろう大賢者の知識を得ている。
神器がいつからあそこに眠っていたのかわからないが、それ以降に発明された魔導具でなければ俺が知らない物はない。
形と流れてくる魔力からこれが盗聴魔導具だと断定した。
(やはり向こうもこちらの様子を探るつもりだったか)
一通り部屋の中を点検して、盗撮の魔導具までは置かれていないことを確認した。
――コンコンコン――
「ピートいる? 入ってもいいかな?」
許可を出すとシーラが顔を覗かせた。彼女は用意された寝間着に着替えており枕を抱きしめて部屋に入ってくると……。
「ちょっとお話できないかな?」
口元を枕で隠しながら上目遣いに見つめてくるのだった。
★
「それで、例の金属だけど何なのかわかった?」
マーガレットがそう言うと、執事は頷き部屋の外から別な人間が入ってくる。
傷をつけないように布にくるまれたオリハルコンを丁寧にテーブルへと置いた。
「鑑定の結果、こちらはオリハルコンで間違いありません」
「そう、詐欺を働くつもりで偽物を出したのかと思ったのだけど……、相手の意図が読めなくなったわね」
マーガレットはこれまでも何度か外界の人間と接する機会があった。中には野心を抱き不相応にもマーガレットの身体を狙う者、十二貴族の後ろ盾欲しさに媚びへつらう者を見てきた。
いずれの人間も、あの悪名高い外界を踏破してきたので高い武力を有していた。
スイエテ領は武力ではなく商売で権力を維持している貴族だ。
目的は外界から運び込まれる珍しいアイテムで、それを買い上げコレクションするのがマーガレットの趣味でもあった。
中でもカバンを持つ外界人は多くのアイテムを保有している。その興味からシーラのカバンを見たマーガレットだが、ピートはそれを見逃さなかった。
「あの場で明言しなかったのは言質を取られたくなかったからだけど、本物を出してきたのなら意味が薄れるわ」
用意していたかのようにあからさまな様子で懐からオリハルコンを取り出したのだ、罠を疑わないわけがない。
もしあの場で「オリハルコン」と答えていた場合、のちにそれを利用される可能性があった。
このあと、他の十二貴族とも面会の約束があると聞く。
もし他の十二貴族との面会の際に「何の金属かわからなかったが、マーガレットが鑑定してくれた」と言われてしまえばスイエテ家の当主が金属の素性を保証してしまったことになる。
「もしや本当に何の金属かわからないか買い取ってもらえれば幸い程度に考えていたのでは?」
執事の言葉にオリハルコンを鑑定した人間が答える。
「いえそれはないかと思います」
「どうして?」
「オリハルコンの鑑定方法は魔力を流してみること。実際に鑑定のためにやってみたところ、残留魔力がありましたので。あの少年が魔道士の可能性は高いかと思います」
「市民の間にも魔力を扱える人間はいるでしょう? そちらの線は?」
「彼らが第十層に滞在している間の素行はバベルの役人が調査しています。オリハルコンなんてものを取り出していたら情報が回らないわけないです」
鑑定した人間の報告にマーガレットはアゴに手をやる。
「ピートが魔道士……そうすると外でオリハルコンゴーレムを倒して手に入れた?」
マーガレットはピートの「地面に落ちていた」という言葉を信じていない。もしそんな偶然があるのなら過去に訪れた人間が同様の物を持ってくるはずだからだ。
ここ数年そのような物を持って現れた人間がいない以上、倒して手に入れたと考えるのが妥当だ。
「それこそあり得ません、オリハルコンゴーレムには魔法が通じないのですから」
ピートを魔道士と仮定するのなら倒した剣士がいるはず。
「そうするとシーラが剣で倒したと?」
その仮定が一致するのなら彼女のカバンの中には大量のオリハルコンが入っていることになる。
「いずれにせよ、こうも隠されては推測のしようがないわ。オリハルコンが本物なら価格を提示する。あとは向こうの出方を見ましょう」
「それでは、あちらの様子を探りますか?」
執事の言葉にマーガレットは頷いた。
★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます