大賢者の遺物を手に入れた俺は、権力者に屈せず好きに生きることに決めた
まるせい(ベルナノレフ)
第1話 落とし穴の中から人生逆転
「D級冒険者ピート、お前を犯罪者として拘束する」
目の前には白ひげを蓄えた目付きの鋭い老人がいる。このルケニア王国王都の冒険者ギルドのギルドマスターだ。
彼は俺に厳しい目を向けている。
「身に覚えがありませんが?」
「とぼけるな! 貴様はダンジョン内で他の冒険者にモンスターを擦り付けて危険においやった」
ギルドマスターの言葉を聞いて考えてみる。
ここ数日どころか数か月前までさかのぼってもそのような記憶はなかった。
「やはり間違いではないかと?」
「その証拠を出せるのか?」
ソロ冒険者の俺には証言をしてくれる人間がいない。
「逆に聞きたいのですが、どの冒険者が俺のことを訴えたのですか?」
「そっ、それは言えん」
冷静に突っ込むと冷や汗を掻きながら顔を逸らした。何やらきな臭い物を感じる。
俺がいぶかしんでさらに追及をしようと考えていると、
「お前たちっ! 入ってこい!」
外で待機していたのか、高ランク冒険者が数人入ってきて俺を拘束した。
「どういうことですかっ! 俺はやっていない!」
あまりにも横暴な態度に声を荒げると、
「ええい、その薄汚い口を閉じさせろっ!」
「ムグッ!」
布で口を覆われ言葉を封じられた。
「ギルドマスター、ピートはどうなるのですか?」
拘束している高ランク冒険者、全員ではないが顔見知りもいる。苦い顔をしているのはまだ俺のことを信じてくれているからだろうか?
「ちょうど【深淵ダンジョン】へ犯罪者を投獄する時期だ。一緒に連れていく」
その言葉を聞いて、俺の背筋が冷たくなる。
「し、しかし、罪が確定するまでは拘留するのが原則では?」
「くどいっ! 生意気な態度からして間違いあるまい! 歯向かうようなら貴様も仲間とみなすぞ」
その一言で全員黙り込む。それだけギルドマスターが言った言葉は俺たちの心に重くのしかかった。
「それにしても、まさか俺が犯罪者と一緒にあの【深淵ダンジョン】に放り込まれるとはな……」
天井を見上げながら俺はぼやいた。
ここは古くからある【深淵ダンジョン】と呼ばれる場所だ。このダンジョンができたのがいつなのかは記録にない。少なくとも数百年前にルケニアが建国されたころには既にあったはず。
大陸の中央にあり、ルケニアを含む十二国の中心にも位置している。それぞれの国に巨大な扉が設置されており、そこからダンジョンに入ることができる。
だが、扉が開くのは一年に一度。このダンジョンはある一定人数の人間が入ると閉じてしまうのだ。
今まで、このダンジョンに入って生きて戻ってきた者は誰もいない。当初はこのダンジョンを攻略しようとする国もあったのだが、毎年精鋭を送り出しては誰も帰ってこなかった。
国力を低下させると隣国とのパワーバランスを崩すことになるので、精鋭を送り込むのをやめ、ダンジョンの扉をあけっぱなしにしていたこともある。
すると、ある日大量のモンスターが発生しスタンピードがおき、国が壊滅するなどということもあった。
その日以来、周辺十二国は毎年ダンジョンに犯罪者をいれると協議の末決めた。
「つまり……嵌められたってことなんだよな」
気付いたのはダンジョンの前に立たされた時。俺以外にも何名か、絶望した様子を見せていた人間がいる。中にはギリギリまで無罪を訴えていた者もいた。
犯罪者たちは自分が【深淵ダンジョン】送りになると知っている。あがくならもっと前にあがいているので、土壇場で騒ぐはずがない。
恐らく、今年は犯罪者の数が足りず、その補填がギルドに回ってきたのだ。
その結果として、ソロで冒険をしている俺が選ばれたというわけだ。
水と食糧を渡され「なるべく奥まで進むように」と命じられる。
以前、スタンピードが起きていることから、モンスターが存在することは周知されている。犯罪者とはいえ、できる限り内部の敵を削って欲しいのか、武器や防具も与えられていた。
そんなわけで、俺が入ると扉は重厚な音を立てて閉まったわけだが……。
中に入った俺たちは無言で進んだ、周囲が犯罪者ばかりというのは怖かったが、こうなっては同じ立場だ。
少しでも固まって行動するべきと考えたからだ。
そして、その判断は間違いだった。俺は水と食糧、さらに杖とローブまで奪われた上で、最初から開いていた落とし穴へと投げ込まれたのだ。
「腹減ったな……」
あまりにもあからさまな罠なので、モンスターすら落ちてこない。俺が腹を抱えていると、ふと何かが光った気がした。
「今、何か魔力が動いたような?」
魔法の照明を近付ける。じっと見ているとときおり魔力が流れるのが見えた。
「これは……なんだ?」
壁に手を触れ確かめる。探りを入れていると、何やら変なものに触れてしまったようだ。
「動く……?」
壁が動き少し経つと、そこには入り口が出来ていた。
「まさか、こんな仕掛けになっていたなんて……」
あからさまな落とし穴だったので、落ちる人間はいなかっただろう。
もし仮にいても、仲間がいれば引き上げてもらえただろうし、魔力を認識できなければ気付きようがない。
「もしかして、何か食糧があるかもしれない?」
どのみちここにいたところで飢え死にだ。俺は覚悟を決めると中へと入って行くのだった。
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