第14話 消えた妹

 椿から唐突に言われた話を理解できずに聞き返す。


「おい、何があったんだよ」

【三日前から樹里じゅりが家に戻ってないのよ】

「え」


 椿つばきが言うには、昨日生野いくのの家族から電話があり、生野の家に来ていないか尋ねられたという。椿は生野の家族とともに捜索に当たったが、彼女は見つからなかった。


「三日前って、生野の姉さんの遺体が見つかった日だよな。お前、生野を家に送ってたんだろ?」

【ええ。だけど、その日の夜からいなくなったの。家出するような子じゃないのに……】


 確かに家の前まで彼女は歩いて行ったのだという。

 しかし、家には入らず、その場で行方不明になっていた。


「警察に届け出とかしたのか?」

【樹里の家族が出したと思う。でも、全然見つかってないみたい……嫌な予感がするわ】


 普通なら、警察に任せるのが筋なのかもしれない。しかし、俺も何か不穏な気がしてならなかった。姉の遺体を発見した直後に妹が行方不明……。


 生野は俺にとって数少なかった友人。椿とっては掛け替えのない友人である。

 たぶん、探偵である椿なら捜しに行こうというだろう。

 俺はあえて先手を取ることにした。俺も椿のもとで働いている以上、グズグズしていられない。


「なあ、椿。生野を捜しに行こう」

【え?】

「こんなところでグズグズしてられないだろ」

【……】


 一瞬スマホ画面の向こう側が無音になる。しかし、通話は続いていた。

 今更ながら俺、すごいこと言っちゃった気がする……。


【……ありがと、リツ。そう来なくっちゃね。私たちが動かなきゃね】


 小さく、かすれそうな幼なじみの声。しかし、わずかながら希望を感じ取れた。


***


 翌日、俺と椿は情報収集に当たった。常盤ときわ駅の近くで聞き込みを行った。とはいえ、街行く人に話しかけても反応はまばらだった。運良く話を聞いてもらえても、彼女を見た人はいなかった。

 駅前のベンチに座り込み、俺は晩秋の青空を眺めながら盛大にため息をついた。


「ダメだ……。誰も見てないって……」

「どこ行っちゃったんだろ……。私と別れたときは、確かに家の方向に帰っていったんだけど……」

「そこから忽然と消えた……」

「うん」

「まるで神隠しみたいじゃねえか」


 そういって俺は空を眺めた。

 ふと、脳内に別の顔が浮かび上がってきた。


――俺帰りたくねえよ! こんなに楽しいのにさあ。どうせ家だと、居場所ねえし

――やばかったよな……あそこ……マジで化け物が出るかと思った


 あいつも、ふと消えてしまったよな……。

 最後まで俺の味方で居続けた男。そいつは、中学の卒業式の翌日に消えてしまった。

 あいつ、及川おいかわとも仲良かったみたいだけど、今度訊いてみようかな。

 しかし、今は生野のことが先である。なぜか、生野とあいつがオーバーラップしてしまったようだ。


「どうなっちまったんだろう……」


 俺の口からそんな言葉が漏れる。

 しかし、椿は何かを思い出したのか、


「でも、人が消えるなんて、現実的にある訳がない。絶対何か痕跡があるはずよ」

「……まあ、そうだよなあ」


 ここはファンタジーの世界じゃない。現実的に、あるはずがない。

 椿は人差し指を立てて、俺の目を見た。


「三日前に遺体が発見されたとき、樹里は大谷城神社に来ていたのよね。たぶん、それ以前に神社に何かあることを知ってたんじゃないかな」


 確かにそうだった。椿が言うように、生野は神社の裏山に何かが隠されていることを知っていたのだ。

 俺は考えていたことを口にする。


「まさか、遺体があることをはじめから知ってたんじゃ……。それか、もう姉がこの世にいないことを察してて、せめてその痕跡だけでも見つけたかったとか」


 本当に考えても意味がないことだ。

 すると、椿はあることを提案してきた。


「ねえ、一度樹里の家に行ってみようよ」

「でも、本人は帰ってないんだぞ?」


 意外な椿の提案に俺は戸惑っていた。

 しかし椿は、これは当然ともいうように人差し指を立てた。


「帰ってなくても、何かヒントが隠されてるかもしれないわ。現場じゃなくても、こういうところは念入りに調べないとね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る