第87話 VSクラーケン

 

「kurolalala!!」


  甲高い金切り声が、辺りに響く。


「おい、秀一! こいつはなんなんだ!?」

「あれはクラーケン、この魔の領域を出ようとすると目覚める化け物さ」

 

  いやそんなことよりも攻撃パターンをだな……! ああクソ、んな事言ってる場合じゃねぇ!


「こいつ結構早い! 目を凝らせば少しは見えるから、各自の判断で避けてくれ!!」


  完全な透明じゃなかっただけマシか。勢いよく飛来してくる触手をすんでのところで避けまくる。


「で、こいつの攻撃パターンは!?」


  大縄の要領で触手の上を飛びながら、声を荒らげて秀一に問いかける。


「基本的には触手での攻撃。触手を全部切り落としたら突進……ぐらいかな」


  え、それだけ? 秀一が今の今まで倒せてないもんだから、もっと何かあると思ってたんだが。ただ単に倒してないだけか……?


「まずは一本一本触手を潰していくぞ!」


  タコの足は八本だから、一人ノルマ、一、二本で倒せるな。ちょうどよく向かってきた触手に向けて剣を振り下ろす。


「ぐ……ど、らっしゃあ!!」


  ぐにゃりと固いというより刃が通りにくいといった感触だが、力任せに叩き切った。


「おい、サトウ! こりゃダメだ!!」

「何弱気なこと言ってやがんだ、真……お……!?」


  叩き切った触手が、瞬時に再生されていく。見れば真緒もシモンもクソ上司の方も、触手を切るなり木っ端微塵にするなりした途端、触手が先から再生する。

 

「おい秀一、これどうなってんだ!?」

「さあ。あれは攻撃力はここの魔物としては低い。けど、生命力だけを見れば随一だよ」


  爽やかな顔でそう言う秀一は、向かってくる触手をいとも簡単に断ち切っていく。

  見えづらいせいで誰に注意が向かっているのか分かりにくい。少しでも逃げようとする素振りを見せたら、すぐに触手が飛んでくるから逃げ出すことも困難か。


「シモン、お前のスキルでどうにかならんか!?」

「無理だ。そもそもあの魔物には血が通ってねェからな」

「この感じだと、一撃大きいの入れてもすぐ回復しそうだしねー」


  シモンは無理だと首を横に振り、それにレイが続く。レイの言う通り、一撃大きいの入れても意味は無い。となってくると、クソ上司も決定打がないことになる。そうなると、残るはレイと真緒、秀一となる訳だが……。

  レイは火力がそもそも足りず。

  真緒と秀一は、広範囲の攻撃手段がほとんどない。


「秀一、なんかこう……いい感じの技をここ数年で覚えたりしてないか!?」

「さすがにないね。それがあったら、とっくの昔にここから出られたんだけど」

「まあそうだわな!」


  もう手がねぇ! 発勁でどうにかなるか? いや、あれは広範囲の攻撃じゃねぇ。気を練って範囲を広げても限度がある。

  思考に意識が向かいすぎて、腹に一発モロに喰らう。まずい、失敗した。

  何度か地面でバウンドして、ズザザザッと皮膚が削られる。見れば痛々しいほどに腕が真っ赤に染まっていて、額からもたらりと血が流れる。


「kurolalala!」


  鳴き声を発しながら、クラーケンが迫ってくる。剣は……ちっ、遠くに転がってやがる。

  こっちに来るなと手を横薙に振ると、血が飛び散って触手に付着する。


「『硬血』」


  付着した血が硬質化して、透明な触手を貫く。


「ぼーっとしてんじゃねェぞ」


  予想外のことに一瞬固まったクラーケンの隙を見て、剣を拾おうと走る。そこでシモンとすれ違ったその瞬間に、にやっと笑ってそう言われた。


「わーってるって」


  ただ、これ以上戦っても勝てる見込みはないか。かといって、ここから立て直したとして他になにか方法が思い浮かぶという保証はない。

  考えろ。クラーケンの動きを見て、弱点を探し出せ。

  再生力が高い敵には、その再生力を上回るほど攻撃を叩き込み続けるか、一撃で消滅させるかのどつちかだ。だが、このメンバーだけでは前者は不可能ではないが難しく、後者は図体がでかいせいで無理だ。


「うおりゃっ!」


  真緒が触手を同時に切り落とす。それに続いてモンクが触手を一本叩き潰した。


「――っ」


  その時、その瞬間確かに俺は見た。ほとんど透明だから、見えづらかったけれど、明らかにモンクが潰した触手の再生が真緒が切り落とした触手の再生よりも、遅く、完全に再生しきるまでの時間が長くなっていた。


  まさか、とは思う。だが同時に、この魔物の造形からしてこういった弱点というのは納得ができた。


  この場にいるのは俺、レイ、真緒、秀一、シモン、モンク、ルノーの六人と一匹。ルノーはさすがに除くとして、六人で八本……いけるか?

  一本目から六本目までのタイムラグ。間に合うかは正直賭けだが、これがダメならこれ以上戦っても勝ち目はない。……やるしかないか。


「……? どうした、急に動きを止めて」


  立ち止まって考え込んでいる俺を訝しんだが、秀一が話しかけてきた。


「秀一か。いやなに、いいことを思いついてな」


  おいおい、秀一くん。なんでそんなに警戒してるのかな?


「……いいことってなんだい?」


  恐る恐る聞いてくる秀一に、怖がらせないよう精一杯の笑顔を貼り付ける。


「あのでかいタコを倒す方法だよ。俺に考えがある」


  あはは、なんでさっきよりも警戒が強まってるのかなぁ?

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