第46話:電気くんの任務

 電気くんの遺体は、みるみるうちに骨と皮になってしまった。

 だが遺体の中に大きな石が見つかった。


『魔水晶だ。持っていけば役に立つだろう』

「魔水晶ってなんだ? セシリア知ってる?」

「うん。マナの結晶でね、これを持って魔法を使うと魔力を消耗しなくて済むの」

『その通りだ。古代の通貨としても使われた石であるぞ』


 こんなデカい石を? これ、俺の頭ぐらいの大きさなんだが。


「そうだ。電気くん、連れて行けとか言っていたけど……それってつまりどういうことなんだ?」


 猫サイズまで小さくなった電気くんは、バチバチと放電しながらちょこんと座っている。

 獣だった時に比べると、顔なんか完全に猫だ。可愛くなった。

 問題は触れようとすると、静電気で痺れること。あと実態がないので結局は触れないらしい。


『言葉の通りだ。我はお前たちが気に入った。封印石の外には出れぬからと言って怯えもせず、我を魔物避けに使ったり餌を与えたりと、まともではない』

「それ褒めてくれてるのか?」

『いや、特には』


 そこ、嘘でもいいから「そうだ」って言えよ。


『有翼人の娘は精霊使いであろう。我は精霊だ。契約をしてやる。だが娘ひとりではまだ力が足りぬ。その分は主が補うといい。まぁそれでもかなり不足ではあるが』

「俺が補う? どういう意味だ」

『簡単に説明するとだ、我と契約するためにはそれ相応の魔力が必要になる。娘ひとりでは足りぬから、主のその無駄な魔力で補うのだ。主は他者のステータスを自分のモノに出来るようだな』

「まさか足りない分の魔力を増やして補えって?」


 電気くんが頷く。


『今は160ぐらいか? 娘のほうは500に届くかどうか……二人合わせて800は必要だぞ』

「すっげ上から目線だな」

「で、でも電気くん。私、風の精霊としか相性が……」

『関係ない。我が主らを気に入ったのだ。臆することなく契約するがいい。そして長きにわたってこの地に封印されていた我を、どこへなりとも連れて行くがいい!』


 電気くんが吠えると、一瞬にして暗雲が立ち込め雷が鳴った。

 雨が降っていないのは有難いが、いつ落雷するか分からないので迷惑この上ない。


「電気くん。自由の身になったからあちこち行ってみたい」

『その通りだ』

「だけど自分ひとりではそれも出来ない」

『精霊は自らの属性とかかわりのある場所でしか存在しない。だが精霊使いと契約し、召喚されてば話は別だ』

「つまり電気くんは、諸国放浪の旅をしたいから契約して欲しいってことか」

『分かっているならよろしい』


 いちいち上から目線になってんじゃねーよ、この電気猫。


「んー、分かった。じゃあ契約しましょう電気くん」

「おいおいセシリア。そいつと契約すると、あちこち連れ回されるんだぞ?」

「ん。リヴァだってせっかく地上で暮らせるようになるんだし、そうしたらいろんな所行きたいでしょ?」


 ……行きたい。


 あぁ、分かったよ!

 そうだよ、行きたいよ。自由の身になるんだ。旅をしたいって気持ちは嫌って程あるよ。

 そうだ、電気くんは俺と同じなんだ。


 地下から抜け出せずにいた俺と、ここから動けなかった電気くんと、どこも違いはしない。


「はぁ、分かったよ電気くん。ただし俺はまだ、自由に動き回れる身じゃねえんだ。もう暫くはお前の好きな場所には連れて行ってやれない」

『ほぉ。後で詳しく聞こうではないか。それと我に特定の行きたい場所などはない。ここではない場所ならどこでもよいのだ』

「そういうことなら連れて行ってやるよ」


 セシリアと電気くんの契約が済んだ後、転移の指輪で移動する。

 ここにいれば紅の旅団の奴らが戻って来るだろうから、鉢合わせになる。

 移動して、テントを張って──


『なに? 寝るというのか!?』

「そうだよ。昨日からずっとお前と戦ってて、夜は一睡もしていないんだぞ」

「おやすみなさぁい」


 移動先は以前見つけたダンジョン前だ。

 電気くんを見張りに立て、俺たちは眠りについた。


『我、見張りに立つ!!』






 専属の見張りがいるお陰で、のんびり眠れた。


「で、頭もスッキリしたところでお前の名前なんだけどさ」

『我の名か。名は雷獣ヴァーライルトール』

「なげーし。けど電気くんじゃもうカッコつかないからなぁ」


 ヴァー……じゃ吐いてるみたいだから名前呼ぶたびに、なんかもよおしそうだ。

 短くて、電気くんだってすぐ分かるネーミングがいいんだがな。


「じゃあデンくんは? ヴァーライルトール・デン!」


 デン……電気のデン!


「おぉ! なんか強そうだなっ」

『強そう……ヴァーライルトール・デン……デン……強そうか?』

「あぁ」「うん」

『そうか! よし、では我はこれからヴァーライルトール・デンと名乗ることとしよう』


 もちろん呼ぶときは「デン」だけどな。

 

「さて、それじゃあ魔力強奪用モンスターを探さなきゃな。それに依頼の素材採取も必要だし」

『フ。それならばこの我、ヴァーライルトール・デンに心当たりがある』

「心当たり? ってかその名前、気に入ったみたいだな」

『はははははは。全て我、ヴァーライルトール・デンに任せるがいい!』


 めちゃくちゃ気に入ってんな。


 おっと、今日の分のステータス強奪をしないとな。


「デン、筋力少しくれよ」

『無理だな。精霊に戻った我には、筋力も体力も存在しない』


 ……は?


『我のステータスは敏捷2500、魔力7800。以上』

「以上って、二つしかないのか!? いや敏捷2500に魔力7800ってなんだよそれ!!」

「しゅごい……じゃなくて凄い」

「じゃあ魔力ください」

『精霊にとって魔力は筋力と体力も兼ねておる。我が弱くなってもよいのか?』


 うぅーん……魔力一つで三つのステータスに関わってんのか。

 せっかくセシリアの召喚精霊になったんだから、弱体化させたくはないな。


『ふ。我に任せるがいい。とりあえずその辺の鳥のステータスでも奪っていろ』

「鳥かよ。ってかなんで鳥なんだよ」

『鳥の敏捷は300を超える種も多い』


 マジかよ。


 マジだった。


 俺の敏捷は250近くまで増えてるが、それでもミスもなく敏捷を2強奪に成功した。

 暫く鳥で敏捷上げもいいかもな。

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