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 ◆ ◆ ◆



「その時、彼女はまだ生きていたんです。あなたは、それをわかっていながら、自分の罪を隠すために、捜査を錯乱させるために、この池に彼女を投げ入れた」


 友野は、恐怖に泣き崩れている龍雲斎にスマホで動画を見せた。

 それは、あの怪奇現象を目撃した人たちが直前に視聴していたほとりの森公園で撮影された動画。


「ここを見てください。 この画面の右端」


 一時停止された画面の奥に、龍雲斎の顔は見えないが、担がれて運ばれている被害者の顔が映っていた。

 本当に一瞬ではあったが、彼女の目はカメラの方を見ている。


「わかりますか? この時、彼女はまだ生きていた。でもこの直後に、あなたは柵のない林側の方から彼女を池に投げ入れた。わざわざ、立ち入り禁止の奥へ入って……」


 この動画を見た人物に起きた怪奇現象の原因は、これだ。

 被害者の若い女性は、第一の目撃者である最上愛里が働いていた、あのスーパーの元店員だった。

 金曜日の夜に来ていた第二の目撃者、それに第四の目撃者である男性タレントはあのスーパーの常連。

 さらに、第三の目撃者の青年は、彼女が正社員となった会社の経営者だった。


 正社員となって、三日目から無断欠勤が続き、なんど連絡をしても電話が通じない。

 直属の上司に聞いたところ、急に人が辞めたせいで、仕事が溜まっていたため、直接彼女の家を訪ねる暇もなかったらしく、第三の目撃者である青年は、彼女が無断欠勤していることすら知らなかった。


「こんな一瞬で、誰かだなんて分かるはずがない。事故の衝撃で、かけていたはずの眼鏡も外れているし……————それでも、彼女はこの動画を見た知り合いに必死に語りかけていたんです。どうして、私に気づいてくれないのかと……」


 鼠が一緒に降って来たのは、おそらく彼女が最後に掴んだからだろう。

 鼠が池にいたのは、本当に偶然でしかない。


「あなたが彼女を轢いた証拠も、すでに警察が確保しています」

「そ……そんな…………」

「あなたが本当の霊能力者であるなら、こんなことをして、どうなるかわかったはずですが……————残念です」



 友野の瞳から、涙がこぼれ落ちた。

 龍雲斎の前から動かない彼女の霊の感情に友野は同調していく。

 彼女の最後の記憶が……

 命を落とした瞬間の記憶が、あの日の記憶が、友野の中に流れ込んでくる。


「ほら、わかっただろう? 君が殺されたことに、理由はなかった。ただ、そこに君がいただけなんだ。残念だけど、これが事実なんだよ……」





 ▽ ▽ ▽


 何が起きたのかわからなかったの。

 突然、本当に、突然……白い光が、私の前に現れて————


 気がついたら、全身が痛かった。

 痛くて、痛くてたまらなかった。


 そして、誰かが私を担いで運んでいるのがわかった。

 思うように体が動かなくて、首だけがなんとか動いて……


 私を運んだ人は気がついていなかったみたいだけど、いつかあの子が好きだと言っていた動画の配信者が撮影してるって気がついたの。

 私は記憶力だけはいいから。


 だから、私を助けてって、思いを込めたわ。


 でも、ダメだった。


 気がついたら、私は真っ暗な水の中に落とされて……


 苦しかった。

 痛くて、痛くて、苦しくて……

 体が沈んでいくの。


 どんどん沈んでいくの。


 必死にあがいても、もがき苦しんでも、誰も助けてはくれなかった。

 体が思うように動かない。

 きっと、誰も私に気づいてくれない。


 そう思った時、目の前に……どうしてだろう?

 どうしてそこにいたのかわからなかったけど、あの子がいたの。

 あの鼠がいたの。


 だから、私は掴んだのよ。


 痛くて、苦しくて……————

 あの子も、あの子達もきっと、今の私のように、知らない人に傷つけられて、命を奪われたのね?


 ごめんね……

 助けてあげられなくてごめん。

 何もできなくてごめん。


 私も、あたなたちと何も変わらなかった————

 どうして、殺されたのか、わからない……

 私が死ぬことで、誰かが……

 他の大勢が助かるのかしら?


 ねぇ、あの子達と同じように、私の死は誰かの役に立つものなの?


 教えてよ……教えてよ……

 ねぇ、どうして、どうして、どうして、どうして



 私を殺したの?


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