3—2
「控え室はこちらになります」
ADに案内されて、テレビ局の廊下を歩いていると、友野よりよっぽど芸能人のような顔をしている渚に視線が集まる。
すれ違った別番組のプロデューサーにも名刺を渡されて、出演依頼までされてしまった。
もちろん、友野ではなく、渚に。
渚は友野のマネージャーとしてついて来たはずなのに、これでは逆に友野がマネージャーのようだ。
「スーツで来たのが悪かったのかな?」
「いやだなぁ先生、普段着で来たら不審者と間違われますよ?」
「ナギちゃん、いくらなんでも、それはちょっと酷過ぎない?」
いくら最近少し忙しい占い師だとしても、首から下げた入館証がなければ、確実に警備員に友野は止められるだろう。
ADに案内された楽屋は大部屋で、出演予定の他のゲストたちと同じ部屋だった。
一通り挨拶を済ませて、椅子に座ると、友野はADに渡されたサイレンスの生年月日、血液型、手相の写真を一応確認する。
「先生、そんなもの見なくても、さっき挨拶した時に見たでしょ? 守護霊さん」
「あぁ、まぁ……普通のおばさんとおじさんだったよ。ボケの方には、武将がいたけど……先祖だろうね」
本番で守護霊から話がちゃんと聞ければ、エセ占い師の今日の仕事は終わりだ。
大体は守護霊とたまにちょっと悪霊がひっついているくらいで、占い師として人気が出る前までにたくさん経験した危ない霊と出くわすことはほとんどない。
「俺はちょっとトイレ行って来るから、ナギちゃんは余計なことはしないで、じっとしてるんだよ?」
「はーい、行ってらっしゃい!」
友野は、渚を残して楽屋を出た。
「これが大部屋ってやつなのね……」
渚が興味のあるタレントはサイレンスのみ。
サイレンスは別の部屋で、今ここにいるのはほとんどが売れない芸人やで始めたばかりのタレントだ。
これから披露するネタの確認をしたり、本を読んだり、電話をしたりしている。
渚は窓から見える景色を、なんとなく見ていると、いつの間にか雲が空を覆っていて、雨が降ってきた。
「雨だわ……」
暗い雲から降る雨を眺めていると、一人でいる渚に男性タレントが声をかけてくる。
「君、本当に可愛いね」
「えぇ、そうですかぁ? ありがとうございますぅ」
窓に背を向けて、渚はいつものようにあざとい笑顔を作った。
可愛いとか綺麗とか、そんなことを言われるのはもう慣れているし、今更謙遜するつもりもない。
渚が笑えば、男なら頬を赤らめ、その美しさに魅了されるだろう。
実は大学でのミスコンで準優勝だったのは、女子たちの嫉妬によるもので、投票したのが全員男だったら、渚が優勝していただろう。
それくらい、渚は自分の美しい容姿に自信があった。
「え……」
だが、窓の前に立っていた渚に今声をかけて来た男は、笑顔を向けられたのに頬を赤らめるどころか、逆に血の気が引いたように真っ青になっていく。
「……? どうかしました?」
渚は首を傾げた。
こんな表情を向けられたことがない。
目を大きく見開いて、まるで、化け物でも見たかのような表情をしている。
「な……なんだあれ……ね、ね……鼠……?」
「——ねずみ?」
「なんで……鼠が————」
男は渚の後ろにある窓を指差して、悲鳴をあげた。
「うわあああああああああああああ!!!!」
楽屋にいた誰もが、男の声に驚いて、視線が男の方に集まる。
渚はすぐに後ろを向いた。
窓ガラスには、雨が打ち付けているだけで、そこに鼠なんていない。
雷が光り、遅れて大きな轟音が聞こえて来る。
「おい! 大丈夫か!?」
「急にどうしたんだ!?」
もう一度視線を男に戻すと、男はショックのあまりその場に一人で倒れていた。
鼠を見た人物が、また、一人……————
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