第69話 幸せな気持ち!最終話!

 ラフィリルに着くと、イリューリアは、てっきりすぐにラフィリルの国王夫妻、つまりルークの両親に挨拶にいくのかと思っていた。


 けれど、ルークが両親への挨拶は明日の朝にというので帰国の報告も明日にまわし、イリューリアはそれを不思議に思いながらも国が違うし、ラフィリルでは挨拶は朝にした方が縁起がよいのかしら?としか思わず、それほど気にする事はなかった。


 そして、その日はラフィリアード一家もルークに密かに頼まれた事もあり、城には上がらずラフィリアード家へ直接帰り、イリューリアもラフィリアード家、ルミアーナの家に泊まることになった。


 つまりラフィリアード一家とルークが帰国したことをまだ誰も知らないのである。

 ルークは今晩、イリューリアに自分の秘密を打ち明けるつもりで、夜の散歩に誘った。


 ラフィリルの王都にある小高い丘の上にある国営公園は月明かりに照らされ、夜咲きの花が美しく敷石の縁に咲き誇っている。

 この丘は、四年前に黒魔石による未曾有の大災害のあと、人々が非難し、ここから王都の再建がなされたとされる”再出発の丘”と呼ばれる公園である。


 昼も夜も美しい装いをと考え尽くされ造られた庭園は本当に美しかった。


「なんて…なんて綺麗なんでしょう」

 ムームンと呼ばれるその花は夜に咲き月の光が差し込むとその花弁が淡く淡く光を放つ。


「デルアータの園遊会でのフローリィナの満開の花には負けるけどね」


「まぁ、同じ花とはいえ、またそれは全然、別の美しさですわ。あれは昼も夜も咲き続けますが、3週間くらいで花が散りますし…花の時期が終わって散る時には、まるで雪が舞うようで、それもまた趣があって美しいのですよ」と誇らしげに答える。


「イリューリアの方がもっと綺麗だけどね」とルークがさらっと言うとイリューリアはみるみる真っ赤になる。


(ル!ルークったら、何て事をさらっといっちゃうのですか!う、うう嬉しいけど恥ずかしいっ!ルークの方がよほど素敵なのにっ!)と心の中で叫ぶ。


 読むつもりもないが、あまりにもはっきりと言葉にして思う感情はルークにビンビンと伝わるので、ルークまで顔が赤くなる。

 別に褒めてるとかじゃなくて本当にそう思っているのだ。

 特に身の内からでるオーラの美しさは月の輝きに勝るとも劣らないとルークは本気で思っている。


(ルークったら女の子の喜ぶ様な事をサラッと言っちゃうから困ってしまいます。ルークは私より五つも歳上なんですもの、きっと色んな女性と、お付き合いなさってきたに違いないわよね?)と心の中で思っているとルークがすかさず言葉をかけた。


「言っておくけどイリューリア、僕はお付き合いする女性は君が初めてだからね!」


「え?ルークってば、私の考えている事がわかっちゃうのですか?」とイリューリアが顔を赤らめながらもそう言うとルークの顔から血の気がひいた。


 しまった!…と内心思った。


 気づかれる前に打ち明けたいと思っていたのに…とルークは胸が締め付けられた。


 もちろん、イリューリアも本気で心が読めるとは思っていない。

 なんて、鋭いのかしらとおもっている程度である。


 しかし、ルークの心は、もしイリューリアに嫌われたら…そんな思いで渦巻いて、冷静さを保つのに、ものすごい葛藤があった。


 ルークは覚悟を決めてイリューリアに返事をした。


「…そうだよ。家族にも内緒なんだけど…僕には言葉になった感情は聞こえてしまう。聞かないようにしても気を抜くと聞こえてしまうんだよ」


「!」

 イリューリアが、大きく目を見開いた。


「……」わずかに沈黙が訪れる。


 イリューリアはいったい何を言われたのか、その意味を頭の中で咀嚼しているようだった。


 そして、驚きの表情から発せられた言葉に驚いた。


「えええええっ!ほんとにっ?すごいわっっ!さすが、聖魔導士様だわ!稀代の魔導士って本当なのですね!」と瞳をキラキラさせながら、そう言ったのだ!


「…っ!え…?そこ?」

 と、ルークも目を皿のようにまん丸にしてそのイリューリアの太っ腹ともいえる豪胆な感想に驚いた。


「聖魔導士様ともなると皆、心が読めるのですか?まるでですわ!」

 と、イリューリアが興奮気味に言葉を続ける。


 気配りでも何でもない本心からの言葉であることがルークには感じられた。

 こんな反応は初めてである。


「え…う…い、いや、聖魔導士の中でも僕は特別?じゃないかな?心まで読めてしまう者は歴史上でもあまり…いないと思う…」

 正確には大神殿長のデュムトリア老師もだが秘密である。


「まぁああああ!素晴らしいわ!素晴らしいわっ!素敵っ!」


「え?あ?ほ、本気で言ってる?」こんな力、逆に不便なだけだと思っているルークには驚きの言葉だった。


「まぁあ!私の心が読めるのでしたら私が本気で言ってるかどうか、お判りでしょう?」


「う、うん、めちゃくちゃ本気みたいで驚いてる」


 ルークは本気で驚いた。


「まぁ、うふふ!」とイリューリアがこれ以上ないくらいの笑顔をルークに向けた。


 この頭上に輝く月の光にも負けない光をもつ無垢なイリューリアのにルークは感動した。


「もうっ!何でそんなに可愛いの?」とルークは涙目になりながらイリューリアを抱きよせた。


「きゃっ」小さな悲鳴をあげるイリューリア。

 でも、決して嫌がっている訳でない事はルークにはお見通しである。


 聞かなければいいのに、つい聞いてしまう。

 心の読めてしまうルークだが、思ってもいない事は読み取れないからだ。

 これから先で考えるだろう杞憂を今の内に確かめたいという気持ちを抑えられなかった。


「心を読まれるって嫌じゃない?」


 その言葉に、躊躇なくイリューリアは答える。

 特に悩む様子もなく答えるイリューリアにルークは驚きっぱなしである。


「そりゃあ、だれかれ構わずなんて嫌ですけど…ルークだし」とイリューリアが答える。

 心の声とぶれることなく重なり聞こえる言葉はまごうこのなき本心である。


 そして、またまた聞かなきゃいいのに聞いてしまうルークである。


「自分が読まれたくないって思う事も秘密にしたい事も伝わっちゃうんだよ?エッチな事とか悪い事とか考えても知れちゃうんだよ?」とルークが言った。


 自分が問わなくても、いずれ自分自身で自問自答する問題だろう。

 それなら一気に今、その言葉を聞きたいと、想いを抑えられずにルークが問うた。


「エッチな事?」ときょとんとするイリューリア。

 そして次の瞬間、ぼっと顔を赤らめた。


(え?え?え?それって何???あっ、キスしてほしいとかそんな事、思っちゃったらばれちゃうって事???きゃっ!それは、まずいわっ!まずいけど、今、思ってるのもバレバレ?えっ!どうしよう~?やだっ!)と慌てだした。


 けれど、そのイリューリアの様子は怯えるとか嫌悪するような感情では全くなく、ひたすら照れて焦っている。

 そして、ルークは気づいた。


 イリューリアが本当に正真正銘心の底まで無垢であると…。


 エッチな事…でである。

 キスしたら子供ができると思っているであろうレベルである。


 ルークは繋いでいたイリューリアの手をすっと引きイリューリアの瞳を見つめた。

 やはり嫌悪したり怯える様子はなく、ただ照れている。


 ときめいていると言った方がぴったりくるだろうか…。


「キス…したいの?」そう言ってルークはにっこりと悪戯っぽい笑顔を浮かべイリューリアの顔を両手で引き寄せ、そっと口づけた。


(!!!えっ!○△※×!!えええっ!)とイリューリアはパニックのままにルークの口づけを受けた。


(わ、わ、わ、わたし、今、キス?キスしてるの?ルークと!)その口づけはそっと触れるだけの優しい口づけだったが、イリューリアにとって正真正銘のファーストキスである。


(ああ…素敵。私…ルークに口づけされているんだわ…)と瞳を閉じた。


 そして…。


(…やっぱり…ルークって素敵!大好き!この気持ちが言葉にしなくても伝わってるなんて!なんて素敵なの!大好きよ!ルーク!大好きっ!)とイリューリアは心の中で叫んだ。


(うううん!?大好きなんて言葉では足りないわ!これがきっと愛してるって事なのね!)と心底思う可愛すぎるイリューリアである。


 ルークのイリューリアを抱きとめる腕に力がこもり、ルークの頬には、一筋の涙が流れた。

 まごうこと無き喜びの涙だった。


「っ!絶対大事にするっ!誰にも君を傷つけさせないっ!何からも護るからね!」


「はい」と最高に幸せな気持で小さく頷くイリューリア。


 そしてルークは長い葛藤からようやく解き放たれ心置きなくイリューリアを愛でる事ができると喜びをかみしめる。


 イリューリアにとっては、残念な初恋が終わりを告げた時に現れた救世主ルークとの思いがけない出逢いとはじまりに心から感謝した。

 その出逢いから始まった数々の幸せに!


 イリューリアにとってルークは、呪いから救ってくれた救世主であり尊敬も崇拝も愛情も全てを捧げられる相手だった。(そのうえ、イケメンなのである!)


 二人は本当の意味で心を通わせあうことができた。

 翌日、帰国の報告と婚約の知らせを聞いたラフィリル国王夫妻が、腰を抜かさんばかりに喜び舞い上がったのは言うまでもない。


 幸せの予感しかしない二人は今本当に幸せで、さらに大きな幸せの待つ未来は、これからはじまり続いていく。


 そして、それを見守るまわりもとても幸せな気持ちになるのだった。



 Fin

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