この『運』は、キミを救うらしい

カラスヤマ

第1話

朝。


いつもと変わらない一日の始まり。


学校に行き、つまらない授業を消化し、万年帰宅部は、特に寄り道せずに素直に家に帰る。


青春が過ぎ去るのが速すぎて、その残像すら見えない。見えるのは、気持ちの悪いこのモヤモヤした『青い綿菓子』だけ。



「はぁ~~」



起きてから、計10回目の重い溜め息が、唇を震わせた。




「お前って、無気力なダメ人間だよなぁ………」



僕の隣で、高校に入って初めて出来た友達の河合………なんとかが蔑むように僕を見ていた。河合は、サッカー部のエースであり、現在進行形で青春を謳歌している勝ち組だった。見たくもないのに、彼の体が透けて、体内にあの青い綿菓子を確認。相変わらず、『好調』なようだ。


羨ましい。



「う~ん。さすがにヤバイよなぁ? このままじゃ………」



「いや、聞くなよ。……あのさ、そんなお前でもやる気が出るような刺激を与えてやるよ。今度の土曜に西高の女子と、合コンするんだ。お前も来い。可愛い彼女作れば、変わるって。絶対。この腐った世界が」



………世界。確かに変えたい。この世界は糞過ぎる。


でも僕には、好きな人がいるし。その子としか初エッチはしたくないし。


古いのかなぁ、この考え。



ブルルルル………。



「なんだ、あの蛇行してる下手くそは。酔って運転してんのか?」



ブルルルル、ブルルルル。



でもこのままじゃ童貞のまま、下半身が化石化しかねない。試しに一度チャレンジしてみることも大切だ。


「嘘だ…ろ……」


トラックには、ブレーキを踏む気配が全くなく、僕達の数歩後ろを歩いていた彼女を目掛け、突っ込んできた。


「っ!!?」


反射的な素早さで彼女の柔らかい手を掴む。


「あっ…あの……」


「いいから、そのままっ!!」


自分の『運』をすべて移し、彼女を突き飛ばし、被害がないように距離をとる。


次の瞬間ーーーー。


急に向きを変えたトラックが僕の背中に物凄い勢いで体当たり。秋風に舞うコンビニ袋のように、簡単に宙を舞うこの体。


空から下界を見ると、ポカンと口を大きく開けた河合がいて。そのすぐ横でもう一人、僕を見上げている女。


あ…ぁ……。やっぱり、綺麗だなぁ。

僕が、ずっと前から好きな……。



鮎貝ーーーーー。



「あっぐゅぶっ!!!」



ボロ雑巾の如く、激しく地面に叩きつけられた。


体の感覚が消え……。痛みもない。

温かい液体が、止めどなく流れていることだけ分かった。手足が、あり得ない方向に曲がっている。


「がぶぁっ!」


血反吐が、耳を塞いだ。


とても静かでーーー。

真夜中の雪景色を思い出した。


自分の体から漏れ出す運のカスが、線香の煙ほどのか細さでユラユラと立ち昇る。


そう…か…………。

やっと…解放される………。


母親から受け継いだ、この力。やっと呪縛から解放されることに安堵していた。



その日ーーーー。


僕は、十七年の短い生涯に幕を閉じた。でも、この時の僕はまだ気づいていなかった。これは、終わりではなく、始まり。


激しすぎる異世界ライフの幕開けだったーーーー。

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