第44話 自営業の自転車操業

 初代ノーマルトレントを品種改良した時の為に今のうちに枝葉を多目に回収しておいて、子世代の苗木トレントも増やそう。

 種族が変わる事にちょっとした抵抗はあるかもしれないけど、苗木トレントに幼い頃から果樹の台木となって品種改良を受ける事は当然だって文化を今のうちから根付かせれば継続して育成するトレントの種類を増やしていけると思うし。実際にリンゴの果樹となった大人トレントが神秘を増してトレント達のリーダー格になってるしイケるはず。

 うーん。それでも大人トレントに成長するまでは再眷属化を施すのは無理だろうなぁ。再眷属化による品種改良って僕じゃなくてトレント側の力による面が大きいから嫌がるのを強制はできない。デーモンの成長と老いって本人の主観による所が大きいから苗木トレントが子供の姿なのはまだまだ周囲に甘えたい年頃だって事だしね。そもそも人より成長が遅い木々に数ヶ月で大人になれってのも酷な話か。


「なる程。品種改良に用いるトレントが不足しそうなのですか。それなら私の方から一族にトレントを代理購入するよう働きかけましょう」

「あ、そっか。オリュンポス帝国から買えば良かったんだ。それなら幾らでも地球のフルーツを納品できるね」

「いえ、それは難しいでしょうね。数を揃える事自体は可能なのですが、トレントは土地とセットで運用する必要がありますから箱庭を隠し持つデーモンだと悟られないよう魔素食材と同じく間に幾つも業者を挟まなくてはならないので高価になってしまいます」

「え、具体的には?」

「そうですね。魔素濃縮リンゴと違って投資の面も大きいので利益なしのほぼ原価で購入できると仮定して、輸送費や倉庫代に隠蔽の魔術に魔石を大量に使用しますし、一株800魔素といった所でしょうか」

「苗木トレントでも眷属化には200魔素が必要だったし一株1000魔素以上が必要なんだ。流石にそれは厳しいね」


 本当に魔素は幾らあっても足りない。最近じゃミュータント商会も魔素を取り扱うようになってきたし、現金化も可能だと魔石の価値はドンドン吊り上がっていってる。おかげで地球産NO魔素フルーツの売り上げが落ちた。1個千円は高いしね。1魔素でミュータント商会なら何個も果物を買えるんなら僕から買おうとはそりゃしないよ。クソ、あのヴィラン総帥め。こっちの商売の邪魔ばかりしてさ。こっちも値下げで対応するしかないじゃんか。嫌な予感が当たっちゃったよ。


 いや、今はトレントだ。品種改良するには眷属化が必須でトレントを眷属にしないで運用するのは不可能。これ以上は削れない訳だね。

 蛇娘達を眷属にするつもりだったけど、15人もいるし止めとくかなぁ。Rの最低レベルの神秘だったとしても3000魔素は必要だし。


 うー、深刻な資金不足だ。魔法少女産の魔法植物には惹かれるけど、もうちょっと地球の果樹を利用した果樹トレントを増やそうかな。うん。採用するフルーツはバナナの他に何が良いだろ。

 トレントに聞いたら取り込む植物は樹木じゃなくても構わないっぽいし、正確には木じゃなくて草に分類されるバナナも含めて果実なら何でもOKなんだよね。多年草のバナナ繋がりでバラ科の多年草であるイチゴにしようかな。温帯の果物だけど、果樹トレントなら魔素さえあれば何の問題もないだろうし。


 今、持ってる現金化してる資産はコバルト鉱石に貧困層への支援食料に一回目の納入を終えたバニラビーンズにカカオ。

 魔素的な資産は僕が1日に放出するニンフ油田にノーマルトレントの放出魔素(微)に地球産NO魔素フルーツと僕の手作りチョコの売り上げ。ここに新しく魔素濃縮フルーツが結構な魔素量で売買できる訳だ。

 それで現在の箱庭状況はっと。



◆◆◆◆


箱庭名:アールヴヘイム

支配者:サルマ・フィメル


文明レベル:0

文明タイプ:原始/精霊


箱庭人口:384人

経過年月:2月9日14時間

箱庭面積:10.7km2


魔素濃度:10550

蓄積神秘:118


保有戦力

N  :4万5千

R  :49

SR :1

SSR:0

UR :0


箱庭碑文

・ゴブリン神話『王朝開闢史』


◆◆◆◆



 ううーん。この一週間は全然買い物をしてない割に魔素の貯蓄がショッパイな。

 これはやっぱり地球産NO魔素フルーツの売り上げが落ちたのが原因か。値下げした後は3分の一くらいの売り上げになっちゃったし。新商品のチョコの売り上げを加算してもこれってのは微妙。まるで近くに大型スーパーが出来て売り上げが激減した八百屋みたいな苦悩を味合わう羽目になるとは。僕って伝承種族のデーモンだよね。曲がりなりにも神族に連なる。箱庭に降臨してからずっと資金繰りの事ばっか考えてるんだけど、おかしくないかな。


 もう、何時になったら黒羊事件で購入したSRデーモンの眷属化を出来るだけの魔素が溜まるんだよ。今はトレント繁殖事業と購入費用に充てなきゃいけないから他のデーモンに魔素を割り当てる余裕が全くないじゃん。天使とか悪魔とかメジャー所のデーモンもアブラハム系のデーモン国家が存在しない割には普通に売られているらしいしさ。一目くらいは見てみたかったんだけどな。ニンフモドキって気になる存在も探して貰いたいし。


 でも、今はホント魔素の貯蓄が大事なんだ。

 ほら箱庭面積を見てよ。微妙に広がってるのが分かるでしょ。


 神性+を獲得してから一日の魔素放出量が上がっただけじゃなく、僕の箱庭そのものの大きさが広がり始めているんだ。

 恐らくこれは依り代を失った森精ニンフが無意識に森林を生成するのと変わらない現象なんだと思う。力が上昇したのに合わせて僕に相当する森林の大きさも拡大している訳だね。

 良い事なんだけど、箱庭の面積拡大は魔素を消費して行われるって点がマズい。少なくとも初期値の倍近くまで面積が拡大する感覚があるのにどれくらいの魔素が必要なのか良く分からないんだ。


 今は無から生成するよりは大量の土塊を購入して箱庭に接続した方が消費が少ないんじゃないかとインベーダーのコピー商会に問い合わせている。

 メール対応している女アンドロイドが融通の利かないタイプで難航してるけど。鉱石が欲しいんじゃなくってそこら辺にある無人惑星の大量の土砂が欲しいのに規定の商品ラインナップにないからって高い鉱石を買わせようと薦めてくるんだ。それじゃコバルト鉱石の売買利益すら大して確保できないって分かってるからマジで要らない。


 だから融通が利いて金に困ってるインベーダーを探そうかなって最近画策してる。

 向こうじゃ魔石は金持ちの象徴っぽいし、VRゲーで遊び呆けてるインベーダーを端金で雇って土砂を採掘して貰えたらなって。

 ショップに出品されてるインベーダーのコピー商会の商品ラインナップと同じ物を売買するのはもう無理っぽいけど、土砂を大量に発掘して売るのはセーフでしょ。万能転写の材料確保に土砂はよく採掘されてるらしいし不自然にも思われない。


 個人間の不正売買を突き止める為、金の流れを調べて妙に金回りの良い奴は軍部に連行されて取り調べを受けるらしいけど。日を跨いで少量ずつ買い取ればバレないだろう。いや、そもそも個人間でのちょっとした商売くらい認めてやれよ。軍はコピー商会に資本の流れを一本化させてインベーダーを完全管理したいのかな。VRゲームの中には賞金が出るタイプの奴もあるから、イマイチ成功してないけど。

 プロゲーマーは別銀河の企業との繋がりすらあるかもしれないからインベーダー軍もノータッチだ。それでゲーム関連総合雑談スレの住人は未だにコピー商会に所属しないで野良で居続けられてるって訳。あれはもはや意地になってるね。


 こういうイザコザが嫌で、世捨て人になって宇宙船で別の宙域に去って行ったインベーダーもいるらしい。

 地球に下りるインベーダーとは別の意味で凄い。全く新しい星系とか取引き可能な住人どころか、どんなモンスターがいるかも分かんないのに。ああ、そういう未知の星系にいる奇妙な生命体はミュータントの一種だって言われているね。そう。ミュータントは地球にしかいない訳じゃないんだ。


 生態系の出来上がってる惑星に外宇宙からやってきた侵略者が、まあ十中八九、銀河帝国のインベーダー達なんだけど。攻め寄せてきた時、高い確率で該当惑星には既存の生命体とはかけ離れたミュータント、突然変異が生まれるようになる。明確な原因は分かってない。

 外敵に対処する為の惑星の自浄作用なのではないかと、それらしい噂が出回ってるだけだね。伝承種族のデーモンと同じくミュータントもインベーダーの超科学をもってしてすら計り知れない存在なんだ。

 うん。次からはそれに魔法少女とパラノイアと運営を加えておくと良いよ。世の中は不思議な事ばっかりさ。


「トレントの代理購入はまだ早いかな。リンゴトレントの他に2種類の地球産フルーツで品種改良するから今はそれで満足して」

「お心遣いありがとうございます。申し訳ありません。催促するようなはしたない真似をしてしまい」

「良いよ。アウルムも一族との板挟みになってたんでしょ。ほら、君達も一緒に行こう。そろそろオヤツの時間だ。美味しい果物とバニラアイスのチョコソース添えが出るよ。全部うちの箱庭で採れた物を使った自慢のデザートなんだ」


 新しく箱庭に加わった蛇娘達に笑いかけて僕はアウルムの手を引いた。

 アウルムがオリュンポス帝国に出向していた期間はほんの少しの間だったのに本当に色々な事があったんだ。ぜひ聞いて欲しい。

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