第41話 来歴不明正体不明

「ふぅ。緊張したぁ……」


 ミュータント商会に魔法少女が襲撃してきたという情報が出回っていたから今日は魔法少女ウォッチのスレに呑気に張り付いていた訳だけども。

 まさか僕が魔法少女と直にやり取りをする事になるとは思わなかった。テンパってバナナの事を延々と語り続けていたんだけど、変に思われなかったかな。何でか気が付いたらまた話そうとフルーツマジックと連絡先を交換してたし。何が起こった? 夢? それとも何かの罠? 僕って人身売買に手を出すようなデーモンだし討伐されても不思議じゃないんだよね。油断しちゃ駄目。


 ああ、いや。明らかに黒なUR日本財閥総帥が受け入れられたぐらいなんだから僕なんて余裕で歓迎される気もするな。

 思った以上にハードルが低くてゆるゆるなんだけど大丈夫なんだろうか。スパイ入り放題だし。味方に裏切られない?


「んー。商会のアルバイトミュータントに密かに細工してたし出し抜かれない自信があるのかな」


 魔法少女グループ、フルーツマジックが無償で提供していたフルーツサンドイッチ。

 あれには人肉を食べたミュータントにアレルギー反応を起こさせるよう調整された成分が仕込んであったんだけど、実は人肉を口にした事がない一般ミュータントにも無害な訳じゃないんだ。


 仕組みとしては蜂毒のアナフィラキシーショックに似ている。

 細菌・ウイルス・寄生虫から身を守る防御反応である免疫に故意に異常を起こさせ通常は無害な物質に過剰反応、アレルギーを起こさせているんだ。免疫疾患の一種だね。

 蜂に二度刺されると死ぬと言われているのは普通なら病や毒に有効に働く抗体を身体に作らせる事で、逆に人体を蜂毒に弱い身体に作り替えさせているからなんだ。もう抗体を作ってしまった段階で幾ら時間を置こうと無駄。免疫は人体の通常の作用だからね。毒が体内に残留してるのが原因な訳じゃないから次に蜂に刺されたら時限爆弾が破裂するようにアナフィラキシーショックに襲われる。


 起きる症状としてはじんましん、呼吸困難、血圧低下、嘔吐、意識障害など。

 不味いから吐き出すなんてレベルの話じゃない。よくまあ笑顔でグレープさんは嘘を吐けたもんだ。キュウイちゃんも『今回のには毒は入れてない。安心して食べて良い』って言ってたけど、そりゃあね。人肉を毒と化す代物だからね。嘘じゃないね。次の機会に人肉を口にした瞬間がアウトだって訳だ。


 こういう症状を人肉を口にしたミュータントに意図的に起こすよう成分を調整された特殊なフルーツ。これがミュータント商会でフルーツマジックが振る舞っていたフルーツサンドの正体だ。以後、アルバイトミュータントは人肉での強化は見込めない。総帥が彼らの心を掴む事も手下として強化する事も難しくなった。


 なる程。これがUR。

 これが魔法少女。


 一度、目を付けられた段階で終わり。一生を左右する呪いをさり気なく振りまく。善意でとはいえ、その所業はヘラの在り方に通じる。

 アルバイトミュータントはもう良くも悪くも総帥の手駒にはならない。人肉を食えない彼らは弱いからね。当然、待遇にも差が出るだろう。ミュータント商会の内部には不和の種が蒔かれた訳だ。


「僕はミュータントじゃなくて良かったよ。ミュータント用に作られたこの特殊フルーツはデーモンの僕には効かないしさ。プラスしかなかった」


 いやまあ、人間を食べる予定なんかないから効いても問題なかったんだけど。

 でも、故意に免疫疾患にされるのは遠慮したいよね。


「ニンフが本能的にやってる依り代の生成。フルーツマジックの魔法少女はこれを意図的に特殊な効果付きで生成可能なのか。付与する効果は果物の内包魔素量に左右されていて、アナフィラキシーフルーツはミュータントが強化されないギリギリの魔素量を狙ってわざと低濃度で軽い症状に抑えてある訳だ。SRミュータントの生涯を左右する抗体毒が魔法少女にとっては最低限度の性能なんだね。流石はUR」


 まるで精密な機械を作るように僕が食べたフルーツサンドには詳細な設計図が透けて見えた。

 どんな時に、どういう所で、誰に、どんな意図で、どれくらいの魔素量を、どういう症状を、発揮する果実を生成するのか。それを考えている静かなのに燃えるような情熱的な目が果物を通して僕には見える。このフルーツは正確には食べ物じゃないんだ。僕が鋼鉄並の硬度を持った木々を武器として生成したように、魔法少女が生成した食べられる暗器な訳。


 それでもビックリするくらい美味しいのは魔法少女から放出されている濃密な魔素の影響下にあるのと、飽食美食を当然のように甘受できる豊かな国出身の少女なのと、あくまで人々の安寧を願った末に生まれた祈りの結晶だからかな。


「ここまで生成のヒントがあるんだから僕にだって同じ物が生成できる、はず……なんだけどな」


 何故か出来ない。多分、神秘値に問題がある。

 僕ではフルーツマジックが生み出した果実を再現するに足る歴史を許容仕切れないんだ。


 そう、僕は唐突に現れた魔法少女が無から突然に生み出した果実に途方もない歴史を感じている。

 何故だろう。分からない。見えない。理解できない。認識できない。

 人類史よりも遙かに長い膨大な歴史なんて魔法少女にあるわけがないのに、何故。


 なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ。


「いっつ」


 ズキンと痛んだ頭に僕は思索を中断した。

 気付けば日が傾き始めている。僕はどれくらいの時間、ずっと魔法少女の来歴を探っていたんだ。

 まるで深淵に踏み込んだような途轍もない疲労感があった。ぜぇぜぇと酸素を欲する身体を自覚する事で息を長時間ずっと止めていた事に僕はやっと気が付いた。


「これ以上の思索は止めよう。帰って来られなくなる」


 理解しようとするだけでSAN値チェックが挟まるとか流石は魔法少女大乱の主役。生半可な存在じゃない。

 うん。これはマジで魔法少女を人間だとは考えない方が良いな。たぶん突然変異のミュータントの方が魔法少女より、まだ人間に近しい存在なんだ。

 銀河を丸ごと手中に収めているようなインベーダーや多元宇宙を行き来するデーモンに一惑星の変身ヒロインが抗えてる時点でもう怪しい。何か裏があるのは確定でしょこれ。こっわ。


「ま、危険を冒した分、収穫はあったけどね」


 ポンと手の中に生み出した果樹トレントのリンゴを見て僕は笑顔になった。

 魔素的には生成できない方がおかしかった魔素濃縮リンゴ。これの直接の生成がトレントというRランクデーモンを僕が生み出せない事で実質的に不可能だったんだけど、魔法少女の果実生成を参考にした事でクリアされたんだ。


 これならデーモン国家で売られてる高価な魔素食材もコピー可能だろう。

 箱庭繁栄の大きな武器になるのは間違いない。


「アウルムも明日には帰ってくるしバニラビーンズもそろそろ売り出せるな」


 最初は不可能に思えたゴブリンの文明化も箱庭碑文の影響で補正が付いたっぽくて小さな集落なら現状のままでも上手く行きそうだし、危なくて控えていたイノシシの解放とダークエルフの修行もアウルムに手伝って貰えれば始められる。脅威を実感したからかダークエルフ3人娘も修行には前向きだし、魔素濃縮リンゴの売買で魔素に余裕が出来たらRランクデーモンも買い漁れる。


 危惧していたミュータント商会の閉店も無かったし魔法少女の知己も得られた。

 何かも上手く回り始めている。イケる。


「マジで順調過ぎて怖いな」


 何かフラグっぽい。何処かに落とし穴が空いてないと良いんだけど。

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