第30話 治療行為です(断言)
解放したウルフにゴブリンの族滅を任せた後、僕はアミールの治療に急いだ。
Rランクとはいえデーモンなら人間ほど容易くは死なないから大丈夫なはずなんだけど気持ち的にね。幾らでも替えは効くから亡くなっても平気って割り切れるほどデーモンの価値観に染まりきれないんだよね。良くも悪くも。
「女神様。アミールが……」
森と変貌した広場の中を植わった木々そのものを移動させる事でスムーズに突き進み横たわったアミールとナフィーサのもとに駆け付けた。アルマは硬質化した枝葉で皮膚を傷付けないよう風と地の小精霊が遠回りなルートで案内してるな。危ないし魔素を収奪して早めに枯れさせておくか。よっと。
ナフィーサは急速に色あせていく森の木々とダクダクと頭部の出血が流れ続けて止まらないアミールを交互に見て余裕のない縋るような表情で僕を仰ぎ見ている。潤んだ目が助けてと言外に主張していたから大丈夫と頭を撫でた。それでホッとしたような表情で頬を緩めてくれたんだけど、ほぼ裸でいられると十代中頃でも色気があるな。それ所じゃないのは分かってるけど。
「大丈夫。致命傷じゃない。ちょっと頭蓋骨にヒビが入ってるくらいだね」
「ひ、ヒビが!?」
「デーモンなら放っといても治るよ。アミール、意識はある?」
アミールの怪我を負った患部を魔素把握の応用で透かし見ると頭蓋骨にちょっとした亀裂が走っていた。流石に身体を揺らすのはマズいからナフィーサに触れないよう注意して意識があるか問いかける。ちなみに誤診の可能性は低い。
本来なら医療系の逸話を持ったデーモンじゃなきゃそんな判断、不可能なんだろうけどね。眷属に関してなら僕にも多少の真似事が出来るんだ。一度、アミールの事は魔素で完全に生まれ変わらせている。恐らくその時に取り込んだ彼の設計図が僕の中にはあるんだと思う。無意識のうちに過去と現在のデータを比べながら彼の魔素を観察して頭部に異常はないかなって考えたらバッとレントゲン映像が浮かんできたんだ。完全に無意識だったから驚いた。
やっぱデーモンは基礎能力がヤバい。流石は科学文明の集団知を個体で凌駕しようって種族。SRの段階で地球の先進国医療レベルは問題なく網羅可能っぽい。
「あぐっ……。女神様。ナフィーサと、アルマがゴブリンに……助けてください……」
「うん。もう助けたよ。大丈夫だからね」
「お願いします……。ゴブリンが……」
ああ、意識が混濁してて耳が聞こえてないか話が理解できなくなってるのかな。
後ろでナフィーサが泣きながらアミールアミールと呟いている。自然治癒に任せるのは止めようか。このままにしておくのは酷だ。
「ゆっくり息を吐き出して。ゆっくり息を吸うんだ。出来るかい?」
「ひゅー……っ……ひゅー……」
何とか言葉が通じたのか気力が耐えたのか浅く呼吸を繰り返すようになった。
うう、本来なら一旦カードに戻したり、手を繋いで無理矢理に魔素を流し込むんだけど、今はどっちも出来ない。下手に意識が残ってるからカード化するには同意が必要。眷属なんだから僕の物って理屈で無理強いするのは負担が大きそうなんだよなぁ。急激な魔素の流入も同じく良くないんだけど手を経由するならどうしても勢いが付いてしまう。ゆっくり馴染ませるよう魔素を流し込む方法を僕はひとつしか知らない。
「ひゅー……?」
「あむ」
急にキスをした僕を見て後ろでナフィーサが狼狽えているのが分かる。医療行為。これ医療行為だからナフィーサ!
デーモンには魔法少女大乱っていうエロゲ世界のエロゲ種族だけあって同意がなくても相手を絶対服従の性奴隷に、じゃなくって眷属にする方法がある。主に原作で魔法少女相手に使われてた方法なんだけど、それが……まあ性行為だ。行為中に魔素を少しずつ相手に流し込んで体内からデーモンに作り替えていく訳。上から数えた方が早い特級戦力の魔法少女はデーモンの巣で幾晩も犯され続けて悪堕ちならぬ眷属堕ちをするんだけどRランク程度のアミールならベロチューしてるだけでOKなはず。
見られながらベロチューとかクソはずいけど。
ナフィーサには先に説明して家に帰って貰うんだった。いや、そんな余裕なかったし。僕だって正直アップアップだよ。
「ちゅぴ……ちゅ……ちゅぱ……」
「え、え、え?」
口内から舌を通してアミールに魔素を少量ずつ送り込む。うん。再眷属化そのものは凄く順調に進んでるな。むしろカードを通してやる方が難しかったくらいだ。
でも外野からの声と男の子とディープなキスをしてるって状況が。まだアミールが中性的な子で良かった。これが快男児って感じの男むさい子だったらもうちょっと葛藤してたと思う。
「ジュルッ。ちゅぱ……ちゅぴ……」
「わ、わぁ!? 女神様!?」
お願い。今だけはそっとしておいて。
僕は痴女なんかじゃないから。ニンフ的にはっちゃけるとしても怪我人で遊んだりはしないから。TPOは弁えてるよ。
「むちゅ……!?」
「あ、アミール……?」
無意識か知らないけどアミールも僕の胸を揉んでる。いや、刺激に反応して手を伸ばしたら偶然、僕の胸に当たっただけかな。
もう意味が分からないのか背後のナフィーサが完全に無言になった。こっちからじゃ様子が窺えないけどジト目で見られている気がする。
お、思ったより何かキツい。痛い。
僕は変態なんかじゃないってば。そういうのは夜に十分、発散しててててっ。
アミール力強い。胸は握りつぶすもんじゃないから。マジで痛いだけだからな。
「あっち」「そっち」「はよはよ」「ダッシュ」
「皆、早いよぉー」
遠くからアルマの声までし始めた。何故か小精霊に急かされている。
再眷属化の完了まで後……3分ちょい。長いってぇ。
「女神様、命を救っていただき感謝の言葉もありません」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとーございます。ねぇ何でちゅーしてたの?」
「こらっ」
再眷属化が成功して元気になったアミールとナフィーサ達が頭を下げてゴブリン襲撃事件は終わった。
色んな意味でヤバい箱庭来訪以来の大事件だったけど終わってみれば何の被害もない大団円だった。もう一歩遅かったらナフィーサとアルマは影のない笑顔を浮かべる事は難しかっただろう。僕を急いで呼びに来たフゥのお手柄だね。
ダークエルフ達の戦力不足とか何らかの防犯措置の必要性とか色々と課題も見付かったけど今日は仕事を中断して休暇に当てよう。よく考えてみれば毎日フルタイムで仕事に追われていて完全な休みを取ってなかったしね。農家は作業時間は短いけど完全な休日は中々取れないブラックって聞くけど僕の箱庭なら融通が利くし。最低限の支援食料だけアイテムボックスの在庫から互助会に送ったら家でダラダラしよう。
そう皆にも言って全員でログハウスの中に入った。トレント達は枝くらい問題ないからと笑顔で見送ってくれた。
うん。そろそろ現実逃避は止めようか。アミールもそわそわして落ち着かないようだし。
「あの女神様。それで、どうして自分は女になったのでしょうか」
アミール君TS眷属化。
凄いニッチな需要を攻めてきたなって思う。嫌いじゃないけど。
でも、ダークエルフ種の繁栄の為にはアミールは男の方が良かったんだよね。地球から新しく人間を購入したら、まだダークエルフになってくれるだろうか。それ次第じゃ取り返しが付かない選択なんだけど。その危険を犯してでも僕の寵愛を受けたかったのかな。
「結論を言うとね。アミール。君が望んだからだよ」
「わ、わたしが……?」
「うん」
いやだって、僕には望んだ変化を眷属に起こすなんて器用な事を出来るような魔術の腕なんてないしさ。
人間が精霊王である僕の影響で自然とダークエルフになったのも意図してそうした訳じゃないし。トレントが自力で果樹トレントに変化したように眷属側の意思による影響が大きいって結論になるのは当然っていうかね。それ以外の理由が見付かんない。
僕は別にアミールは女の子の方が良いって求めてたりはしないし……いや、何かこういう言い方だと誤解が生まれるな。別にどっちでも構わないっていうか。いや、どっちでも美味しく頂けるって意味じゃない。ああ、何かドツボに嵌まってる!?
「え? アミール女の子になりたかったの?」
「ちがっ……いや、そうかも」
「ええ!?」
自分の親戚が実は女の子への変身願望があったと知ってナフィーサが驚愕している。そういう素振りはなかったんだろうな。
まあ、嫌悪感とかはなさそうだから受け入れてくれるはず。さっきも軽蔑した目で見られているのかと思ったら近くに少し発情してる匂いをさせながら立ってたし。ナフィーサって結構エロい娘だぞ。清楚だけど、むっつりスケベな感じがある。ニンフ分かる。嘘吐かない。
「二人に襲い掛かるゴブリンを見て無意識のうちに男に嫌悪感を抱いたのかも」
「あ、ああ。そっちなんだ……」
「他に何かある?」
「んーん。何でもない!」
照れ隠しにナフィーサが思いっきし首を横に振ってアミールに怪訝そうな顔で見られていた。
何か女になった事でアミールに新しい属性が生えた気がする。
今までは従順で中性的な執事って感じだったのが性に無知な男装女騎士風な……。止めよう。妄想が酷い。
「それにしても男性嫌悪ね。まあ男がなるのは珍しいけど性被害に遭ったのなら分からないでも……あ、僕は大丈夫? 僕は何というかほら、アレだしさ」
両性である事を別に隠している訳じゃないから箱庭内の者なら僕の性別は誰でも知ってる。
男・女・両性・無性・可変と未来で記録するだろう戸籍は愉快な事になってそうだ。都市国家まで発展すれば導入できるかな。R以上にすべきかSR以上にすべきか迷うけど。
「め、女神様なら大丈夫なんで!」
「そう?」
「はい」
薄らと頬を赤くするアミールは可愛くて女の子バージョンも有りだなと思いました。まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます