第15話 デーモン捕獲時は弱らせると良いぞい!

「おお、何かめっちゃ感謝されてる」


 傭兵ミュータントの人にバナナを送ったら、何故か全く無関係のプレイヤーから次々と御礼メールが舞い込んできた。

 実はこのミュータント、有名な人だったんだろうか。ライブ中継で投げ銭を貰うという配信プレイヤーもちらほらと現れ始めているし。戦場カメラマン的な人なのかな?


 切羽詰まった女アバタープレイヤーがエロ配信をして結構稼いでいるらしいし、そういう界隈に興味がない訳じゃない。今度、見に行ってみようか。

 掲示板のカメラ機能を活用した元手ゼロで始められるこの商売方法は無料で閲覧できるネット文化と相性が悪く成り立つか疑問だったんだけど、何故か結構巨額な現金や魔素が動く市場と化しつつある。


 何処の世界にでも暇を持て余した金持ちはいるものなのか、この前なんか1000魔素をポンと出した配信リスナーがいたぐらいだ。

 不思議と露骨なエロ配信をするプレイヤーじゃなくてアイドル的な可愛らしさを売りにしたプレイヤーの方が人気あったりする。もう箱庭経営じゃなくて配信活動を主軸にしたデーモンすらいる始末だ。

 

 偶に掲示板で僕もやってみたらどうかと薦められるんだけど、ちょっとなぁ。あまり人前に出るのは好きじゃない。

 あ、でも、どうやって僕がバナナの送り主だって判明したんだろう。傭兵ミュータントの人が配信で言ったのかな? スパチャの名前呼び感覚で個人情報を晒すのは人身売買の直後だし止めて欲しい。


「ま、いいや。貧乏くじミュータントのように嫌がらせか?ってメール返信してくるよりマシだしね」


 バナナを100房も受け取っておいて酷い感想だ。現金換算で3,4万円はするんだぞ。

 うーん。やっぱ、どうにかして食料を売れないかな。コバルト鉱石ってレアメタルという呼び名に反してイマイチ儲からないんだよね。

 具体的に言うと銀の十分の1以下。単価が低いから量を売ろうとしてもコボルトの数が足りない。魔素は余り気味なのに現金収入は全然だ。


「1魔素1000円って考えると、僕は毎日12万円分の利益を叩き出してるはずなのに金持ちって感じが全然しない」


 他のデーモンに聞かれたら袋叩きにされかねないのは知ってるけどね。バイトを始めた社畜デーモン達の箱庭を失った嘆きは凄かった。

 まあ、分かる。だって50万魔素って日本円で5億の価値はある感じだもの。子供の頃に住んでた隣家の失火で燃えたアパートが実は5億円もする豪邸でしたと言われたようなもんだ。そりゃ暴れたくもなる。


「デーモンの島流し。一月100魔素のブラックバイトだけど発見座標は好きにして良いって山師みたいな仕事すらあるしね」


 無人の箱庭を発見なんて宝くじに当たるようなものだ。いや、箱庭の維持には高位デーモンが必要だから無人なんかじゃないんだけど。ニンフを含む一部のデーモンは人権を認められてないからデーモン国家的には無人なんだ。先進国が劣った原住民の事を考える訳がないよね。怖い。

 それにデーモン国家に所属する高位デーモンの別荘的な箱庭だろうと秘匿されてる次元座標を売り捌ければ良い金になる。低ランクデーモンにとってはどっちでも関係ないか。


 で、もし、新しい知的生命体の存在する次元宇宙に辿り着けたら。


「場合によっては貴族階級に取り立てられる事もあるんだっけ。RランクデーモンからSSRランクへの成り上がりか。夢があるな」


 蛮族文化の侵略種族だけどデーモンにはデーモンなりの秩序がある。

 そこに希望を見いだしてデーモンと内通する地球人類もまた、結構な数がいる。デーモンの眷属になれれば不老不死が手に入る訳だしね。そりゃ多いよ。

 デーモン側も人間を眷属にすりゃ魔法少女が生まれる可能性を消せるから実力が足りてないデーモンはそうやって管理を……。


「あーっ!! そうだよ人間は魔法少女になる可能性があるじゃん!!」


 何が神秘で強化されないから反逆の心配はないだ。滅茶苦茶あるよ。クッソある。

 魔法少女なら箱庭が崩壊すれば人間も全滅するから躊躇するだろうけど、ウィッチはデーモンの奴隷になるくらいなら死ねとか言うんだ。僕は詳しいんだ。


「べー。マジでやべぇ。どうっすかなー。返品……いやでも勿体ないし」


 人間がデーモンにとって有用な種族であるのは間違いないんだ。

 僕が箱庭内でやって欲しい野菜・果実の収穫作業やトレントの世話にコバルト鉱石の運搬。これらの一見、単純作業に見えるだろう労働もデーモンならRランクはないと安心して任せられない。


 Nランクの場合、野菜や果実を収穫する際に何か美味そうと勝手に食うし、あまつさえ食い残しを収穫物として献上してくる。トレントの苗木を世話しようとして枝を折るし、コバルト鉱石をうんこ塗れで渡そうとする。コボルトを働かせようとして全部、経験した。


 眷属にした影響で命令をちゃんと理解できるようになってるのが奇跡なんだ。あのゴブリン種族でさえ眷属は命令すれば逆らわないし、僕に危害を加えようと暴れないし、群れで仲間と一緒に暮すしね。野良ゴブリンはもう酷かった。子供を一緒の場所に一定時間放置すると弱い個体が死んでるんだ。一回だけ魔法で様子を遠目に見て後悔した。


 だから魔素関連を度外視しても、今の僕の箱庭では単純な労働力として人間は垂涎物なんだ。


「人間を眷属にすると種族がデーモンになっちゃうから魔素が必須になるんだよね。でもニンフの僕なら問題ないかな?」


 基本的な頭のスペックが影響してるのか人間を眷属にすればRランクのデーモンになる。

 まだまだRランクは僕の箱庭には少ないし良いかもしれない。上手くやれば質の高い神秘を捧げてくれるし。


「試しに解放して様子を見てみるか」


 そう僕はアイテムボックスから1枚のカードを取り出した。



◆◆◆


N人間(3/10)

有利特徴:賢さ+、神秘+

不利特徴:魔素吸収--


魔素濃度の低い環境に生息する雑食の二足歩行生物。

科学技術を発展させる事を選んだ種族であり、魔素に由来する技術の習得は不可。


◆◆◆



 これがデーモンから見た人間の説明文だ。

 神秘がプラスになってるのは魔素を取り込めないのに繁栄した不可思議な生き物だからかな。神秘値が高いのにそれが強さに直結しない奇形生命っていう訳。


 うーん。でもこうやってハッキリと説明文として表示されると。


「やっぱり魔法少女は人間じゃない?」


 そういう結論になってしまう。だってマイナスの2乗ってとんでもないペナルティーだぞ。

 ニンフである僕にも箱庭外弱化--って不利特徴があるけど、この特徴は単に箱庭を出ると戦力が低下するって意味じゃない。


 自分の依り代である森を形成するまでひたすら魔素を収奪され続けるという事柄を表わしている。


 一時的に依り代のある箱庭を出るだとか、魔素的な繋がりを維持したまま箱庭の外で暮らすなんてパターンなら問題ないんだけど。

 依り代を物理的に失ってしまったり箱庭との繋がりを完全に絶たれてしまうとニンフは大半の魔素を依り代作成の為に割かなくてはならない。魔法も殆ど使えなくなる。そもそもニンフの精霊魔法は依り代である自らの一部や担当属性を操る事に特化してるので、依り代のない状態での魔法使用なんてたかが知れてるんだ。


「人間の場合、魔法が使えなくなるだけじゃなく健康維持に魔素を利用する事が不可能になってる感じかな」


 元々は存在しなかった寿命を受け入れ常に食事を必要とし怪我で簡単に致命傷を負うようになった。

 その代わりに魔素の摂取が不要となる。


 デーモンの理屈で人間を説明するとこんな感じ。そういう目で魔法少女を見ると突然変異というか先祖返り?

 大昔の血筋にデーモンが混ざってるのかな。でも、その割には魔法少女の力は子孫には継承されないし。うーん。分からないね。


 あ、ちなみにニンフの不利特徴に関してなんだけど。依り代がないとニンフは無力って奴。


 この性質を利用してデーモン国家はニンフを生まれ故郷から引き離し、別のデーモン国家とトレードする事で無力化と資源の増加を効率よくやってるらしい。

 公共工事の一つであり多額の魔素を注ぎ込んでやる一大事業、新たな箱庭の創造も多元宇宙から切り離して奪った土地に大量の魔石を持たせたニンフ達を括り付けて行うというんだから恐れ入る。よくまあ、そこまで一種族を徹底的に搾取できるもんだ。


 親切なプレイヤーが嗤いながら丁寧に教えてくれて助かった。愉悦部も偶には役に立つ。

 ま、そこまで苦労して箱庭を作成しても現地のSSRデーモンが勝手に箱庭の王を自称し始めて、もとの次元座標から箱庭を移動させて盗むんですけどね。ざまぁ。

 移動した痕跡までは誤魔化せないから所属してたデーモン国家の追跡は逃れられないんだけど、その程度のリスクを背負わないようなデーモンじゃ端から王にはなれない。


 そんで亡命してきた自称デーモン王に他国のデーモン国家がお墨付きを与えて、デーモンの大国同士が戦争を始める訳。

 何か地球でも似たような展開見た。まんま中世の封建制度だこれ。


「多少のリスクを負ってでも人間をそのまま利用した方が良いかもなぁ……。現状は思ったよりマズいのかも」


 歴戦のURデーモンなら転移する様子を見て、箱庭の次元座標の逆探知余裕でしたとか言い出すって伝記に残ってるらしいしね。

 デーモン王からは逃げられないのだ。怖い。


「それじゃリリース」


 魔素を込めて眷属にしてしまわないようにだけ気を付けて、軽い気持ちでカードから人間を解放したら3人の子供が現れてパタパタと倒れた。

 そんで倒れ伏したままピクリとも動かない。


「しっ……死んでる!?」


 慌てて心臓の鼓動を確かめると微かに動いてはいる。だが瀕死で、今にも止まりそうだ。

 信じられない。ミュータント傭兵。


 アイツ、不良品を掴ませやがった。

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