他の惑星へ
ふと気付くと宇宙を流れていた。
何故かは解らない。
何か抗いがたい流れに流され宇宙を流れていた。
宇宙…そう、たぶん此処は宇宙。
周囲は漆黒、瞬く煌めき。
此処は宇宙だろう。
何故ここにいるのかは全く解らない。
身体の感覚が無い事からして意識だけの存在にでも成ったのだろう。
そうなると、私は死んだのだろうか?
その辺りの、今さっき気がつく前の記憶が思い出さない。
死んだときのショックか何かで記憶を無くしたのか、死んだからこそ記憶が無いのか。
そもそも、私は死んだのだろうか?
…此処は直感を信じよう。
私は人だったと思う、今私が考える為に使用している言語は日本語だ。
そう、私は日本人だった。
推測だが、確信として良いだろう。
で、なければ、私は日本語を思考言語として意識せず使うはずはない筈だ。
私は宇宙を流れていく。
私は日本人だった。
そうなると今の状況は、やはり死んだからこその状況ではないだろうかと考える。
ここは天国か地獄か。
死した人の魂は宇宙を彷徨うものなのか。
ふと思う、肉体の感覚はない、だけれども此処は宇宙だと認識出来るだけの情報を取得出来ている現実に。
肉体はないといえる、動かそうとしても動いた感覚も無ければ、身体の触覚すら感じ得ないからだ。
もし、そういった身体の感覚だけがなく、視覚情報だけ取得出来る状態だったとしても、人の肉体は宇宙という環境に適用していない為死んでしまうだろう。
私は肉体はないのだろう。
私は死に、魂と呼べるような存在か、幽霊と呼べる存在か、それともそれ以外の意識だけ存在し、ある程度自分の外の状況を知覚出来るだけの感覚を保持した何かに成ったのだろう。
とりあえず、便宜上今の状態を死して魂が宇宙を流れている状態と定義しよう。
その状態で私は生前の記憶の殆どを無くしているが、何故か思考する為の言語と、それが日本語である事は理解出来るだけの知識と知性を保持している。
何か他に思い出せる物は無いか?
朧気ながらどういった生活をしていたのかは思い出せる。
毎日のように満員電車に乗り通勤をし生活の為に働く毎日。
休日は家に引き困りアニメに漫画、ゲームなどをして過ごしていた。
そんな情景が思い起こせた。
それでも、個人を特定する何かが一切思い出せない。
そこだけ抜け落ちていた。
これは死に方が悪かったからか、どういう理由でかは解らない。
魂だけの存在になった事で消失してしまったのかも知れない。
どれだけ考えても、「かもしれない」と予想の範疇を超える答えを見いだせなかった。
私は誰だろうか?
私は取り留めも無く考え続けた。
この何もない宇宙を流れるだけの存在になり、他にすることがない為考え続けた。
そして、永い永い年月が過ぎていく。
この世界では、死した知的生命種の意識は魂として保護され永い旅路の後、遠い何処かで似たような生物へと転生する。
それがこの世界の仕組み。
流れ揺蕩い希薄になって行く意識。
やがてその意識は時間というどうしようもない力の前に自我を霧散させていく。
本来であればこうやって転生後に生前の記憶が残ることは無いのだが、時たまある程度自我を維持したまま転生する個体がいた。
それは、永い転生の繰り返しの中で、時の流れに適用した為なのか、それともなにがしかの介入があってのことなのかは解らないとされているが、今ここにいる彼は介入された結果そのような自体になっている。
どれだけの時間が流れたのだろうか。
ふと気付くと惑星にどんどんと近づいていた。
大地に海、青い大気が見える綺麗な惑星。
だがそこは、地球では無かった。
その惑星の海と大地は綺麗に区分けされていた。
明らかに何らかの意図が働いてそうしたのだろう形だ。
もし、これが自然に身を任せた結果こういった形になったのだというのならば、一体どれだけ低い確率の上でこうなったのだろうかと思える程に、綺麗に区分けされていた。
その事を認識すると同時に彼の意識は不意に途切れた。
瞼が上げられる…瞼?
久しぶりに身体が動く感覚を覚えたことに困惑を憶えた。
そして目の前には見知らぬ麗人。
男だろうか女だろうか、性別が良く分からない人。
人…そう人だろう姿形を取った存在が居た。
瞼を開く直前、意識上では先程まで宇宙にいた感覚でいた状態から、今の状況になりいるその存在。
見た目通りの人である可能性、私が知りうる人である可能性は如何ほどの物かと考える。
「初めまして、私はルードゥス。
惑星ハールトスの管理している者です」
目の前の存在は日本語を話していた。
もしかしたら日本語だと認識しているだけで、別の言語かもしれないが、これはアニメや漫画、ラノベの読み過ぎだろう弊害だと判断。
素直に日本語を、此方に合わせてコミュニケーション手段として選択してくれていると判断しなおした。
「初めまして」
私が逡巡するしていることを理解してか、私が言葉を返すまでルードゥスと名乗った存在は待ってくれたようだ。
「うん、問題はなさそうだね
君の保持していた情報を元にして、それっぽく肉体を再構成してみたんだけれど、実際に構成する段階で色々と情報が欠けているのが解ってね、此方で予想してその穴を埋めたんだ。
一言だけだけれども、問題はなさそうで良かったよ。
君自身の感覚で何か違和感はあるかな?」
この身体は、どうやら私の記憶を頼りにして作られたようだ。
「今のところは特に何かを感じることは無いですかね?」
「よしよし、それでは状況の説明をまずはしておこうかな、いきなりの事で困惑しているだろうからね」
それは有り難い。
「よろしくお願いします」
まずは相手の出方を見る為にも、素直に相手の主張する現在の状況を聞いておこう。
「まず、宇宙を漂い私が管理する惑星に辿り着いた魂だけの存在である君。
久しぶりに私の琴線に引っかかる存在だった君を、ちょっと優遇してこの世界で転生させようと思ってね」
優遇か…普通の感性でいえば何かしら対価を求められるだろう言葉が続くのだろう。
「それで、優遇はしたんだが、君自身に何か対価を直接貰おうとは思っていないよ。
ただし、その代りに君のことを観察させて貰おうと思ってね。
だから、君は特に何か私に与えることを考える必要は無いから」
言葉通りに受け取れば、観察対象として選ばれたということだろうか?
「君は新たに得た身体で、私の管理するこの星で自由に生活をしてくれ、私は君の特異性がどの様に発揮され、私の管理するこの星にどの様な影響を与えるのかを見させて貰う」
観察対象として、それと同時に変化を求めて、と言ったところが理由か。
「解りました」
否定する材料…というか、この条件を撥ね除けるだけのものが私にはない。
惑星を管理して、人の肉体を記憶を頼りに再現する能力または技術を保持している存在にどの様に抵抗するのか、皆目見当も付かない。
そんな存在が、観測するだけを条件にして、後は自由にする事を認めているのだから、それを受け入れるしかない。
「話しが早くて助かるよ
君は大分記憶の欠落が起きているようだけど、それでも魂のままの状態でも、ある程度自我を維持出来た希有な存在だ。
観察対象として、それだけで十二分だから、見られていると思って、行動に何か特別に判断材料として組み込む必要は無いから」
「はい、私の心の赴くままに過ごさせていただきます」
「では。
この星は私が管理している完結させている世界。
惑星ハールトス。
君の感覚でいえばゲームの様なシステムを適用させて、各地域を断雑させて管理をしている世界だ。
君が元居た惑星と様々な点で相違点があると思う。
だから、簡単ではあるけれども、チュートリアルを用意している。
こういった事例は今まで無かったから、飽くまでもこの世界の基本的なルールを学ぶといった程度で捉えて熟してくれ」
「ゲームの様な世界ですか?」
「そう、剣と魔法と科学の世界。
それをシステムで再現した幻想世界。
さあ、チュートリアルを始めよう」
彼の肉体は、ルードゥスが用意したチュートリアル専用の空間へと転移させられた。
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