桜佐咲⑫
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<体育館>
今日の体育の授業から球技大会の種目毎に別れて、練習することになった。
バスケは体育館で男女合同で練習だ。
「はあ……」
僕以外の男子はゴール前の辺りで楽しそうに遊んでいる。
…………誘える友達もいないし、一人で練習しよ。
「えいっ」
ガコンッとゴールのリングに当たる音が響き渡る。何回かボールをゴールリングに向かって投げるが入る気配がない。あんなに小さなところに皆どうやって入れるんだろう。
……ちょっと他の人の見てみようかな。
「おりゃ!」
不二くんはドリブルで2、3人を抜いた後、そのままあっさりとゴールを入れていた。す、すごいな……。
「おい恵介、ちょっと加減しろよ」
「へへっ悪い悪い」
女子組にも不二くんに負けないくらい上手い人が二人いる。桜佐さんと鷹来さんだ。
桜佐さんは昔から運動ができるって知ったいたけど、鷹来さんもすごく上手だ。さっきから遠い場所からのシュートを連続で何本も成功させている。フォームがとても綺麗だ。
「…………いいなぁ」
球技大会は不二くんたちに迷惑がかからないように、変なミスをして目立たないように頑張らないと。そのために練習しよう。
「うぇーい。何してんだよ」
「あっ
大留くんは不二くんと仲が良くて、クラスのムードメーカーだ。誰に対しても明るく接してくれるし、とても話しかけやすい。
「そんな一人でやってないで、春日井もこっち来て一緒に練習すればいいじゃん?」
「あ、ありがとう。…………ねえ大留くん、ゴールってどうやったら入るの?」
「え? 簡単じゃん。こうやってまずやるだろ……それでこうだよ!」
ぽーいっと大留くんが軽く打ったシュートがゴールに入る。な、なんでそんな簡単に入るんだろう?
「え、えーと……こう?」
大留くんの説明は僕にはあまり理解できなかったので、とりあえず真似してシュートを打つが全然ゴールに入らない。
「う、うーん……」
「固い固いって。もっっっっとノリで! ドーンでシュッて感じでよ!」
笑いながら肩をポンと小突かれる。
……ぜ、全然わからない。ドーンでシュッ?? 考えれば考えるほどわからなくなっていく。でも大留くんはこんな僕に親切に教えてくれてるのにわからないなんて言いづらいし……。
「頑張ってるね」
「うえっ鷹来さん!?」
悩んでいると鷹来さんが声を掛けてくれた。突然鷹来さんに声を掛けられて大留くんが驚いている。
転校してきてすぐに好きな漫画が一緒ってことでいつの間にか仲良くなった。
「大留くん。不二くんが呼んでたよ」
「ま、マジ。ありがとう。……鷹来さん、俺、頑張るから見ててね!」
「えっ……あ、うん。頑張って」
大留くんが笑顔で不二くんのところに向かっていき、鷹来さんと二人きりになる。
「鷹来さん、バスケも上手なんだね」
「そうかな? ちょっとできる程度だよ」
そう言いながら持っているボールを人差し指の先に乗せて回転させる鷹来さん。………ちょっと?
「鷹来さん、バスケ好きなの?」
「ううん。私はバスケそんなに好きじゃないよ」
「えっそ、そうなの?」
「うん」
「でも種目決めの時、すごく積極的に手を挙げてたよね?」
女子のバスケの代表を決める時、鷹来さんが誰よりも早く手を上げていたのを覚えている。
「ああ……それはバスケに春日井くんがいたから」
「???」
ど、どういうことだろう……。
「別に種目は何でもよかったんだけど、春日井くんがいたからバスケにしたの。それだけだよ」
「僕、バスケ下手だから、鷹来さんの期待には答えられないと思うけど……」
「下手とか関係ないよ。私は一生懸命な春日井くんが好きだから」
真っすぐに僕を見つめ、さも当然のことのように言い放つ鷹来さん。
「あ、ありがとう……」
な、なんか顔が熱くなってきた。鷹来さんは不意にこういうこと言うから緊張してしまう。
「もうすぐ男子のゲームが始まるね。頑張って応援してるから」
「う、うん。頑張ってくるね」
手を振りながら待機場所へと去っていく鷹来さん。
こんな状態で試合やれるかな……。
「千尋ー!」
鷹来さんがいなくなった後すぐに桜佐さんがやってきた。
「練習頑張ってるね」
「うん。全然上手くないけど……」
「みんな初めはそうだよ。ところでさ……さっき鷹来さんと何話してたの?」
笑顔の桜佐さん。でも笑顔なのにどこか怖い、怒ってる感じがする。
「えっ? 少し世間話をしただけだよ」
「ふーん……そっかぁ。でもさ、鷹来さんと話してたときの千尋めちゃくちゃデレデレしてた」
「そ、そうかな」
他の人から見たらデレデレしてるように見えたんだ。…………なんか恥ずかしいな。
「…………ズルい」
「えっ?」
小さな声だったので桜佐さんが何て言ったのか聞き取れなかった。
「次ー。男子のゲームするから、集まれー」
「あっじゃあ行ってくるね」
「うん。頑張ってね」
「………………」
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