廻間麗奈ルート クリア / 新しいルートへ

 <天界>



「…………ここは」


 目を覚ますと見覚えのある周りに何もない真っ白で広い部屋にいた。


「もしかして……」


「お久しぶりです春日井様」


「Cさん……」


 声の主は僕をいじめのない世界に送り出してくれた天使のCさんだった。


「なんで、僕ここに……あれ」


 確か僕は麗奈先輩の家で先輩と一緒に過ごしてて、そのまま……。


「……そうだ。れ、麗奈先輩は?」


「ここには今、春日井様と私しかいません」


 辺りを見回してみても以前天界に来た時にいた他の天使の姿は見えない。Cさんの言う通りここには今は僕とCさんしかいない。


「なんでまた僕ここに……。も、もしかして死んでしまったのですか?」


「いいえ。春日井様は死んではいません」


「じゃあどうして……」


「ゲームをクリアされたので一度天界に戻ってきたのです」


 死んではいないけど天界に戻ってきた? ゲ、ゲーム? Cさんの言っていることに頭が追い付かない。


「春日井様に伝えないといけないことがあります」


「伝えないといけないこと?」


「春日井様は現在、ゲームに参加されている状態です」


「ゲームに参加……。でも前に僕が参加してた“親しい異性に嫌われる”っていうゲームは終わったって」


「はい。そのゲームではなく、春日井様は今ボーナスステージのゲームに参加中なのです」


「ボーナスステージ?」


「どうやら春日井様は天使Zに気に入られてしまったみたいなのです」


 Cさんは僕にボーナスステージのルールを見せてくれた。



────



 ・ゲーム勝者の春日井くんへのボーナスステージ♡



 生き返った場合、“親しい異性に嫌われる”から“親しい異性からの魅力度がMAXになる”に変更にします。モテモテだよ、男の子の夢だよね!



 ・ボーナスステージの突破条件♪



 ①廻間麗奈、桜佐咲、春日井結依、下屋敷銀華、鷹来翠、味美栞、弥生莉緒、神明琴葉、庄名柚希、旭天舞音。この10人のルートを攻略すること。



 攻略は対象の女の子が幸せって思ったら攻略とします!



 ②攻略後、次の攻略ルートに入るとき、春日井くんと周りの人間の記憶は再びリセット、時間やその他もろもろもリセットされます。



 ③10人の攻略が全て終わったら本当に終了します。望んでいる元の日常に戻ります。よかったね♡



────



「な、何これ……。意味がわからない」


 書いてある内容に驚愕する。


 嫌われるから魅力度が最大になるとか、これを作った天使は何を考えているのかさっぱりわからない。


「春日井様の反応は当然だと思います。同じ天使の私たちですらZの考えることは予想ができません」


「あのすいません、この突破条件に書いてある10人の中に全然接点のない人も混ざってて……」


 10人の中には麗奈先輩に桜佐さん、結依姉さんもいる。結依姉さんは家族なのに攻略なんて……。


 他にもクラスメイトや同じ委員会、生徒会の人……。知ってはいるけど話したことがない人もいる。


「恐らく、その方は春日井様がこれから関係性を持っていく方々です」


 これから関係性を持っていく……。つまりこの人たちも僕と同じでゲームに巻き込まれてしまったってことだ。


「こんなのって……」


 Zという天使はどれだけの人の人生をめちゃくちゃにすれば気が済むんだ。


「春日井様は廻間麗奈の攻略に成功しました。残りはあと9人になります」


「あ、あと9人も麗奈先輩みたいにその、付き合って甘やかしていかないと駄目ってことですか?」


「わかりません。対象の女性が何を幸せと感じるのかはバラバラですので」


 もし対象の女性が幸せと感じなかったら僕は一生このゲームを続けることになるのか……。


「私も完璧に理解はしていませんが、今こうして春日井様がここにいられるということは廻間麗奈をしっかり攻略できたということだと思います」


「じゃあ廻間先輩の幸せって……」


「廻間麗奈の場合は自分を甘やかしてくれることが幸せだったみたいですね」


「…………」


 周囲から完璧であることを期待され続けた廻間先輩。


 そのことで廻間先輩が疲弊して、押し潰されそうになっていることに誰も気づかず、さらに完璧を求められる。


 そんな廻間先輩が甘やかしてほしいと、甘えられる時間が幸せに感じるのは当然だったのかもしれない。


 もし……もし廻間先輩があのまま完璧というプレッシャーに押し潰されていたらどうなっていたのだろうか。


「…………僕、麗奈先輩のこと好きなんです」


「はい知っています」


「始めはびっくりしましたけど、剣道をやっててカッコいい麗奈先輩も甘えてくる可愛い麗奈先輩も大好きなんです」


「はい」


「でもこれはゲームだったんですね……」


「…………」


「……………………辛いな」


「心中お察しします」


 突然、僕の体の周りが白く発光し始める。


「これって……」


「そろそろ時間のようですね」


 どうやら体が光るこの現象は現世に戻る時間であることの合図らしい。


「……また現実世界に戻ったら僕は記憶がなくなって、違う人の攻略が始まるんですよね」


「はい。記憶も時間も廻間麗奈との恋人関係も全てリセットされ二人目の攻略からスタートです」


 現世に戻ったら今知ったこの情報も何も知らず、また一から攻略をしていく。もし失敗してしまったらずっとゲームに参加し続けないといけない。


 でもあと9人……。


「あと9人、攻略できたら今度こそあの日常に……」


「それは間違いありません。ルールに記載されていますので」


 僕がこのゲームをクリアすれば麗奈先輩も桜佐さんも結依姉さんも……みんなが元の生活に戻ることができる。


「…………」


「私はどんなことがあっても春日井様の味方です」


「……ありがとうございます」


 Cさんにお礼を告げると目の前が真っ暗になった。



 絶対にゲームをクリアしてみせる。



 プツンーー。






「いってらっしゃいませ春日井様。どうかまたここで会えますように」


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