527.好みも性格も正反対な姉と弟
イヴはゴルティーがお気に入りだった。キラキラする鱗は綺麗だし、抱っこするのにちょうどいい大きさだ。本当はもっと大きいと聞いたけれど、顔を合わせるときは小型サイズだから。
何より性格が穏やかで可愛い。以前から城の裏庭に住む有鱗族が好きだった。鱗の冷たい手触りが気持ちいいし、すべすべした感じなのもいい。逆に撫でると痛くて叱られるけど。
「鱗が好きなのは分かったけれど、陛下の前で言うと泣くわよ」
ベルゼビュートに言われ、うーんと考え込む。なぜいけないのかな。パッパは鱗が嫌いなのかも。違う方向へ解釈したイヴは大きく頷いた。
パッパがいないところで、鱗を撫でよう。そうしたらパッパも泣かないはず! 子どもらしい見当違いな理解を示すが、ベルゼビュートはそれに気づかなかった。
黒髪のイヴに白い薔薇を渡し、耳に絡める形で差し込む。満足して頷いた。
「うん、可愛いわ」
「ありがとう、ベルゼ姉さん」
「いいのよ」
おほほと笑いながら機嫌よく帰って行った。リリスだけでなく若いイヴに「お姉さん」と呼ばれることは、素直に嬉しいベルゼビュートだ。女性はいつでも若く見られたい。
明日の予習をするため部屋に戻るイヴと入れ替えに、ロアに跨ったシャイターンが現れた。ヤンがあれこれ指導している。鳴き声で会話するロアとヤンに耳を澄ましたシャイターンが「おーん」と真似をした。
二人は足を止めて「おぉん」だと修正する。発音が難しい魔獣の言語を習得するため、シャイターンがまた鳴いた。
「ぉおん」
「発音が違います」
通りがかりのベールが足を止めて手本を示す。その鳴き声にヤンが「素晴らしいですな」と称賛を送った。完璧な発音だ。その音をよく聞いて、もう一度シャイターンが挑戦する。
「おぉんっ」
「今のはいい響きです」
褒められてシャイターンは嬉しそうに頬を緩めた。
「いっぱい喋りたい」
「いい心がけです。陛下もこのくらい向上心を持ってくれたら良いのですが」
溜め息を吐くベールを、息子シャイターンは気にしない。覚えた「おぉん」を繰り返しながら、突然動きを止めた。
「いまの、おぉんの意味、なに?」
「……やはり陛下の息子でしたか」
苦笑しつつも、ベールはシャイターンへ意味を説明した。仲間を鼓舞するときの鳴き方と説明され、鼓舞の意味もせがまれる。勉強熱心なところは、父にも母にも似なかったシャイターンだった。
「何してんのさ」
通りがかったルキフェルは、実験用の道具を抱えている。収納へ入れると中で生きている菌が死んでしまう。研究が台無しになるので手で運んでいた。魔法陣や魔法を使って影響が出たら困る。ルキフェルの大荷物を見兼ねて、ベールが半分預かった。
一緒に抱えて運ぶ二人を見送り、ヤンは再び鳴き声を教え始める。シャイターンはロアと会話するため、必死で食らいついた。ロアは嬉しそうに尻尾を振り、自分も会話できるようヤンに念話を習おうと心に決める。幼いながらもいいカップルだった。
「僕、大きくなったらロアと夫婦する!」
「くぅん」
嬉しくて鼻を鳴らすロアを撫でて抱きつき、シャイターンは声を立てて笑った。幼くして
養い子になったピヨも、番のアラエルと早く結ばれてくれたらいいのだが。鳳凰族の寿命が長すぎて、成長が遅すぎる。仕方ないが、せめて生きている間に
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