511.魔法陣を使う新しい可能性

 ルシファーの足元に刺さった羽根は、大地に魔法陣を描き出す様子はない。ただ突き刺さったまま……上空のアラエルが一声高く吠えた。


 ドンっ、激しい音を伴った雷が落ちる。直撃したアラエルに、ぴりぴりと雷が走った。まるで落雷を利用して電気を纏ったような姿で、ぐぁああ! と大声を上げる。


「やべぇ、なんか見覚えがある」


 アベルが「著作権侵害じゃね?」と指摘するが、意味が理解できるのは日本人だけ。彼の近くにはいなかった。


 赤とオレンジの炎に、青白い雷が混じる。その光景はとても美しかった。


「綺麗だな」


 ぽつりと感想を述べるルシファーに危機感はない。薄暗くなった空から、いくつかの雨粒が落ちた。鳳凰は雨にあまり強くない。彼が不利なのでは? と違う心配を始めたほどだ。


「胸をお借りします」


「え、やだ」


 直球に意味を受け取り、素早く打ち返す。ルシファー達の会話に苦笑いしたアスタロトだが、ルキフェルは驚いた表情で空を見上げている。


「何かありました……ね」


 ありましたかと尋ねる声は、途中で肯定に変わった。頭上の雲に魔法陣が映し出され、真下のルシファーが標的になっている。彼は気づいているだろうに、その魔法陣を破壊せず発動を待っていた。


 アラエルが高い声を発して飛び込む。デスサイズを左手に握り、ルシファーは動かなかった。頭上の魔法陣に複数の雷が落ちる。それが空中で動くアラエル目掛けて弾けた。大量の雷を纏った鳳凰がルシファーと激突する。


 飛び散った炎と火花は美しく、赤、オレンジ、黄、青、緑……様々な色を生み出した。


「アルぅ?」


 びっくりして立ち止まったピヨが、不安そうに名を呼ぶ。花火に似た色の共演が落ち着き、アラエルはルシファーの前に倒れていた。


「途中までは良かったのに」


 ルキフェルが残念そうに呟く。状況が理解できない民に向け、彼は風に声を乗せて説明を始めた。


 魔王の足元に刺した羽根は、雷雲を発生させる魔法陣の基礎だ。反射した形で空に魔法陣が描かれた。だが当初は青空に溶け込んで見えない。雲が呼び起こされて、ようやく魔法陣が出現した。この点は評価に値する。


 アラエルは炎に雷を纏うことで、己の攻撃能力を高めようとした。ここで攻撃方法に一捻り欲しかったが、彼は体当たりを選ぶ。威力は高いが魔王の結界を破るには及ばず、倒れたのだ。説明されれば理解できるが、民は見た目の華やかさを評価した。


「すげぇ、明るかったな」


「色が綺麗だったわ」


 アラエルは歓声に反応して首を持ち上げるが、力尽きて動けないようだ。雷をいくつも浴びたので、ダメージが蓄積されたのだろう。苦笑いしたルシファーが、治癒を施した。


「斬新で驚いた。鳳凰族が魔法陣を操る日も近いな」


 傷をつけるには至らないが、新しい可能性を示した彼は魔王に褒め言葉をもらう。治癒の礼を述べてふらふら立ち上がったアラエルに、惜しみない拍手が送られた。


「ピヨ、頑張ったぞ」


「うん」


 大型犬より一回り大きくなったらんに駆け寄るが、抱き締める前に避けられた。踏みとどまれず転んだアラエルに、ピヨは容赦なくよじ登る。見ようによっては、踏み潰されたとも受け取れる状況だった。


「いつも通りね」


 だから言ったでしょう? そんな口振りで、リリスがヤンにトドメを刺す。ぐさりと刺さったヤンは「ピヨの教育を間違えた」と目を肉球で覆った。ゴメン寝スタイルである。


「さて、次は……レラジェか」


 義理の息子に迎えた彼は、外見はまだまだ子どもだった。だが予選を通った強者である。挑戦者として魔王の前に立つ以上、ルシファーも手加減や油断は禁物だった。


「お願いします」


 きりっと表情を引き締めたレラジェは、大きく息を吸い込んだ。

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