471.試験で希望者を篩い分け

 集まり過ぎた教師希望者は、大公達による試験を通過することになった。適性に応じて振り分けられる。急遽呼びつけられたベルゼビュートは眉を寄せた。


「わたくしも手伝うんですの?」


「計算関連はあなたでしょう」


 さも当然といった口ぶりで断言されれば、悪い気はしない。計算に関して抜きんでた能力を誇る彼女は、ピンクの巻き毛をくるくると指先で巻いた。枝毛ひとつない美しい髪が自慢だが、先日は現実逃避のために枝毛探しをしたベルゼビュートである。


「あの人達を試験してください。そこそこ使えるようなら合格で。人数制限はありません。余ったら文官へ回しますから」


 アスタロトは、折角集まった者達を簡単に逃がす気はなかった。優秀と自薦するくらいだ。文官の末席で使ってもいい。常に人手不足の部署はいくつもあった。


 百人ほどを眺め、ベルゼビュートはすらすらと問題用紙を作成した。彼女にとっては大した計算ではないが、一般的には教養の中で高い部類に入る。一枚の紙に纏めたテスト用紙を、複写して全員に手渡した。


「これが試験よ、合格したら教師になれるわ。頑張って頂戴。解けた人から持ってきて」


 さっとお茶の支度を整え、長椅子で寛ぐ。早い者なら数十分、長くても二時間あれば終わる。ベルゼビュートはそう踏んでいた。それ以上かかるなら、計算部門では失格となる。


 ぱちんと指を鳴らして用意したテーブルと椅子を使い、それぞれに計算を始めた。この中でベルゼビュートを驚かせたのは、猫獣人の少女だ。まだ子どもの外見にも関わらず、テスト用紙を手にすたすたとベルゼビュートに歩み寄った。


「すみません。この手で文字が書けないので、口頭での解答でもいいですか」


「え? いいわよ」


 言われてよく見れば、両手ともふっさふさの毛に覆われていた。肉球もあり、ペンは握りにくいだろう。計算のテストに振り分けたくらいだから、全員文字が書けると思い込んでしまった。反省しながら、周囲に結界を張る。


「遮音する結界を張ったわ。いつでも構わないから、準備が出来たらどうぞ」


 長椅子に寄り掛かっていた姿勢を正し、組んだ足を揃えた。大公として高い地位にいるが、それは役職名と同じと考える。ならば、接する人の種族や年齢に関わらず、礼儀正しく対応するべきだ。ルシファーの言葉を忠実に守るベルゼビュートの耳に、すらすらと答えが告げられた。


 式を省いた答えはすべて正解だ。そこでさらに問題を追加してみた。それもぱっと解いてみせる。


「合格よ。教師になりたいのね」


「はい。お金が必要なんです」


「……忙しいけれど、文官の方が儲かるわよ?」


「あまり忙しいのは困ります。弟の世話をしないといけないので」


 何やら事情が複雑そうだ。こういった事例はルシファーに相談が一番だろう。アスタロトでもいいが、彼は少し人の気持ちに疎い。


「分かった。ならば、最高の職場を紹介するから安心して」


 合格者となった猫獣人の少女はアイムと名乗った。お茶菓子に目を輝かせる様は見た目の年齢相応だが、かなり苦労している様子だ。というのも……。


「お菓子、いくつか持ち帰っていいですか? 弟にも食べさせたいのです」


 情に厚く涙もろいベルゼビュートは、もう限界だった。試験を受ける他の人をそっちのけで、少女にたくさんのお菓子を詰めたバスケットを手渡す。まだ子どもの彼女が苦労しているなら、養女にとってもいい。


「陛下に相談しなくちゃ!」


 ベルゼビュートが拳を握る頃、ようやく解答した者が出始める。それを採点しながら、隣に座らせた少女にせっせと軽食やお茶を与えた。

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