466.音痴ではなく個性的な歌い手
イヴやシャイターンと一緒に入浴する。生まれて数ヶ月は、産湯以外は浄化魔法を使ったが……ようやくシャイターンもお風呂を楽しむようになった。バシャバシャと水を叩く小さな体を膝に乗せ、潜って遊ぶイヴの様子を見守る。
危ないので潜って欲しくないが、本人は楽しそうだ。結界を壊すことも減ったので、安全のために薄く2枚張った。
「パッパ、ぶくぶくのやって!」
タオルを沈めて、空気を絞り出す遊びだ。これはリリスも好きだった。
「ああ、ちょっと待ってろ」
シャイターンを魔力で固定する。万が一を考え、結界も張った。お湯に体を半分ほど浸けた状態のシャイターンを確認し、イヴの要望を叶える。タオルに空気を入れて沈めた。丸めてきゅっと裏側を閉じれば完成だ。
「出来たぞ」
「ありがと!」
ご機嫌のイヴはゆっくりと押して空気を絞る。この辺は親子でもまったく反応が違った。リリスは一気に潰してしまう。イヴはじわじわと潰すのが好きだった。三回ほど同じ遊びをして満足したイヴは、お風呂を出ていく。
「リリス、イヴが上がった」
「分かったわ」
この頃、リリスのために子ども達の入浴を引き受けている。ルシファーは苦にならないし、リリスはわずかでも自由時間が出来た。しかも一人でのんびり入浴も可能だ。仕事で昼間はシャイターンと別れているルシファーは、ここぞとばかり息子を構い倒した。
耳の裏や足の指の間まで丁寧に洗い、肌がほんのり赤くなったシャイターンと風呂を出る。ぱちんと指を鳴らし、温風で乾かした。一瞬で乾いた肌に、シャイターンが「きゃぁ!」と大きな歓声を上げる。大量の魔力を持つので、魔法に対する感受性が強いのだろう。
「よしよし、服を着ような」
ルシファーがまた魔法で服を着せる。魔法陣を使うと、一度着用した状態で記録しなくてはならないが、魔法はイメージ重視なのでその必要はない。収納から取り出した服を当てて、魔法で着せた。
途端に目を輝かせたシャイターンが、手足をばたつかせた。落とさないようにしながら、自分は全裸のまま室内を移動する。
「イヴ、シャイターンの様子を見ててくれ」
「あい! お姉ちゃんだから出来る」
「ああ、頼んだぞ。お姉ちゃん」
お気に入りのお姉ちゃん呼びで、俄然やる気が増すイヴはベビーベッドの前で待機した。短距離の転移で現れた弟の頬を突き、二人でにこにこと笑い合う。どうやら大丈夫そうだ。指を鳴らして自分も着替え、入浴準備を始めた妻リリスのためにお湯を入れ替えた。
これも魔法で一瞬だ。浄化する方法もあるが、気持ちの問題でお湯ごと交換する。ちなみにお湯は温室の温度維持に使えるので、そちらへ流した。温室の扉がやや曇っている。
「ありがとう」
「今日は赤い薔薇をどうぞ」
ついでに温室から持ち出した薔薇の花びらを浮かべる。昔から薔薇のお風呂が好きなリリスは、鼻歌を歌いながら浴室へ向かった。
「ねえ、パッパ」
「なんだ?」
「ママの音、ちょっと違う」
同じ歌を覚えたらしく、歌ってみせる。確かに音が違うのだが……我が子にそれを指摘されたら、リリスもショックだろう。どう誤魔化すか考えて、ルシファーはイヴの前に膝を突いた。
「ママは分かっていて、違う音を歌ってるんだ。だから言ったらダメだよ。それに違う人が歌えば、同じ歌が違っていてもいいと思わないか? 角兎だって、毛皮が白かったり茶色かったりする。それと一緒だ」
「うん、分かった! ママは角兎なのね?」
「ちょっと違うな」
何度も説明し、ようやく理解してもらう。リリスは音痴なのではなく、個性的な歌い手なのだ。その理論を叩き込まれたイヴは、当たり前のように外でもその理論を振り翳した。
様々な個性の種族が存在する魔族にとって、ルシファーがイヴに教えた捉え方は好ましい。違いを指摘し差別するのではなく、違うものとして理解して呑み込む。当たり前なのに、とても難しいことをイヴは覚えて実践した。
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