400.鳳凰族なのに火口で溺れた?

「番が火口で溺れた!」


 大声での悲鳴に、周囲から鳳凰が集まった。アラエルの番が、珍しい青い鳳凰である鸞なのは有名だ。そのため、子が生まれにくい鳳凰達も気にかけてきた。


 イタズラ好きで悪さばかりするピヨだが、幼子はこんなものと同族は鷹揚に受け止める。生まれる雛が少な過ぎて、子育ての記憶が美化された個体が多いのも災いした。


 本気で嘆くアラエルを横目に、鳳凰達はのんびりしている。どうせ驚かせようと潜っただけだろう、とか。または、どこかで遊んでいるんじゃないか。そんな意見がひそひそと飛び交う。


「ピヨが飛び込んで、一度も浮いてこない。探したが見つからないから、手伝ってくれ!!」


 あまりに必死の懇願に、ようやく鳳凰達も事態を呑み込んだ。本当に浮いてこないとなれば、大騒ぎだ。そこへ拍車を掛ける一言が発せられた。


「ピヨは再生中に飛び込んだ!」


「「「なんだって?」」」


 そんな危険な行いをする鳳凰族はいない。皆、両親からしっかり教わっているのだ。再生中は炎に包まれる。その温度は高いが、火口内で再生すると本当に燃え尽きる可能性があった。温度が上がり過ぎるのだ。雛ともなれば、危険性はより高まる。


「早く行くぞ」


「ちょ! もっと早く言え」


 慌てふためきながら火口にダイブする鳳凰達。火口の溶岩と同じ赤やオレンジの羽を揺らし、足をバタバタさせながら潜り始めた。


 普段は優雅に浮いて溶岩浴を楽しむ鳳凰だが、稀に潜ることがある。ただ得意ではないので、潜り損ねて足がジタバタする逆さの鳳凰も現れた。潜って中を確認しては浮き上がる。繰り返す作業の途中で、長老格の鳳凰が応援要請を発した。


「魔王様! 我が一族の危機ですぞ」


 魔力を込めて呼び出す。混乱したアラエルはすっかり忘れていたが、もっと強力な助っ人を頼めば良かったのだ。


「どうした」


 きょとんとした顔で現れたルシファーへ、アラエルが必死で訴えた。


「溶岩がピヨを飲み込んで、私が燃え上がりました」


「……うん、落ち着け」


 ぽんと肩を叩くルシファーが長老へ視線を向ける。アラエルが落ち着くより、事情を知る長老から話を聞くのが早い。


「ピヨが再生中に火口へ落ち、戻りません。お助けください」


 簡潔に纏められた内容に、ルシファーは少し考えた。ピヨはイタズラ好きだが、本当にヤバい悪さはしない。ヤンが育てているだけあって、真面目なところもあった。ちょっと常識や理性が足りないだけだ。


「鳳凰達を退避させてくれ。溶岩の底を掬うぞ」


 長老の号令で、潜る鳳凰達が慌てて飛び立つ。空中で待機する彼らを確認し、ルシファーは白い羽を広げた。かつて漆黒だった翼は、すべて純白に変わった。増えた魔力を遠慮なく使用する。


 ぶわっと長衣の裾が舞い上がり、手の上に作り出した魔力の網が投じられた。上昇気流のように髪や裾を揺らす風は、膨大な魔力の渦だ。


「いくぞ」


 底に到達した魔力の網を、確実に広げていく。それからパチンと指を鳴らして持ち上げた。溶岩の中に混じる巨大な塊がごろんと落ち、溶岩を撥ね上げる。すべて結界で防ぎながら、生き物以外で網に入った物を排除した。


 小さくなった網を手元に引き寄せ、そっと広げる。すぴすぴと鼻が詰まったような寝息を立てる青い雛が出てきた。


「ピヨ……だよな?」


「たぶん」


「他にいませんね」


 ルシファーの疑問に鳳凰達が同意する。と、アラエルが飛びついた。


「ピヨぉ!! なぜこんな姿に!」


 番であるアラエルが嘆くのも無理はない。鳳凰の寿命から判断して、まだ赤子扱いのピヨは……見慣れぬ複数の翼の鸞に変化していた。

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