340.明け透けなお茶会の迷走

「シトリー、お腹が大きくなったわね」


 指摘するルーシアが、手を伸ばして支える。階段の登り降りは妊婦にとって危険だ。左手で手すりをしっかり握り、右手を友人に預けたシトリーは、慎重に足を踏み出した。


 卵を産む鳥人族なので、胎児を体内で育てる種族より、お腹は小さめだ。それでも卵が二つ確認されたシトリーは、立派に膨らんだ腹部を撫でた。


「しばらく下の階で仕事をするようにして。手配するわ」


 ルーシアの提案で、すぐに手配が整えらえた。魔族の妊婦は最優先で守られる。家族で暮らす部屋は幸いにも一階なので、横移動だけで済むように執務室を移動した。


 こういった手配は、アスタロトやアデーレが行ってきた。彼らがいないと、指示する者がおらず。気づかなくてすまなかったとルシファー達が謝る事態となった。


 今後は気づいた者が申請をあげ、提案する仕組みが作られる。気がつき手が回る人物がいなくなれば、穴を補う人物や仕組みが生まれる。当たり前なのだが、当事者にはちょっと切ない結果を齎した。戻った職場で必要とされない、そんな気持ちになるからだ。


 今回の場合、気づいた者が声を上げる形なので、アスタロトやアデーレが戻れば彼や彼女が提案する立場になるだろう。


 リリス主催のお茶会、奥様会が開かれた。ベルゼビュートも参加したお茶会は、温室の中で盛り上がる。集まった女性達から、思わぬ報告がもたらされた。


「ねえ、出産育児休暇を申請した侍女が6人目ですって」


「重なるわね。そういえばシトリーは卵二つでしょう?」


「アデーレ侍女長もお休み入ったし……」


「あ、お義母様の話? 義理の弟妹が生まれるのよね」


 話題は、出産ラッシュに関する情報に片寄っていく。肘をついたベルゼビュートは、片手で摘んだお菓子を噛みながら溜め息を吐いた。


「うちも二人目、産もうかしら」


「ベルゼ姉さんもそう考えてるの? 私もルシファーに強請ろうと思ってたの」


 強請って生まれるかどうかは、微妙である。女性同士の雰囲気も手伝い、リリスは明け透けに直球で口にした。


「あの……うちは出来ちゃいました」


 レライエが自己申告する。


「アドキスったら元気ねぇ」


 一斉に視線が腹部に向けられるが、まだ膨らんでいなかった。前回のゴルティーを産んだ際は、卵だった上、割れるまで7年も掛かった長期戦だ。すぐに皆の興味は別の話に逸れた。


「赤ちゃんが欲しいって、どうやって言えば良いのかしら」


 リリスが首を傾げた。一緒に寝ましょうだと、いつも同じベッドなので通じない。子どもが欲しいと言えばいいのか。それも情緒がない。頻繁に体を重ねていたのは、妊娠が判明するまで。その後は妊娠期間を経て育児が一段落するまで、ルシファーからの動きはない。


「押し倒したらダメか? うちはそれで出来たけど」


 レライエのとんでもない発言も、女性同士のお茶会では過激な部類に入らない。賛否両論、普通に流されてしまった。


「あの……言いづらいんだけど、私も出来たかもしれなくて」


 ルーシアがそっと手を上げる。まだ兆候がある程度、妊娠の確証はないらしい。


「育児ラッシュなのね。じゃあ、ルシファーに「私も欲しい」って言ってみるわ」


「わたくしも、エリゴスを襲ってみるわね」


 なぜか自分も妊娠する気になったベルゼビュートは、ぐっと拳を握り締めた。いつもなら、この場にいるアデーレが別の話題に誘導し、話を逸らしてくれるのだが。


 彼女がいないお茶会は、妊娠報告から子どもを強請る方法やセリフの検討に入り、押し倒す際の注意事項まで迷走した。過去の性教育同様、とんでもない方向へ暴走する集団だった。


「ルシファーに跨って、赤ちゃんが欲しいと叫ぶ、これね」


 全員の意見を総合して自分なりに組み立てたリリスは、かなり間違った方向に固まった。襲われた魔王が反撃するどうか……現時点で知る者はいない。

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