331.大健闘の双子、褒美を賜る

 魔王の袖を掠めた。この時点でスイの実力は抜きん出ていると、誰もが認めた。魔王チャレンジの際、ルシファーは意図的に結界を緩める。故に刃や矢が掠めると傷が残った。


 スイが解れさせた袖に、ルシファーの口元が緩む。有能な若者を見ると嬉しくなるのだ。長寿故に、多くの魔族を見送ってきた。同時に、多くの誕生と成長を知っている。


「っ!」


 ルイが引き絞った弓から放たれた魔力が、途中で形を変えた。矢ではなく、短剣に似ている。自在に形を変える魔力は、魔法の一種に分類されるが……。


 飛んできた短剣のひとつを指先の結界越しに掴み、ルシファーはじっくり確認した。炎を纏うのではなく、魔力そのものが炎に変換されている。


「魔力操作の一種か? これは凄い」


 素直に感心するルシファーの死角から突き出した剣を、ルシファーは身を翻して避けた。よろめいたスイの首筋に、ひやりと刀が触れる。


「終わりだ」


「っ、ありがとうございました」


 宣言にスイは剣の柄を離す。からんと音を立てて落ちた剣を見ながら、悔しそうに唇を噛んだ。そんな彼女だが、膝を突いて礼を口にする。技術だけでなく、その心の有り様も見事だった。


「見事だった……っと」


 隙ありとばかりに複数の矢が放たれ、頭上から降り注ぐ。動かずに指先で触れて逸らしたルシファーは、パチンと指を鳴らした。新たに生み出そうとした武器を、乗っ取るような形で破裂させる。


「うわっ!」


 挑戦者は敵ではなく、大切な民だ。守るべき存在と考えるルシファーは、足元のスイに結界を張っていた。その上で、ルイにも結界を巡らす。破裂した魔法に驚いて声を上げたルイまで、一気に距離を詰めて刀を突きつけた。


 眼前、親指ほどの距離まで刃が迫る。ルイはぺたんと尻餅を付き、手にしていた弓を離した。


「参りました」


「よく頑張った。魔力操作が見事だったぞ」


 刀を収納空間へ放り込み、ルシファーは空になった手を差し伸べる。腰が抜けたのか、ルイはぎこちなく笑った。


「先に姉をお願いします」


「ん? ああ、失礼した」


 振り返って、スイへ歩み寄る。だが手を伸ばす前に、アスタロトが介入した。戦いが終わっているので、構わないが……。


「孫娘に気安く触れないでください」


「……勝者が敗者を労るのは義務、と言ったのは誰だったか」


「誰でしょうね」


 発言の張本人に笑顔で威圧され、肩を竦めて下がった。このあと模擬戦を行う相手なのだ。今からケンカ腰になる必要はない。


 スイとルイにケガはなく、ルシファーは少し考えてから銀の刀を鞘ごと取り出した。合わせて、過去の勇者が使用した弓も用意する。


「スイ、我が袖を掠めた技量は見事だった。この刀をやろう」


 魔王チャレンジで武器を賜るのは、一族の誉だ。この場合、日本人がその栄に浴す。


「ルイ。魔力を矢の代わりに放つ技、ならびに魔力操作の見事さが際立った。これをやる」


 弓をルイに渡した。受け取った双子は顔を見合わせ、嬉しそうに礼を言った。わっと観衆が湧き、拍手や歓声が飛び交う。


 今回、攻撃用の武器を賜ったのが双子、防御の盾をもらったのは巨人族の女戦士だ。フェンリルは肉をもらい、炎の精霊は再チャレンジの許可を得た。


 魔王チャレンジはいつも通りに盛り上がり、大きなケガや事故もなく終わる。ここからは太公による模擬戦だった。


 大公女達も戦えるが、模擬戦に出るほどの実力はない。そもそもリリスを支えるために集められたため、戦闘能力は必要とされなかった。


 彼女らが参加を希望するなら、魔王チャレンジの挑戦者に名乗りを上げるしかない。好戦的な竜人族のレライエは、子育てが終わったら鍛えて挑戦するらしい。


「では、準備が出来たら順番に……お相手いただきましょう。ルシファー様」

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