307.邪龍と呼ばれるお子様
久しぶりに再会した友人は、驚くほど縮んでいた。アギトは眉尻を下げる。
「なんて哀れな姿に……」
ほとほと涙をこぼすアギトは、邪龍と呼ばれる所以を遺憾なく発揮した。涙が落ちた場所の草が枯れ、身を預ける土が変色する。感情の浮き沈みで、周囲を腐食させる能力があった。
アギト本人は情に厚い、奇妙な収集癖を持つ変わり者だった。腐食能力が原因で、邪龍として名を馳せる。封印されたのは暴れたせいだ。
集落の谷が腐食の影響で脆くなり、原因である彼を同族が追い出そうとした。その際にケンカとなり、ルシファーが介入する。アギトが数人を故意に傷つけたので封印し、後日事情を知って、神龍族にも罰を与えた。ちなみに寿命の問題で、当事者達はもう亡くなっている。
龍と竜で種族は違うものの、同族と逸れた仲間と認識するアギトは、アムドゥスキアスに親近感を抱いていた。
「哀れじゃない! 綺麗で可愛くて強欲なお嫁様に貰われたし、子竜だって出来たんだからな!」
お前とは違う。言い放つアムドゥスキアスは胸を張った。と言っても、小さな状態なので迫力は皆無だ。ぬいぐるみのようなサイズで威張る。これでも魔族の中では、強者に分類されるのが不思議だった。
「お嫁様? 貰われた?」
尻に敷かれる翡翠竜を知る二人は苦笑いした。奇妙な表現に首を傾げるアギトへ、かいつまんで事情を説明する。ルシファーの話を飲み込んだ後、アギトはぽつりと呟いた。
「仲間だと思ったのに、裏切り者……」
「アギト、お前が色々拗らせてるのは知ってる。気の毒だと思うが、その言い方は違うぞ」
アギトを結界で包み、周囲に被害が出ないよう気遣うルシファーが叱る。不満そうに頬を膨らませる彼に、根気強く説明した。仲間だと思うなら、幸せになった翡翠竜を祝福するべきだ、と。
「でも……」
神龍達から距離を置かれて育ったため、アギトの精神は幼い。ただ感受性は強いので、仲間が出来れば変わるのだろう。すぐケンカになるのも、手加減を知らずに叩きのめしてしまうのも、彼が孤独な証拠だった。大人になる過程で覚えることを、誰もアギトに教えていない。
「友人なのだろう? 嫌がることをしてはダメだ。オレはお前を封印したくない」
「……どうして?」
「一人で眠り続けるのは寂しいはずだ」
しょんぼり項垂れる。
「図体の大きな子どもですね。私の漆黒城で番人を探していますが、勤める気はありますか」
ちらりとアスタロトを見たアギトは、おずおずと申し出た。
「僕にも出来る?」
「出来るかどうかではなく、やる気があるか無いかです」
「やる! やりたい」
「ではお願いしますね」
アギトは嬉しそうに尻尾を振った。びたんと大地に触れれば、そこから芽が生える。塞ぎ込めば腐食し、浮かれたら芽吹かせる。稀有な能力の持ち主は、ご機嫌で尻尾を振り回す。
普段から彼がご機嫌ならば、周囲に腐食毒を撒き散らすことはない。
「誰かとバカは使いようですね」
「すごく失礼な発言だぞ、アスタロト」
「おや、自覚がおありで?」
しまったと顔を顰めるが遅い。「誰か」か「バカ」が自分だと名乗り出た形のルシファーは、ぷいっとそっぽを向いた。この人も十分子どものままですね。苦笑いして、アスタロトはアギトに場所を指示した。先に行くと浮かれて飛び上がる彼は、翡翠竜へ親しげに鼻先を押し付ける。
「コカトリスとワイバーンの絶滅危機は、免れそうですね」
「あ……コカトリスの唐揚げ!」
頼まれていたんだっけ。捕獲に向かおうとするルシファーの襟を、ひょいっとアスタロトが掴む。
「ルシファー様、収納空間から出してください」
大量に保管しているはずですよ。言われて、掴まれた襟を取り返して正す。大量発生した時に駆除したコカトリスの存在を、すっかり忘れていた。収納から取り出せば、数百匹のコカトリスが確認される。今回の即位記念祭で調理される唐揚げ分は、しっかり足りそうだった。
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