ゴールデンウィーク初日

 5月1日土曜日。


 窓の外は雲一つない快晴だというのに、私は昨夜の出来事を引きずっていた。

ベッドに腰掛けて、何度も首をひねる。


 「古筆君、やっぱり怒ってるんじゃ……」

 

 「言い方がキツい」なんて、図々しい指摘だったと思う。

自分が言われたら間違いなくヘコむ。


 スマホで時間を確認すると、7時だった。休日でも割と早い時間に起きてしまう。これは高校に入学してからついた癖だった。


 「そろそろ降りようかな。でも――ん?」


 緑色の通知ランプが点灯していることに気づいて、無料通話アプリを開くと、

 母からのメッセージが画面に浮かび上がる。


 『ゴールデンウィークはどうするのー?古筆君と二人きり?』


 「そんなわけないでしょ!?」


 思わず大声を出してしまった。悪い雰囲気ではないけど、完全に気を許してないのに5日間も過ごせるはずがない。

母は絶っ対に私達の状況を楽しんでいる。

 すぐにキーボードを呼び出して文を打ち込んだ。

 

 『2人きりはない!

4日間は家に帰って、残りはまた古筆君のところにお世話になる予定だけど……』


 すると、すぐに既読がついた。どうやら母はアプリを開きっぱなしにしているみたいだ。1分もせずに返信が浮かび上がる。


 『ラスト1日、二人きりの日があるじゃない〜』


 「今の状況を何だと思ってるんだろう……」 


 付き合ってもいないのに、まるで将来結婚でもさせそうな勢いだ。


 『そんなに私と古筆君をくっつけたいの?』


 本音をぶつけた。既読はついたが、返事は打ち込まれない。

5分待っても画面は変わらなかった。

 一向に変わる気配のない画面を見続けていると、だんだん申し訳ない気持ちになってくる。 


 「ストレート過ぎたかな……。でもお母さんにも原因あるし」


 気づけば20分が経っていた。そろそろ下りないといけない。


 重たい気分でリビングに下りると、椅子に座っている古筆君と目が合った。

テーブルにはすでに食パンとジャム類が準備されている。

 どうやら、待たせてしまったみたいだ。


 「お、おはようございます」


 「おはよう」


 「待たせちゃってごめんなさい……」


 「僕が早く準備しすぎただけだから、気にしなくていいよ」


 いつも通りそっけなく言うと、古筆君は食パンをオーブントースターに入れた。その間に私は席につく。

 母とのやり取りで、気まずいとかいっている場合ではなくなっていた。


 「ふぅ……」


 思わずため息を吐くと、古筆君が怪訝そうに聞いてくる。


 「昨日のこと引きずってるの?」


 「少しだけです。それよりも厄介なことがあって……」


 「ふーん。それ、僕は関係ある?」


 「え?」


 まさか突っ込まれて聞かれるとは思わず、古筆君を見つめた。

 だけど彼の表情は至って普通。特別な意味なんてなさそうだ。


 (関係はあるけど、本当のことなんて言えるはずないし……)


 しかも楽しんでいるのは母だけだ。古筆君のお母さんも知らないことを話して、困らせるわけにはいかない。


 「い、いえ。関係、ないです……」


 「そう……。関係ないならそんなに悩まなくていいと思うよ」


 古筆君は明らかに納得してない顔だったが、それ以上は踏み込んでこなかった。

 何を思ったのかはわからない。ただ、気を遣ってくれたことは確かだった。



 朝食を終え、古筆君は洗い物を済ませると少し遠慮がちに声をかけてきた。


 「昨日、母から連絡があったんだ。

僕達の様子が気になるみたいで、最後の1日だけ帰って来るって」


 「そうなんですね……。あ、なら私、5日の夕方に帰ってきましょうか?」


 (古筆君だって、お母さんと過ごしたいだろうし)


 しかし、彼は力なく首を横に振った。


 「君が気を遣わなくても大丈夫。むしろ母は僕がちゃんとできてるかを見たいって言ってたからね。逆に居てくれないと困るかな……」


 「わ、わかりました。じゃあ予定通り4日の夕方に帰ってきますね……」


 (居てくれないと困る……)


 古筆君の言葉を繰り返す。

深い意味はないのだろうけど、必要とされているみたいで少し嬉しかった。

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